消せない傷跡 12

「マキに・・・、頼まれたから・・・殺した・・・?

何もしていないのに、・・・人を殺すのは、犯罪じゃない!」


ヒステリックな声が教室に響く。

まさか、こんな声をマリアの口から聞く事になるなんて思ってもいなかった。



「だっ、だって、資料には書かれていたじゃないか!

マキがイジメの首謀者であると、3人が証言したって!

普通・・・・、皆がそう言うなら、信じるだろ!」


負けずに俺も、マリアに対抗し大きな声を出す。

しかし、何故だか声が裏返ってしまう。



「でも、資料の5ページ目には、

マキが5年生の時、カナコ達3人にイジメられてたという目撃情報が、書かれてたじゃない!」



資 料 の 5 ペ ー ジ 目 ?



「親に虐待され、一時期施設で育てられた事も書いてあった。

その事を、ずっとからかわれ、イジメられていたマキは加害者なの?」



施 設 ? 虐 待 ?



「身体の傷を見て!これが何よりの証拠よ!

これでもまだ・・・・・まだ・・・・マキを殺さなくてはいけない程の犯罪者だと、涼は思うの?」


そう言い、マキの身体を抱き起こし、洋服を捲ると背中を露出させた。

すると背中には、火傷の痕や切り傷が、数え切れない程、背中いっぱいに広がっていた。


その傷を見た途端、吐き気が起り、俺は思わず口を押える。



「他の人なんてどうでもいい!別にカナコ達が死刑にならなくたって、どうでも良かったの!

ただ・・・、マキだけは・・・マキだけは救いたくて・・・・・」


そう言うと、マリアは俯いた。

涙は流れていなかったけど、もし俺達に涙を流す能力があったとしたら、きっと泣いていたに違いない。

マリアは今、とても悲しんでいる。



そんなマリアの心情を察した俺は、


「でも、マキはマキでアリスじゃないよ。混ぜて考えたらダメだ・・・」


少しでも励まそうと、そう言った。

すると、マリアは



「マキとアリスを重ねてなんていないわ。

・・・ただ、マキと私自身が重なっただけ・・・・。

マキは昔の私と同じだから・・・・、だから・・・・助けたかっただけなの・・・・」



まるで、頭を拳銃で打ちぬかれたみたいな、そんな衝撃が脳裏を走った。


俺は・・・・マリアの足を切断してしまった・・・?

マリアを・・・殺してしまった・・・?


突然、強烈な眩暈に襲われ、俺はその場に跪く。


マリアは、マキの事を抱きしめたまま、俯いている。



それから10分くらい時間が経った頃、慌しい数の足音と共に、


「遅くなりました!救護の者です!お怪我している方はどなたですか?」


数名の救護班の人達が、教室に現れた。

白衣を着た、いかにもな人達。



俺は、無言でマリアの方を指差すと、


「ありがとうございます!では、こちらへ・・・」


礼を言い、マリアの肩に手をかける。

マキの事を指差したのだけれど、どう見てもマキはすでに死んでいる。

救護班に依頼したのは、怪我人の手当て。

死んでいる人間に用はない。

だから、生きているマリアが怪我をした人物だと思ったのだろう。



すると、マリアは顔をあげると、


「早く手当てをして下さい。お願いします」


と、腕の中に居るマキを差し出す。

しかし、マキは死んでいる。


それを見た救護班は、一瞬困った顔をしたが、


「そちらはすでに亡くなってます。我々には助ける事が出来ません。

置いていきましょう」


優しく諭した。

しかし、マリアはその事が理解出来なかったみたいで、



「早く助けて下さい!じゃないと、マキが死んじゃうから!!」


ヒステリックな声を上げ、叫ぶ。

そんなマリアの様子に、救護班は困り、互いに顔を見合わせると、



「あの・・・・、わかりました。では一緒に行きましょう」


引きつった顔を必死に誤魔化しながら、マリアごとストレッチャーに乗せ、教室を後にした。

最後に残った一人に、


「貴方も運びましょうか?」


と、尋ねられたが、丁寧にお断りをした。

怪我なんてしていないし、何より今はマリアと顔を合わせたくない。


そんな事より、確認したい物があるんだー・・・・・。



足音が完全に聞こえなくなった後、ゆっくり立ち上がると、フラフラ教室を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る