第96話過去との決別 4



「死ね!カスが!!!!」


足が動かないなら、手を振り回せばいい。

だって俺の腕には、剣があるのだから。


マリアを攻撃する 物 を、剣で排除しようとした時、



「やめろ!!」


俺の剣が届くより先に、何かがモンスター達の頭に当たった。

パラパラと崩れていくモンスター達を確認すると、



「大丈夫?マリア!」


ハヤトだ。

倒れているマリアの傍に駆け寄ると、彼女を抱き起こした。

声は聞こえなかったけれど、微かにマリアの指が動いた気がしたから、生きている。

それだけは、確認する事が出来た。



安心したと同時に、複雑な気分。

ハヤトもようやくモンスターを討伐する気になったのか。

といっても、俺達が必死に討伐している時は何もしなかった癖に、

仲間がピンチの時だけ、漆黒の翼を起動し、いい所を持っていくってどういう事だよ!

セコい奴だ!


ヌンチャクを頭に食らったモンスター達は、その場に崩れ落ちて行った。

しかし、あの一撃くらいで、死ぬ訳はなく、



「仲間がっ・・・・、襲撃に来た・・・ぞ・・・」


再びバットを握ると、モンスター達はヨロヨロと起き上がっていった。

絶体絶命に陥ってるというのに、ヒーロー気取りのハヤトは気づいていない。

それどころか、マリアと何かを話している。


くそっ!何してるんだ!



「伏せろ!」


そう叫ぶと、そこに居たモンスター達全員の首を跳ねた。

ハヤトを助けたんじゃない。

マリアが心配なだけだ。



俺がイジメられている時、助けてくれなかった癖に、再び俺達に牙を向く。

本当にこいつらは、最低な 奴 だったよ。


「油断していた・・・・ありがとう・・・」


マリアを庇うように伏せていたハヤトが、微笑みながらゆっくり顔をあげる。

お前に礼を言われる筋合いはないんだけど。



「別に。で、マリアは大丈夫?」


ハヤトの腕の中に抱えられているマリアの顔を覗く。

固く目をつぶったまま、荒い呼吸をしているが、とりあえず一命は取り留めているみたいだ。



「大丈夫、生きてるよ。しかし、こんな事になるなんて・・・・・」


こうなる事が想定外だったとでも、言うのだろうか?

人は支えながら生きている なんて、今でも信じているのだろうか?

それは、違うだろ。

こうなる事はわかっていたはずだ。

人が支えながら生きているのなら、何故自殺している人間が年々増えている?

何故、俺達みたいな劣等感を抱いた人間が増えていくんだ?

答えろよ!偽善者!



「どうでもいい。早く、この薬をマリアに飲ませるんだ」


真鍋さんから預かった薬を一錠取り出すと、ハヤトへ差し伸べる。

すると、ハヤトはそれを受け取ると、マリアの口元へそれを運んだ。



「どの位の時間が経てば、効果が出るんだろう?」


そんなにすぐに効果があらわれるはずないのに。

でも、もう薬を飲ませたから、大丈夫だろう。

ゆっくり休めば、傷も塞がる。

まだ元気な姿は見ていないけれど、俺は真鍋さんを信じている。


マリアの事は、ハヤトに任せるとしてー・・・・・、

俺は、二人に背を向けると、歩き始めた。




「何処に行くんだ!」


ハヤトに呼び止められた。

ため息を付き、振り返る。

いちいち、説明を求めるなんて、マジメンドクサイ奴だ。



「グラウンドのモンスター討伐は、ミカに任せるよ。

もうあいつを止める事なんて、誰も出来ない。

自分の苦痛が癒えるまで、人殺しを止めないだろうし。


俺は、校舎に逃げたモンスターを狩ってくる。

ハヤトはマリアの事を守ってやってくれ」


俺には、まだやらなくちゃいけない事があるんだ。

過去と決別しなくてはならない。

そう。

あいつらを、狩らなくてはならないんだ。

そうしないと、俺は前に進む事が出来ない。

この忌々しい呪縛から、逃れる事が出来ないんだ。

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