第70話目の前に居る者 5

「あの・・・、真鍋さん。

聞きたい事があるんですけど・・・・」


とりあえず、1番気になる事だけでも聞いておこう。

勇気を持って、尋ねてみると、



「え?何かしら。一応、一通り話したつもりなんだけど・・・」


驚いた顔をする、真鍋さん。


いや、それはない。

話していない事の方が、断然多い。

それだけは、胸を張って言えるけれど、言えばややこしい事になりそうだから、黙っておこう。



「いや、違うんです。漆黒の翼を埋め込まれた身体の事で・・・その・・・」


「身体?だから、怪我はもう治ってるって!ウソだと思うなら、包帯を取ってみなさいよ!」



「そうじゃなくて!その・・・。

俺達は、漆黒の翼があるから、無敵だと思っていました。

そこら辺の居る奴らよりも、断然強いって・・・」


聞きたい事は、これだ。

普通の人間よりも、優れた 者 になれたと思っていたのに、監視の奴が放った たった1発 の弾で倒れた。

優れた 者 が、普通の人間の、たった1回の攻撃で倒れる程、弱いなんて、信じられない。

それが、気がかりだったのだ。



「強いわよ。だって、私達一般市民は、腕から剣なんて出てこないから」


俺が、優れた者 になれたと思った理由は、まさにそれ。

腕から剣を取り出せるから、最強になれたと思ったのに。



「でも!たった一発の弾で倒れました!

それは、何故ですか?!俺たちは、最強の人間になれたと思っていたのに・・・・!」



「何故って、そりゃ足撃たれたら倒れるでしょ。

だって、身体自体は 生身の身体 なんだから」


ケラケラ真鍋さんは笑い始める。

生身の身体? ウソだ!だって、施設へ入った当初、ハヤトは言っていた。

チップを埋め込んでいない人間よりも、どの面でも、勝っている と。

俺達は超人であると、言っていたんだ!



「まぁ、多少体力とかの面では勝っては、いるけれどね。

でも、怪我しない訳でもないし、死なない訳でもない。

心臓を刺されたり、首を切られたり、脳を破壊された時点で、貴方達は死ぬわ。

そこら辺は、普通の人間と同じ。

だから、死にたくなければ、次からはしっかり自分の命も守る事!良いわね!」


そう言うと、真鍋さんは部屋から出て行った。

俺も、去っていく真鍋さんを、引きとめようとは思わなかった。

だって、一人になりたかったから。



俺は愕然としていた。

最強じゃない?超人じゃない?

なら、俺達は、なんなんだ・・・・。

ただ、腕から剣を取り出し、罪人を殺していく、俺達は何者なのだろう?




窓の外が暗くなった頃。


コンコン。


扉をノックする音が聞こえた。

看護師さんも真鍋さんも、ノックなんてせずに勝手に出入りするのに。

まさか、お見舞いにでも来たのだろうか?


生まれて初めて、誰かがお見舞いに来てくれた・・・・。

この出来事に、ドキドキしながら、



「どうぞ」


部屋に入る事を許可すると、



「こんばんは。怪我をされたと聞いて、居ても立ってもいられなくなってしまって・・・・」


その声は、まさか・・・・!嫌、そんなハズはない!

そんな事を考えていると、声の主はヒョコっとカーテンの隙間から顔をだした。


この前、俺達を晩餐会に招待してくれた女王様だ。

女王様が、わざわざ俺に会いに、病室まで来てくれたのだった。



「女王様・・・・!なんで、こんな所に・・・・」


わざわざ俺を尋ねて来るなんて信じられない!

アタフタしていると、



「足、大丈夫ですか?涼さんが怪我をしたと聞き、凄く驚きました」


心配した表情で、俺の顔を見つめる。

なんて事ない行動なのだろうけれど、そんな経験がない俺は、思わずドキドキしてしまう。



「あの・・・・、大丈夫です!真鍋さんが作った薬を投与してくれて・・・その・・・」


俺自身、真鍋さんからさっき聞いたばっかりなんだけど、女王様を安心させる為に話した。

すると、



「え?とうとう薬が開発出来たのね!凄い!

そして、それが早速、涼さんの役に立てたなんて、真鍋を信じていた甲斐がありました」


女王様は、両手を合わせ、とても喜んでいた。

そんなに喜んで貰えるなんて、なんか俺も嬉しいかも。


そっか・・・・、この薬って凄い事なんだ。

さっきまで、この薬を不安がっていた自分が、とても愚かに思えた。

だって、女王がここまで喜ぶ程の薬なんだ。

それを投与された俺は、凄く恵まれた奴なんだと思う。

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