第71話目の前に居る者 6

「だから、安心してください。

俺も早く、怪我を治して施設に戻りますから」


俺の考える事は、ただ1つ。

たかが足を撃たれた位の怪我を、心配させたくなかった。

それだけの事だったのだけど、



「いいえ、ここでゆっくり休んでください。

ずっと、モンスター討伐に追われていたのでしょう?

根をつめすぎると、疲れてしまうから。

これを機会に・・・・」


なんとなく、今の言葉を聞いて、女王様は俺がミカを殺そうとした事を知っているのだろうか?と、気になった。

女王様と真鍋さんは、ミカに対して冷たいから。

ミカの事は大嫌いだし、興味はないのだけれど、

どうしてこんなに優しい慈愛に満ちた人が、ここまでミカの事を嫌うのか?それだけが気がかりだった。



「あの、ミカの事ですが・・・・」


ミカという言葉を言った途端、女王様の表情は少しだけ曇った気がする。



「えぇ、ミカがどうかしたかしら?」


「何故、ミカみたいな奴に漆黒の翼を埋め込んだのか?気になったので・・その・・・・」


やはり、ミカについてはあまり突っ込んで欲しくなかったみたいで、女王様は困った表情のまま、黙り込んでしまう。



「いえ!いいんです!全然答えたくなければ、答えなくていいですから!

それより、その・・・、モンスターの事で質問があって・・・その・・・・」


「モンスターの事?何かしら?」


「最近、モンスターの中に、小さな子供やおじいちゃんおばあちゃん達が混ざっていて・・・」


「えぇ、モンスターには性別も年齢もないから、色んな 物 が混ざっているでしょうね」


「そのモンスターが、俺に言ったんです。

カードを盗まなければ、イジメられる って。

その子達も、果たしてモンスターなのでしょうか?」



女王様に対して、俺が取った行動は、生意気だっただろうか?

現に女王様は、口を固く閉ざしたまま、数分が経過していた。


この空間に居るのは、俺と女王様の二人っきり。

だれかに尋ねる事は出来ない。



女王様は、しばらく悩んだ後、ようやく口を開いた。


「その子は、元 はモンスターでは無かったわ。

むしろモンスターに襲われている、被害者だった。

でも、カードを盗む事により、その子はモンスター側に足を踏み入れてしまう事になった。


自分の身を守る為の、窃盗なのかも知れない。

たった1個のカードを盗んだだけかも知れない。

けれど、たった1個 でも罪は罪。


盗まれた側の気持ちを、涼君なら考えられるでしょう?」



盗まれた側の気持ち。

確かに、俺ならその気持ちを理解できる。


ハヤトやミカには、きっと理解出来ないだろう。

だってあいつ等は、自分達の目に入った表面的な物の事しか、考えられないから。

更に奥へとは、踏み込まない。

いや、踏み込むことが出来ないんだ。

だって、興味がないから。

自分達さえ、平和に暮らせるならそれでいい。

あいつらの考える事は、それだけだ。



「えぇ、わかります。

でも、その子が・・・・俺は可哀相だと思いました。

カードを盗まなければ、その後、イジメが悪化し自殺するかも知れない。

どちらにしても、その子に待っているのは 死。

生きる道を選べない、その子の事が・・・・」



あの子は、昔の俺だから。

生きる事 だけを、必死に求め、生きる道 を探し続けた、あの頃の哀れな俺自身。




「そうね、確かに可哀相だわ。

だから、私はそういう人たちを救いたいの」



そう言うと、女王はこちらへと近寄ってくる。


何をするのだろう?と、考えていると、

俺の右手を、両手で握りしめた。

思わぬ行動に、俺はビクっと驚く。

しかし、それでも女王は、手を離そうとはしない。


女の人に・・・・・、しかもこんなに綺麗な人に、手を握られるなんて・・・。

ドキドキ鼓動が高鳴る。

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