第64話王女 5



「ほら、食えよ。お前が贅沢できてるのは、俺達のお陰なんだからな!」


目の前に、差し出された給食。

食材の上には、消しゴムのカスが振りかけられていた。


食べるはずないじゃない。

こんな汚い物。


私は食べずに、だまって ソレ を見ていると、



「食えって、言ってるだろ!」


後ろから頭を押さえつけ、給食へと顔を近づけされる。

私はひたすらそれに抵抗していると、



「やめなさいよ!今、先生呼んで来たんだからね!」


一人の女の子が、叫びながら、教室へ入ってきた。

その言葉を聞いた途端、



「うわー!真鍋の奴、チクったなー!」


私の周りに居た子達は、走って廊下へと逃げていく。

逃げるなんて、ダサイわ。

下らない。



その様子を、ボーっと見ていると、



「給食、取り替えてあげる。こんなの食べられないでしょ?」


目の前においてある給食を、運ぼうとする。

別に、私は給食なんて、食べなくたって平気なのに。

お城へ帰れば、もっと美味しい物がいくらでも食べられる。

飾りだけの女王と言っても、食べる物には困っていないのだから。



「いらないわ。別に、食べなくても平気よ」


そう呼び止めると、


「ダメ!折角おばさん達が、一生懸命作ったんだから!」


女王である私に、そう怒ると、勝手に給食を新しい物と取替えてきた。


「はい、どうぞ!いくら女王だからって、残しちゃダメよ!」


そう言うと、自分の給食を持ってくると、私の目の前に座り食べ始める。

変な子。

それが、彼女に対しての第一印象だった。



「一緒にご飯食べたって、魔法なんて使ってあげないから。

魂胆が見え見えよ」


そう言うと、私も給食を食べ始める。


皆、そうなんだ。

近づいてきて、ご機嫌を取るのは、魔法が目当てだから。

私、本人じゃない。


目の前に居る、この子だって、例外ではない。

だから、先に忠告してやらないと・・・・!

しかし、この子は、真顔で



「別に魔法なんて興味ないわ。

あんなニセモノ、私は認めていないから」


シラっと、女王である私に暴言を吐く。

ニセモノ?そんな訳ない!

魔法は、本物よ!

だって、お母様はそれが原因で亡くなったのだから!



「女王である私に、ニセモノだなんて、よく暴言が吐けたわね!

魔法は本物よ!お母様は、それで何万人という、国民の命を救ったのだから!

命と引き換えに、国民を救ったお母様を・・・!ニセモノだなんて・・・・!」



立ち上がり、そう怒鳴ると、



「だから、ニセモノだって言ってるの。

人の命と引き換えに、傷を治すだなんて、絶対に変!」


目の前の子も、立ち上がり、怒鳴り始める。



「変?何が変だって言うの?

変とか言いながら、お母様に頼りきったのは、貴方達国民の方なのよ!

私は、絶対に魔法なんて使わないから!

国民なんて、救いたくもないわ!」


お母様が亡くなった時、私泣かなかったのよ。

だって、そうなる事がわかっていたから。


でも、悲しくなかった訳じゃないの。


国民に利用され、一人で死んでいったお母様を可哀相だって、ずっと思っていたから。

一人ぼっちで殺したのは、私だけれど・・・・、だけど・・・・・。



自然と涙がこぼれていた。

本当は、お母様を一人ぼっちで死なせたくなかったのに。

だけど、お母様を看取る程、私は優しくはなれなかった。

そんな、涙。

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