第62話王女 3
扉の前は、兵士が見張りをしている。
お母様に用がある場合、初めにその兵士に用件を取り次ぐのだけれど、
「女王様!うちの嫁が屋根から落ちて・・・・、魔法をお願いします!」
大体の国民は、それをしようとはしない。
大声を張り上げ、自分の意見のみを主張する。
お母様は、体調が悪くて眠っているのに!
あんな大声を出したら、起きてしまうじゃない!
しかし、国民にとって、お母様の体調なんてどうでもいい事。
「女王様は体調を崩され、休んでおられます。今日の所は・・・・」
と、兵士が宥めると、
「この役立たずが!何が女王だ!こっちは税金を納めているのに!
嫁が死んだら、お前のせいだからな!」
お母様に罵声を浴びせ、帰って行く。
最近、よく見る光景。
お母様が、起き上がれなくなり、魔法が使えなくなってからというものの、
国民達は暴言を吐くようになった。
私はいつも、この位置から、お母様に暴言を吐き、立ち去っていく国民達を眺めている。
死ねばいいのよ。
そんな大柄な態度しか取れない、愚民達なんて、この国に必要ないわ。
今まで散々、お母様の魔法に世話なった癖に、
その魔法が使えなくなったと知れば、暴言を吐き立ち去る。
これが、私の事なんかより、優先し大切にした国民達の本当の姿。
許せない。
ゆるせない。
ユルセナイ。
全て消えてしまえばいい。
こんな愚かな国も、国民も私には必要がないの。
私はこうはならない。
必死に寿命を縮め、国民を助けるなんて、絶対にしない。
そして、その時はやって来た。
「リサ様!女王様に容態があまり良くないので、早くお部屋へいらして下さい!」
召使が血相を変えて、部屋へと入ってきた。
容態なんて、ずっと良くないのに、今更何を言っているのだろう?
あまり良くない・・・ではなくて、お母様は今晩中に息絶えるって、ハッキリ言えばいいのに。
覚悟していたわ。
こんな日が、いつかは来るって。
「行かない。ここでお母様が亡くなるまで、待っている」
動こうとはしなかった。
「そんな事言わずに、さあ早く!」
無理やり、私の腕を掴み、連れて行こうとする召使の手を振り払うと、
「嫌よ!絶対に行かない!
これは、お母様への罰!
私より、国民を優先したお母様は、一人で寂しく死ねばいいの!」
そう叫んだ。
これは、お母様に対しての復讐。
小さい頃から、ずっと私に寂しい思いをさせ続けた、お母様へ私が下した罰。
一人寂しく、死んでいけばいい。
そして、私が味わった 孤独 を、身を持って味わうが良い。
親に対して、こんな態度を取れば、もしかしたら神様から見放されるかも知れない。
天罰を受けるかもしれない。
でも、それでもいいの。
覚悟しているわ。
寂しい思いをする位なら、罰を受け、苦しむ方がいい。
苦しめば、寂しいなんて考える余裕さえ、きっと無くなるはずだから。
私は、籠の中の鳥。
一人で自由に飛び回る事なんて出来ないの。
私の発言に驚いたのか?召使は、しばらく制止した後、無言で部屋を出て行った。
あぁ・・・、また私、変な子って思われたわね。
でも、それでいいの。
私は変な子。
もう撤回する事なんて出来ない。
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