第52話晩餐 1

「涼君!ご家族の方から、電話よ」


朝食を食べ終え、食堂から出てきた俺に、寮母さんが駆け寄ってきた。

あぁ・・・・、家族からの連絡ねぇ・・・・。


今まで全く連絡して来なかった家族から、何故突然電話が来たのか?

俺には、理由はわかっていた。

それはきっと、あれだ。

部屋に積んである、ダンボールが原因だ。



「いや、電話には出ないです。切っちゃって下さい。

すみません」


寮母さんに頭を下げると、



「え?いいの?・・・・じゃあ、今手が離せないって、言っておくわね」


そう言い、再び走って、どこかへ消えた。



別に、ストレートに 電話に出たくないと言っている って、言ってくれて良いのに。

もう2度と、連絡取る気なんてないのだから。



部屋に戻り、ダンボールを開いた。

大量に敷き詰められている、紙幣・・・・金の山。

通帳を持たない俺は、真鍋さんから直接金を手渡されていた。

しかし、それをどう保存したら良いものか?わからなかったので、ダンボールの中に敷き詰めていたのだ。


金が手に入り、欲しい物でも買おう!と思ったのだけれど、いくら探しても見つからなかった。

ミカやハヤトは、ゲームとか本とか、バンバン買っているのだけれど、俺は欲しいとは思わない。



俺が一番欲しい物とは、


誰にも文句言われる事もイジメられる事もなく、

自殺の事を考えず生きていられる空間であり、

それが手に入った今、欲しい物なんてなかった。


俺が欲しかったものは、金では買えない物だったのだ。



大嫌いな息子に電話して来る程、奴らはこれが欲しいのか。

俺にしてみたら、ただの紙くず、ゴミだよ。



再び、ダンボールを片付けると、モンスターを討伐する準備をし始める。

さて、今日も1日頑張ろう。


モンスターを狩るんだ。


「うっわ!汚っ!クサっ!」


ミカは文句をブツブツ言いながら、モンスターを狩って行く。

ミカの漆黒の翼は、左腕についている、鋭い爪で、それでモンスターを切り裂く。

リーチが短い分、モンスターを切り裂いた際に飛び散る血が、

モロに自分の顔や身体に飛び跳ねるのが嫌で、いちいち文句ばかり叫んでいるのだ。



「・・・黙ってろよ・・・」


そんなミカの態度に愛想が着いた俺が、ボソっと呟くと、



「なんか言った?っていうかね!本当はアタシ、アンタの事が嫌いなんだからね!

真鍋の指示で、仕方がなく、組んでやってるんだから!」


勘に障ったみたいで、ギャーギャー怒鳴り始めた。

俺も、ミカの事が大嫌いだよ。



そんなやりとりをしていると、



「あら、私は涼君の事、好きよ」


聞きなれない声が、室内に響いた。


この声・・・・、聞きなれないけれど、聞いた事がある・・・!

声のした方向を向くと、見慣れない女性が立っており、



「私、涼君の事好きよ。だって、頑張ってモンスターを倒してくれてるから」


再びそう言うと、俺の方向を見て、ニッコリ微笑んだ。

この人は・・・・!



段々記憶が蘇っていく。

確か、この人は・・・・・、以前、俺にハンカチを貸してくれた、あの女性だ!


思い出した途端、俺は極度の緊張状態になり、


「あの・・・、ハンカチの・・・・」


言葉を詰らしていると、



「あら、覚えててくれたの?嬉しいわ」


女性は、その場で軽く飛び跳ねながら、喜んだ。


・・・・不思議な人だ。

真鍋さんも変わっているけれど、真鍋さんとはまた違う、別のオーラをまとっている。

そんな印象を受けた。



「・・・何?誰?この人・・・・」


ミカはそんな彼女を見て、嫌な顔をしている。

そりゃそうだろうな。

だって、ミカと彼女は、正反対のタイプだから。

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