第25話マリア 2

辺りを見渡すと、皆床に視線を向けたまま、無表情で座り込んでいる。



「ねぇ、マリアお姉ちゃん?夕食はいつなの?」



「夕食の時間になれば、シスターが呼びに来るわ」



夕食を食べる時間は決まっていないのかしら?

そういえば、この部屋に時計がない。

いいえ、時計どころか、勉強をする為の机も椅子も何も無い。


施設に来たのは、今日が初めてだから、他の場所がどうなっているのか?わからないけれど、

みんなこんな感じなのかしら?

思い浮かぶのは、疑問ばかり。



「なら、シスターが呼びに来るまで、お外で遊びましょう?

皆も一緒に!ただ座っているだけなんて、つまらないじゃない?」



立ち上がろうとした時、マリアお姉ちゃんが私の腕を力強く引っ張った。




「ダメよ、シスターに怒られてしまうわ。

夕食までは、ここで大人しく、待っているの」



「どうして、怒られてしまうの?

じゃあ、私!シスターに遊んでいいか?聞いてくる!

皆座ってるだけじゃ、つまらないでしょ?」



再び、私が立ち上がろうとすると、またマリアは必死に私の腕を押さえた。




「そんな事をしてはダメ。

お願いだから、私の言う事を聞いて、大人しく座っていて!」




マリアお姉ちゃんの行動の意味が、私には全く理解出来なかった。


どうして?ダメなの?なんで?


そう聞き返した所で、マリアお姉ちゃんは理由を話そうとしない。

他の子達に聞いても、首を横に振るばかり。



ココに来た時、私の頭の中には、疑問ばかりが浮かんでいた。

でもね、少しずつわかってきたの。


ココが、 どういう場所 なのか?って。


その時は突然訪れた。

勢いよく、扉が開く。

シスターがやってきたのだ。


その瞬間、私以外の子達は身体を小さく丸めた。


どうしちゃったのだろう?


私以外の子達は、顔を上げようともしない。




「夕食の時間です」


シスターは、一言だけ話すと、何処かへ歩いていった。

それに従い、皆、俯いたまま、一人、また一人と部屋を出て行く。




「アリス、行きましょう」


私も、マリアお姉ちゃんに引っ張られる形で、部屋を出た。

皆、俯きながら、廊下を歩いていく。

私達も、その中にまぎれていた。


歩く音しか響かない廊下。

なんだか、不気味だわ。


そんな静寂が嫌になり、私は



「今日の夕食は・・・・」


そう、マリアお姉ちゃんに声をかけようとしたその時、

マリアお姉ちゃんは人差し指を唇の前にかざすと、



「喋っちゃダメ」


小声で囁いた。




すると、前方を歩いていたシスターが立ち止まり、振り返ると、



「今喋ったのは誰?アリスかしら?

アリスはまだ、今日来たばかりだから仕方がないけれど、次うるさくしたら、お仕置きするわよ」



怖い顔をしながら、そう言い放った。



私はうるさくなんてしていない!

ただ、マリアお姉ちゃんに声をかけただけなのに!



でも、シスターが怖い・・・・・。

そう思った私は、



「ごめんなさい」



素直に謝った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る