死の株バイヤーの外さない予想
ちびまるフォイ
こいつが今度は死ぬはずだ。
「だから!! この地域が一番いいんですよ!」
「この治安の悪さなら人が死ぬに決まってます!」
「この瞬間にも死株は買われているんですよ!?」
死の株式市場は今日もバイヤーの怒鳴り声が響いていた。
バイヤーは買い手にどの株がねらい目かを伝えて株を買わせるのが仕事だ。
いわば予想屋。
その中でも俺はぐんを抜いて優秀だった。
怒鳴ったり、せかしたりして強要することはない。
「いいですか、この地域は平地が多いです。風の影響を受けやすい。
春先になるとみなさん外へ出てきますよね。
ちょうど温帯低気圧が近づいているので台風が来ます。
となると、巻き込まれる人が多くてたくさん死ぬはずです」
「なるほど! ありがとうございます!」
こうして買い手は今、狙い目の株をわんさと購入する。
俺はあくまでも理詰めで株のよさを伝えていく。
信頼と実績の手法だ。
死の株が買い占められれば株価が上がり、俺にも儲けが入る。
「本当にここで人が死ぬんですよね」
「ええ、もちろん」
数日後、大事故が起きて多数の人が死んだ。
けれど、それは俺の予想した地区ではなかった。
『今朝がた起きた化学薬品工場の爆発事故の死傷者は
のべ1万人にもおよぶとみられ、この地区の株を買っていた人は
いっきに換金されてお金持ちになっています』
ニュースで工場の爆発事故が報道されて言葉をうしなった。
あそこはセキュリティもしっかりしていたのに。
「ちょっと! どういうことなんですか!」
「ぜんぜんちがうじゃないですか!」
「あなたの予想外しっぱなしですよ!」
「もうちょっと待ってください! 今に起きますから!」
買い手は死の株の予想が的中するまでは換金できない。
それだけにほかの人間が良い思いをすることを許せなかった。
その後も、交通事故、火事、殺人事件などなど起きたが、
ことごとく俺の予想ははずしてしまった。
「ダメだよ、このバイヤー。ぜんぜん当たらないじゃん」
「ちがっ……ちがいます! こんなに事件が起きる方が難しいんです!」
「ほかのバイヤーが紹介した株はばんばん当たってるのに。
まったく、こいつの予想は当てにならないな」
買い手はどんどん俺の手からこぼれるように去っていった。
「いったいどうなってる……? 前までは俺が一番だったのに。
それに、こんなに頻繁に人が死ぬなんてやっぱりおかしい」
そこでほかのバイヤーがどうやって売っているのかを観察した。
売り方は普通だったが、その後の手法が俺とはちがった。
バイヤーは株を売った後で、自分の株のエリアで事件を起こしていた。
それも気付かれないように。
俺は思い切って声をかけた。
「おい! お前なにしてる!」
「ひっ! ……って警察じゃなくて、同じバイヤーかよ。驚かせるな」
「ここで何してるんだよ」
「ああ、ちょうど時限式の発火装置をセットしていたんだ。
ここが燃えればたくさんの人が死ぬだろう」
「やっぱり。死の株を的中させるために自分で人を殺してたんだな」
「バイヤーは株を買われてなんぼの生き物だ。
それには的中して実績を作る必要があるからな」
相手は悪びれもせずにすらすらと言ってのけた。
「で、どうする? 説得でもするのか? それとも殴って解決か?」
「いや、もっと他のバイヤーにも広めよう」
「そうこなくっちゃ!」
俺はこの株の売り方をほかのバイヤーにも余すところなく伝えた。
他のバイヤーたちも喜んでこの手法を行った、
「これで必ず的中するぞ!」
さらに買い手にもこの手法の存在を伝えて、売り上げを伸ばした。
「この手法をやってるバイヤーなら必ず的中する!」
買い手と売り手がお互いを信頼して株を買いまくる市場ができあがった。
その後、俺の予想通り長くは続かなかった。
「え!? セキュリティがきびしくなった!?」
「もう死ねる人がいないってどういうことだ!」
意図的に事件を起こし続けたことでみんな警戒して死ににくくなった。
人の数も減ってしまい、これ以上は殺すこともできない。
「うあああ! 株価が大暴落だぁぁ」
自分で殺せなくなったバイヤーたちは実績を作れなくなり大暴落。
その中で、俺の株だけはバカ売れしていた。
「お前、いったいどんな魔法を使ったんだ?
この時期に買われる死の株なんてないだろう?」
「セキュリティも厳しい、人も少ないから死ににくい。
どうやってこれから死ぬ人を予想できるんだ?」
バイヤーたちはげっそりとやせた顔で俺に聞いてきた。
もちろん、俺は教えるつもりはない。
俺の予想は買い手にだけ伝える。
「ええ、この株は狙い目ですよ。
バイヤーは今、大暴落の憂き目にあって間もなく自殺します。
そうなれば一気に設けられる大チャンスです」
バイヤーの死の株はまた1つ売れていった。
死の株バイヤーの外さない予想 ちびまるフォイ @firestorage
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