こはん

 サーバルが連れてきた、ヒトの特徴をそなえたかばんという存在。

 

 サーバルについてはドジだとかも言われてますが、かばんについてはどこで話を聞いてもいい評価しか聞きません。

 あの気難しいツチノコでさえ……やはり、不思議な魅力があるのではないかと思うのです。


 そんな中でもとりわけかばん、そしてサーバルにとても感謝していたのは、湖畔こはんに立派な居を構えるふたり――アメリカビーバーとオグロプレーリードッグなのです。


 このふたりのフレンズはそれぞれ別々に家を建てる計画を立てていて悩んでいたのですが、サーバルと、そしてかばん。このふたりとの出会いがあって初めて共同で家づくりをするに至り、信じられないほどの短期間で完成させることができた、ということだそうなのです。


 どこのちほーへ行ってもふたり以上のフレンズ同士で助け合っている姿を見ることは少なくありません。

 

 ですがこのふたりのフレンズほど、お互いの長所を引き出し、息がぴったりであるコンビというのは、なかなかお目にかかれないでしょう。


 あ、もちろんわれわれ博士と助手こそがもっとも素晴らしいコンビですから。われわれは固い絆で結ばれてるので。あうんのこきゅーなので。


 見せてみろって? いいでしょう。われわれの鳴き声を聞けるなんて、めったにない機会ですよ。感激するといいのです。助手、いきますよ。



 ほーほー、ほーほー

 ほーほー、ほーほー



「いやあーーーーービーバーどの、やはりこの家は実に快適でありますな! 一日の疲れも吹き飛ぶのであります!」


「プレーリーさん、今日もお疲れさまっスよ。あれ以来オレっちとビーバーさんは建築のすぺしゃりすととか言われてひっぱりだこになっちゃったっスもんね。落ち着いて休もうと思って建てた家だけど、なかなかだらりとはできないっスね」


「ただ闇雲に穴を掘るよりはずっとマシでありますよ! ビーバーどのがいてくれるから、私もあれから生き埋めになりかけることも少なくなってるであります!」


「……あはは、でもできるならもっと減らそうね」


「了解であります! 尊敬するビーバーどののおっしゃることでしたら、なんでも従うでありますよ!」


「ふふ、ありがとうッス。プレーリーさんがいてくれなかったら、オレっちもたぶんまだあれこれ考えてなかなか家を建てられずにいたと思うッスよ」


「……び、ビーバーどの……」


「たぶん優柔不断なオレっちには、迷わずすぐに動き出せるようなプレーリーさんのようなフレンズといるのが、いちばん合ってるんだと思うんスよ。オレっちとビーバーさん、自分で言うのも恥ずかしいッスけど……いいコンビ、だと思わないッスか?」


「おおおおーーーー! ありがたきお言葉でありますよ! 実は私も、ビーバーどののことはもうファミリーのように思ってるでありますよ! 幸せすぎて穴を掘りたくなっちゃってうずくであります!」


「そ、そんなに手をうずうずさせて……あ、あいさつするッスか……? アレは今もあんまし慣れないッス……」


「プレーリー式のごあいさつはいいでありますよ! 素直な気持ちの発露であります! ……そ、それとも、イヤでありますか……? それならもうしないでありますが……」


「え!? い、イヤってわけでは……――んむぅ!?」 



 プレーリーはもじもじしていたビーバーの口をふさぎます。


 プレーリー式のごあいさつとは。プレーリードッグ特有のフレンズ化する前の習性で、互いの口でキスをしたり……抱き合ったりするあいさつなのです。

 直情型のプレーリーらしい習性といえるでしょう。


 なに? あなたたちもごあいさつしたい? 

 

 ……われわれにはそのような習性はないですので、謹んでご遠慮させて頂くです。謹んで。



「――んはァっ」


 ふたりが口唇部を離す。

 口づけあう挨拶を交わしたふたり。

 

 顔を離したふたりの頬は、ほのかに上気していたようにも見えたそうです。

 

 なぜ口と口をつけるしぐさに、恥ずかしさが伴うのでしょう……われわれにもよくわからない感覚なのですが……ヒトよ、あなたたちならばわかるのではないですか?


 え、機会がない? そうですか。



「……プレーリーさんはいつもいきなりなんスよ……」

「かたじけないであります……自分、一度やりたいと思った衝動は抑えられないのであります……!」


「プレーリーさんは、かばんさんの発見について、博士から聞いたッスか……?」

「なんでありますか? 我々にあれだけ役立つ知恵を下さったかばんさんのことです、きっとまた素敵なことなのでありましょう……!」

「うん……そうッスね。きっと、とても、いいことだと思うッス」


 叡智ターンきました。

 え? 叡智はエイチ、エイチはH? 


 あなたは何を言っているのです?


「な、なんでありますか!? だ、脱皮でありますか!? わ、我々の種でもそのようなことができるのでありますか!? 我々の習性だとそんなことは――」


「これはヒトの習性、だそうッスよ。心を許した相手には、こうやって……無防備に身体をさらすのだそうッス……フレンズ化したオレっちたちも、ヒトのような皮一枚になれるみたいッス」


「……はぇー……博士の話が理解できるでありますか。ビーバーどのはやはり物知りでありますなぁ……! さすがは勤勉さの象徴となるだけはあります……! 尊敬であります!」


「プレーリーさんは、そうやってストレートに思いを伝えてくれるッス……それが、オレっちにはとてもまぶしくて、うれしくて……」


「ビーバーどの?」

「プレーリーさんも……どうか皮を脱いで欲しいッス……」


「なるほど……! ビーバーどのの頼みならお安い御用であります! それにしても……私も、なんでありましょうか……この、湧き上がる気持ちは……」

「その気持ち……たぶんオレっちと同じものッス……いや、同じものだといいなあと思うッス……!」

「……ビーバーどの!」



 その日の夜は、そのままの無防備な姿でふたり身を寄せ合って、家を建てる時に作ったベッドの上で眠りについたそうです。



 ……なんですか? われわれはまだ眠くないですよ? われわれは夜行性なので。


 共に眠りたいのならば、耐えるがいいです。われわれはサーバルのように、ヒトの体内時計に合わせてやるほど優しくはありませんですよ?


 はぁ……仕方のないヒトたちですね。

 

 助手、われわれの寝床を空けてやるのです。今夜はそこで寝るがいいです。

 

 いいですか、こんなのは、特別なのです。

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