第25話外れぬ首輪 5
でも、奥さんとやり直すって言ったって、まだ家に居るだけのはず!
私のお腹には赤ちゃんがいる。
それを彼に言えばー・・・・・・・・・・・・・・・・。
To 大西舞子
Sub 無題
Text お腹に赤ちゃんがいるのに、どうするの?
To 岡野裕也
Sub 無題
Text 中絶してください
頭を鈍器で殴られたような感覚。
あっさり私の望みは途切れた。
中絶って・・・・。
責任とってくれないの?
脱力し、携帯が手から零れ落ちる。
天罰が下った。
家を出たいが為に逃げた私を、神様は見放したんだ。
もっとしがみ付けば良かったのかも知れない。
でもとてもそんな元気もなくて。
私が何か言葉を発した所で、周りの人達はきっと私を「変人」扱いする。
もう誰かに嫌われるのは嫌だ。
頭の中に思い浮かぶのは、自分の事。
私を捨てて蒸発した父。
父にそっくりだと罵倒し、私の事をゴミ扱いしてきた母。
私の事をバカにし続けた姉と姉彼。
帰る場所が何処にもない。
お腹の赤ちゃんを一人で産んで育てる力もお金もない。
頼る人が誰も居ない。
どうして気付かなかったんだろう。
本当に家族に愛されなかった私が、他人に愛されるはずなんてないのに。
心の中で私は岡野さんをバカにしていた所があった。
×2子持ちの彼を受け入れてくれる人間は私しかいないと、彼は気づいているはずだと。
だから彼は私にしがみつき、一生手を放す事はしないだろうって。
全部全部全部。
私の考えが甘かった。
おバカな私は、全ての責任を取らなければならない。
近くの山へ車を発進させる。
真っ暗で街頭もない。
適当に車を駐車させると、鍵をつけたままの状態で車を降り奥へと入っていく。
大きな木に太い枝。
これなら大丈夫そう。
失敗は出来ないから。
デニムからベルトを抜き取ると、それを輪にして枝にかける。
「・・・・もっと生きていたかったぁ・・・・・・」
「・・・・美味しい物を食べて、テレビを見て・・・・・多くの物は望まないから・・・・・ただ普通の生活が・・・・したかった・・・・・」
誰も居ないこんな所でそんな事を呟いたって、誰にも伝わらないのにね。
フッととある考えが過る。
母に土下座して謝ったら、またあの家に戻れるのかな?
赤ちゃんの事も中絶して一生懸命お金を稼いで、そのお金を稼げば母はまた私を受け入れてくれるのかな?許してくれるのかな?
・・・・・・・・なんて。
戻れるかも知れないけど、きっと今まで以上に罵倒されるんだろうな。
・・・・・そんな生活、地獄だね。
岡野さんを恨む気持ちももうなかった。
ただ自分を責めるだけ。
もう次は生まれ変わりたくない。
地獄に落ちて永遠苦しんでいたい。
ベルトが途中で千切れないか?枝が折れてしまわないか?
それだけが心配だった。
神様。
最期のお願いです。
失敗だけは出来ません。
このまま逝かせて下さい。
背伸びをし、ベルトに首をかける。
外れない首輪。
外れる事が許されない首輪。
私の命を止める首輪。
ずっと外したくて仕方がなかったこの首輪を、自分で絞めた。
苦しいのもこれで終わり。
やっと外れない首輪から解放される。
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