第2話 出会い 2

時刻はPM7:00。

店内が混雑した頃。



たまにいらっしゃるお客様に声をかけられた。


「あの・・・・・、すみませんが少しお時間よろしいでしょうか?」


背はそんなに高くなくて、細見で眼鏡をかけているこのお客様を一言で表すのならインテリ系で真面目そうで清潔感があった。

仕事柄酔っ払いに絡まれる事が多々あるけれど、彼は酔っぱらっている様子もない。



「お恥ずかしい話なのですが・・・・・」


何より言葉使いが綺麗だった。

こんなに綺麗な言葉を話す彼が、一体私に何の用なのだろうか?

恥ずかしい話?

トイレでもどしちゃったとか?

期待なんてしていない。

どうせ仕事関係の何かでしょ。



「どうかしましたか?」



仕事用の笑顔で聞き返す。

例えそれが業務内容でも嬉しかった。

男にこんなに綺麗な言葉使いで話しかけて貰えただけでも幸せ、満足。




男になんて、優しくされた事なんてない。

優しくされる時はいつもヤる時だけ。

その目的が達成されない時は、いつも邪見に扱われてたから。


男は皆、そんなモンだ。

そう思っていたのに・・・・・、





「貴方の事を好きになってしまいました」




彼の言葉で全てが変わった。

衝撃的だった。

真っ暗だった世界に色がついたような感覚。



彼の手が小刻みに震えている。

私なんかの為に、緊張している?


その姿が微笑ましい。



「・・・・あの・・・・、どうしたらいいですか?」


顔を真っ赤にさせながら、彼が苦笑いを浮かべた。


ん?どういう事?

もしかして、アドレスを書いた紙とか持ってきてないとか?

ただ告白をしただけ?




「じゃあアドレス聞いてもいいですか?

お互い何も知らないから、まずはメル友から・・・・・」


ポケットに入れてあったメモ帳とボールペンを取り出すと、彼に手渡した。

それを受け取ると、ポケットから携帯を取り出し、イジリ始める。

その手はまだ震えていた。


どうしたのだろう。

そんなに私に声をかけるのは、緊張する事だった?

私なんてそんなに大した人間ではのに。

むしろ親にさえ愛されない、誰にも必要とされない人間。



「えっと・・・・・、あれ?アドレスってどうやって見るんでしたっけ?」


苦笑いを浮かべ、震える手で彼は必死にメモ帳にアドレスと電話番号、名前を書く。




「手が震えちゃって、字がガタガタですみません」


書き終えると、彼は私にメモ帳とボールペンを返した。

受け取り紙を見ると、彼の言っていた通り、とても上手いとは言えないガタガタとした字で文字が綴られている。

・・・・岡野裕也さんか・・・。



「ありがとうございます。私は大西舞子と言います。

仕事が夜中までなので、メールは明日のお昼に送ります」


初めてのメールを、流石に仕事が終わった後に送るのは気が引ける。

仕事が終わるのなんていつも真夜中だし、一般的な仕事をしている人ならば、翌日の仕事の為に寝ている時間だろうから。


メールなんていつの時間でも送受信出来るとはいえ、相手に対して最低限気はつかいたい。




「わかりました。メール待ってます」


彼は私の目をジッと見つめると、軽く会釈をし自分のテーブルへと戻っていった。

私もその彼の紳士な態度にドキっとしつつ、会釈をし返す。




・・・・・・出会えた。

信じられない。


親にも愛されなかった私が、見知らぬ人に好きになって貰えた!

しかも言葉使いのとても綺麗で常識がありそうな人に!



素直に嬉しかった。

嬉しくて、この日はニヤニヤが止められなかった。



仕事にもせいが出る!



早く家に帰りたい。

そして明日になって欲しい。

早く彼にメールが送りたいの。

やっと出会えた、私を愛してくれそうな人とお話をしたい。



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