ブラックな恋愛

美春繭

第1話 出会い 1

「………何も起らないよ……」


制服に袖を通しながら、思わず口から零れた独り言。

ハッと思い、誰かに聞かれてしまっただろうか?と気になり、辺りを見渡すが室内には誰もいない。





良かった。

誰にも聞かれていなかった。


独り言をベラベラ喋るなんて職場の人に知られたから、すぐに変人というレッテルを貼られる。

陰口を言うに違いない。

どうせ………私なんて、そんな扱いを受ける人間なんだから。




「何かいい事起きないかな~?王子様が突然目の前に現れて、私を守ってくれるとか」


最後に独り言を呟くと、スタッフルームを後にした。


時刻はPM5:00。

店内に居るお客様は疎ら。

まだ暇そうだ。




静かな店内に、一組のお客様が来店。

すると、水を得た魚のように


「いらっしゃいませー!」


元気な声が店内に響く。



ここは私のバイト先である居酒屋さん。

やや繁盛しているこのお店は、平日でもお食事時になれば、店内は混雑する。


居酒屋さんだけあり、年齢性別問わずに、たくさんのお客様が来店し、色んな人と接する機会があるんだけど……………。




「……………はぁっ」


出会いがない。



あわよくば、お金を稼ぎながら、いい人に巡り合えないか?と始めたこのバイト。

居酒屋の繁盛店なだけあって、給料はそこそこ貰える。

しかし全くと言っていい程、出会いがない。



考えが甘かった。

友達も少なく、積極性のない私は、異性と出会う機会も少なく、付合った人数は2人。

現在26歳のフリーター。


結婚相手探しに焦っていた。

いい人と出会いたい。

結婚したい。

子供を産んで平凡な家庭を築きたい。



具体的な事は思い浮かばないけど、漠然と浮かぶ妄想はあった。



…………だけど、私が結婚なんて無理だよね。

誰かに愛されるなんて、有り得ないんだ。


そしてネガティブ。

私は究極的に、自分に自信がない。


今日も半ば諦めモードで仕事をする。

金を稼がなくては、生きていけない。

携帯料金、生活費、車の維持費・・・・・・・・・・・・・・・・・親のスネをかじれない私は、

毎月最低限必ず稼がなくてはならない金額がある。

金を稼がず、遊び歩ける人達が羨ましい。




我が家は母子家庭だ。

父親は私が小さい頃、家にある金全てを持って蒸発した。

その出来事に母親は発狂し、父親に顔が似ている私を罵倒する日々が始まった。

全ての責任は、金を持って消えた父親ではなく、私に降りかかった。


実の親に捨てられたというショックと、親に愛されなかったという疎外感が常に私にまとわりついて離れない。



これが原因なのだろうか?

男性と心から打ち解ける事が出来ない。

正確に言うと、打ち解けるまでに時間がかかる。

ヒョイっと男に打ち解け、すぐに付き合ったり同棲出来る尻軽女が羨ましい。

自分でコロっと男の懐に飛び込んだ癖に、うまくいかなければ

「あの男は最低だ。傷ついた」

と、文句が言えるあの腐った根性が羨ましい。

私もそんな部類の人間になりたくて必死に手を伸ばす。

しかしいつも、そこには届かず・・・・。




私が心を開いた頃、男達は

「いつになったらお前は俺を信用するんだ?時間の無駄だった」

と捨て台詞を吐き、私の元から離れていく。



「違う!信用してるよ!大好き!愛してる!」

そう叫んだって、相手にはもう届かない。



ねぇ。

どうしたら人を愛せるの?

どうしたら愛してるっていう気持ちが、相手に伝わるの?



私にはわからない事ばかり。

愛って何なんだろう?




それでも今日も必死に働く。

劣等感を抱え、他人羨ましがりながら。

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