忍者時代6
「雪火・・・。今後もう二度と呼ばれない名 前だよね」
私はあの日里から持ち出した大切な思い出の品々を見ていた。その品々の中でも私が使っていた物には雪火という名前が彫ってあった。
「きっとこのクナイも使わないよね。だって もう今の私は雪影で新しいクナイももらっ たしね」
私はそう言ってもしかしたら昔のあの自分を忘れてしまうんじゃないかという恐怖に陥った。あの自分を忘れてしまったら復讐だって出来ないし、何より誰も火の里の人間のことを覚えていないことになってしまうからだ。
「きっと大丈夫だよ・・・ね。だって私には この火の里の紋様が体にあるから」
私は背中にある火の里の紋様を触った。この紋様は火の里の忍として恥じない程度の強さになったら皆彫ることになっている。私は強かったので初任務が終わった十歳の頃に彫った。
「彫ってる時はとても痛かったけどさ、今と なっては唯一消えない火の里の忍という証 拠なんだよね。あれからもう三年経った し、私も来年には成人するんだよ・・・。
時が経つのは早過ぎるね」
私は自分でそう言って涙が出てきた。やっぱりどれだけ時が経ってもあの日の恐怖だけは癒えることがなくて何度も、何度も夢に出てきた。だけどその記憶もどんどん曖昧になり今では敵の顔を思い出すことも出来なくなっていた。そう残ったのは恐怖感だけだった。そんな自分が許せなくてまた涙が溢れてきた。
たまたま雪の部屋の前を通ると中から泣き声が聞こえてきた。俺は良くないと思いつつも一人で泣いてるなら抱きしめてやりたいという気持ちに負け障子を開けた。
「大丈夫か雪・・・」
雪は俺が入って来たのを確認した瞬間とんでもない速さで涙を拭い、いつもと違う作ったような笑顔を浮かべた。
「もう、朔夜兄さんったら急に部屋の障子開 けないでよ。今ちょっと泣く練習してたん だ。ごめんね変なところ見せちゃって」
だがその笑顔は今にも崩れそうで俺はつい手を伸ばし雪を抱きしめてしまった。すると腕の中から少し震えた声で雪がこう言った。
「ねぇ、兄さん大丈夫だから離して」
「じゃあ何でそんなに傷付いたような顔して るだ?俺には何も頼ってくれないのか?」
「そう言う訳じゃないけど・・・兄さんには 関係無いよ」
雪は俺を突き放そうと腕に力を入れたが俺はそうさせまいと更に強く抱きしめた。
「もう雪は一人なんかじゃないんだ」
「兄さんに一体私の何が分かるって言うの よ?」
「何も分からないから分かろうとしてるんだ ろ!だから雪も自分のこと助けて欲しいな らもっと俺に俺達に手を伸ばせよ」
「じゃあ兄さんに一つ昔話をしてあげるその 話を聞いても兄さんは私のことを助けたい と思える?」
「当たり前だ。俺はどんな雪だろうと受け止 めてやる」
「それじゃあ今夜もう一度この部屋に来て。いろいろ準備しておくから」
「あぁ、分かった」
俺はそう言って雪の部屋を出た。
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