第21話
あの電話から一週間経った今日、俺はフウコの願いを叶えた。
俺たちは三人家族で最初で最後のドライブをした。フウコの家から病院までの短い距離ではあったがフウコが願う通り、未だ見ぬ子どもと夫婦のような俺たちが疑似家族として短い時間を過ごしたのだが、あいつの表情は始終冴えなかった。そして会話もないまま病院に着くと、フウコは手渡した金を握り締めて俯きながら病院の自動ドアを通って行った。
俺は病院の駐車場に車を止めて、中で昼寝をしたりしながらフウコが戻るのを待っていた。待っている間、爪と生まれてくることを許されなかった子どものことを考えていた。
もしフウコが子どもを堕胎せず出産したとする。その子が女児だったとしたら、自分の子どもの爪であっても、俺はその爪を欲しがるだろうか?
もし女児の爪が価値あるものだと自分の心が判断すれば、その子の爪をペットボトルに貯めている爪と同じように集め始めるのだろうか?
娘を利用した一生爪に不自由しない生活が待っていたかもしれない、と思うと堕胎させた子どもが少し惜しい存在に思えてきた。しかし生まれた子が男児だった場合、存在自体が邪魔になる。つまり二分の一の確率で失望が待っているのだ。妊娠がわかってから性別がはっきりするまで堕胎を遅らせるなんてことは流石のフウコも良しとしないだろう。そう考えると、やはり堕ろさせて正解だった。
フウコの堕胎は疑似家族全員が幸せになれる最善の選択であったと心から満足して安心した。
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