第19話

 嫌な話を思い出して気分が悪くなった。このまま夕方まで眠ってしまおうと、ペットボトルをテーブルに置いてブランケットを頭から被った瞬間、また電話が鳴った。


 「しょうちゃん!お願いだから、お願いだから話を聞いて」


 電話に出るなりフウコは声だけで縋りついてきた。喋らずそのまま切ってやろうかと思ったが、あまりに捲し立てて来るので切るに切れなくなってしまった。


 「しょうちゃん、私もう赤ちゃんを殺したくないの。産みたいの!」 


 「好きにしろよ。その代わり俺の前から消えろ。二度と顔を見せるな!」


 そう言うと、さっきまでの勢いが嘘のように急に電話の向こうから声が聞こえなくなった。


 フウコが孤独を何より恐れていることを知っている俺は、決定的な弱点を利用しようと考えた。未だ見ぬ腹の中の子どもを取るか、俺を取るか。フウコは追い詰められれば執拗に追いかけて来る孤独から再び逃げ出すだろう。堕胎をしても、子どもが目の前で殺されても、この女は自分が孤独のもたらす真っ暗な闇の中で生きていくことができないことに気付いている。気付いているならためらうことはない。子どもなど始末して俺の言葉に従っていればいいのだ。


 俺たちの電話は繋がったまま、しばらく無言の時間が続いた。その後フウコの深い溜息と嗚咽が小さく聞こえた後、


 「うう・・・ぐうっ・・・わ、わかった・・・」


 俺の耳に絞り出したような声と期待通りな返事が届いた。


 やはりフウコは孤独に勝てなかった。自分の身を削って男に尽くすことで、今回も孤独に飲み込まれることなく安らぎを保ち続けられたと思っているのだろう。これから先も孤独は付き纏ってくるというのに。本当に愚かで汚れた女だと思った。


 

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