第12話 日本1位

 知らない顔の1人が、ランキングを導入してきた。

「桜雪くん、歌上手いね」

「そう?」

「うん…俺なんか音痴で…」

(確かに…上手くは無い…)

 そんなことないよ…と言えないのが僕と言う人間なのだ。


 そして、もう1人…歌わねェ…。

 いるんだよ…カラオケ来て歌わない奴…なんなの?

『通』に負けじと剥げて、豪快な顔してるのに…内気?

「K…俺が入れてやるよ」

『通』がKと呼ばれたハゲの世話を焼く…。

(こういう関係性なんだろうか…気持ちワルい)

「桜雪!コイツ(K)キャバ嬢に恋してるんだ、なんかアドバイスしてやってくれ」

『通』の無茶振り…。

 初対面で?恋愛のアドバイス?相手キャバ嬢?…お前、ハゲとるやないけ!!

「いや…無理…」

「お前、キャバ嬢と付き合ってるじゃん」

 そう…付き合っているかは微妙だが…風俗嬢となのだが…面倒くさいのでキャバ嬢ということにしてある。

「ん~…そうね~」

 なにか言わんと考えてるうちに『通』が、

「まぁ、まずは通って顔覚えてもらってからだな」

(お前が答えるんかい!)


「桜雪くん…歌上手いよね…ランキング1位多くない?」

「うん…誰も歌ってない曲多いからね…必然的にね…」

「しかし…3人でよく会うんでしょ?なんか見てると、全然タイプが違うように思うんだけど」

『通』の連れて来た片割れはよく喋る。

 そして…『同僚』…さすがの強メンタル。

 まったく無関心に歌い続ける。

 ちなみに『同僚』の実力は『通』の連れと同レベルの43人中41~42位といったところだ。


 そして『通』…「俺が本物の…云々…本家を超える歌声を…」

 43人中43位だ。

(原曲無視…オリジナルソングだよ…出来損ないの)


 そして…歌って…3時間…もう…腹痛以外の何も感じない。

 そして、ふと気づいたのだ。

(僕…正露丸持ってたんじゃないか…)

 鼻炎薬・正露丸糖衣は鞄の中に…あった!

 さっそく、飲んでみる。

「おう、桜雪、正露丸持ってるじゃねぇか」

「あぁ…持っていたんだ…思い出した」


 だが…手遅れでした。

 トイレで水の様な…臭いが正露丸だよ…。

 カラオケの最中に2回分飲んだが…まったく効かない。

 手遅れだ。

 でも…少し楽になった。

「なんか食うか?」

「たこ焼きでも頼んでくれ」


 たこ焼きが運ばれて、ひとつ食べる。

 とりあえず、全員に回して3個余る。

 Kが変な顔をしている…厳つい顔が歪んでいる。

「どうした?」

「カラシが…」

「はっ?」

「おう、当たりだ」

「お前、何頼んだの?」

「ロシアンたこ焼き」

(なぜ、ロシアを足した!)


「おう、桜雪知ってるか?」

「なに?」

「正露丸って、ロシアを制するって意味なんだぜ」

「字が違うだろ?」

「正しくは制と書くんだ」

「ホントかよ?」

(上手い事、ロシアと掛けてきたな)


 別れて帰り道…また腹痛でコンビニのトイレに駆け込みながら帰ったのである。

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