第18話 エピローグ そして第一部完!!
アレスが倒されてから、数時間後。春人は約束通りトートから宇宙船を貰い受けた。たとえるなら超高級ホテルのスイートルーム。しかも一人の客のために最上階をまるまる使って一室だけ存在するVIP専用。高級中の高級。新たな自室はそんな部屋だ。
「おつかれ春人。まさかこんなに早く終わらせてくれるなんてね」
「春人様は強い。やるときはやる。だからちゃんと終わるよ?」
春人を労うトートの言葉に首を傾げるアルファ。
「春人ならもっと引き伸ばして遊び倒すと思ったからさ」
「なるほど。でも満足した。春人様も楽しんでた」
「そうかい。ならそれでいいさ」
「その通り。俺が楽しめたのだからそれでいい」
新居に満足したのか上機嫌な春人。内装も春人の好みに合わせてある。
「春人、我々の騒動に巻き込んでしまってすまなかった」
「すまなかった、だがおかげで目が覚めた。礼を言うぞ」
アレスとアテナが謝罪を済ませる。すでに何度も非を認め、詫びている。
改心というには微妙だが、もう闘うことはないだろう。
「我はまた別の世界へ行く。武神として、童貞として、さらに強くなって貴殿の前に現れよう」
「その時はもう一度、戦争など関係なく戦おう。同じ童貞としてな」
ガッチリと握手を交わす春人とアレス。戦いと、なにより同じ童貞であるということが二人の仲を取り持ったのである。二人には奇妙な友情が生まれていた。
「さらばだ、我が終生のライバルよ!」
アレスは光となって消えた。達人を求め、別の世界へと旅立ったのだ。
「私も異世界をまわってみようと思う。武力による戦争はやめだ。今度は婚活という名の戦場に身を置こうと思う」
アテナは料理を始め、剣を置き、包丁を手にとった。良妻となるため、花嫁修業をしつつ理想の男性を探す予定だ。無論、春人とアレスは対象外である。
「次に会った時は、旦那と子供を見せてやろう。さらばっ!」
宇宙船より去っていくアテナ。彼女の婚活はうまくいくのか。それは誰にもわからない。
「急に呼び出して願いを叶えてくれてありがとう春人。僕も久しぶりに会えて楽しかったよ」
「俺もだ。ヒマがあればまた願いを聞いてやってもいいぞ」
「次はちゃんとお願いに来てね」
「そうだね、なにかお土産を持って行くよ」
「春人くーん。出発準備終わったよー。次は何処へ行く?」
次の世界への準備をしていたオメガが姿を現す。操縦は設定すればオートで行われる。後は春人が指示を出すだけだ。
「最初に言っておく。私を置いていこうなんて思わないように」
「今回のように面倒なことになるからな。静かにしているのなら連れて行く」
「オメガは静かに」
「わかってるってのに……」
放っておけばうるさいし、置いていってもついてくる。最早静かにさせるしかないのであった。
「そうだ、行き先が決まっていないなら、参考までに聞いて欲しい」
「いいだろう」
「春人のおかげで世界は救われた。でも異世界を救う謎の男がいるという噂が広がりつつある」
「当然だね。春人くんは全世界の中心だ。噂にならないはずがない」
「それがまずいのさ。その男のいない世界にいればいい。そんな噂が広まってしまい、幽霊・妖怪・神話生物なんかがいる世界が徐々に増えつつある」
春人を知る者にとっては、危害さえ加えなければ春人は無害だ。
だが噂とはおひれがつくもの。神々を屠る謎の男という存在。
しかも実際に倒された神が存在することで、力の弱い存在は春人を恐れるようになる。
「春人の名前も知らないのに便乗して地球で活動を始める問題児もいてね」
「ふむ、気に入らんな」
「これも強すぎる春人の弊害かな?」
「強くてもだめなの?」
「俺の力は全世界を凌駕する。得体の知れないものから逃げたいのは、人間も神も同じか」
「神話は人間が作った物語。人間は神が作ったものとされている。本質は似ているのさ」
神とは人間の信仰によって生まれるものも多い。生まれる過程で人間と似ているものが現れるのも道理なのである。
「地球か……あの星は単純につまらん」
「まあ微妙だよね。エンタメ方面は面白いけれど、それだけだ。興味がなければ放置してもいい」
「むしろ放置すれば妖怪まみれで面白くなるかもしれんな」
「飽きたら行ってみる?」
春人は地球に未練はない。そもそも帰ろうと思えば帰ることなど容易い。ただ異世界で遊んでいるだけだ。今の春人には、未知の世界で気ままに暮らすことが一番の娯楽である。
「仕方あるまい……一度帰ることも視野に入れるか」
「行くなら裏から手は回すよ。たまーに依頼を受けてくれたら嬉しいな」
「またお仕事?」
アルファが少し残念そうにしている。春人と過ごす時間が減ってしまうのではと不安なのだ。
「なーに、夫を気持ちよく送り出すのも良妻の条件さ。私達は家事でもやっていればいいんだよアルファくん」
「そっか、がんばる」
オメガの百年に一度あるかどうかのゴッドフォローにより、アルファも元気を取り戻す。
「期待しているぞ。料理の実力は今回ではっきりしたからな」
「他に何か必要な物はあるかい? 大抵の機能は宇宙船につけてあるよ」
「そうだな……地球は空気も汚いしルールが多くて面倒だ。部屋から出たくもない。かといってアルファとオメガを単独で外に出す気はない。そうだな……人間の助手でも作るか」
「助手? ああ、雑用係だね」
「細かいことは私達がやってあげるよ春人くん」
「家の中ではそれでいい。しかし、外での手足があると面白い。ある程度強引に行動できる権限のある人間がいいな」
アルファとオメガにやってほしいことは、あくまでも春人の遊び相手だ。
自分の手足となる奴隷がほしいわけではない。
家政婦ではなく仲間であり、どちらかといえば妻が正しい。
春人にとってアルファとオメガはそれほど特別な存在である。
「つまり駒か。神ではダメかい?」
「神は頑丈かつ万能なものが多いのでな……つまらん。脆い人間なりに全力で抗い、俺の指示に従いつつも自分の魂に誠実でいるやつが一番面白い」
「いいねいいね、私もそういう頑張る人間は面白くて好きさ」
「アルファは春人様が楽しいならそれがいい」
「次の行き先候補に地球も入れておくか」
「それじゃあ春人、アルファ、オメガよい旅を。また会おう、友よ」
トートも宇宙船から去っていく。
「色々ありがとうトート。また会おう友よ」
これで春人・アルファ・オメガの三人だけとなった。
「なんだか静かになりました」
「オメガがいるのにな」
「もう~ちゃんと静かにするって言ったじゃないか」
ふてくされるオメガを見て笑う春人とアルファ。これが彼らの日常になっている。
その日々はこれからも変わることはないだろう。
「ふっ、そうだったな。それじゃあ次へ行こうか」
「おっ決まったのかい?」
「次は何処へ行くの?」
「そいつは……ついてのお楽しみだ」
まだ見ぬ面白そうな異世界がある限り、春人達の旅は終わらない。これからも様々な世界を救い、思うがままに生きる。無職童貞流開祖、勇希春人の伝説はまだまだ始まったばかりである。
「さあ異世界よ! もっともっと俺を楽しませろ!!」
春人宇宙へ 完。
そして第一部完!!
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