第2話 『騎士団長殺し』テーマについて

 村上春樹『騎士団長殺し』

 

 第1部 顕れるイデア編 :全32章 (プロローグ除く)

 第2部 遷ろうメタファー編:全32章

 

 読み終えました。(しつこい)

 上記に示したように、第1部と第2部がそれぞれ32章 で構成された長編です。

 

 もっとも第1部の32章目は、意図不明の、おそらくはナチス強制収容所に関する著作の引用が数ページあるだけとなっていて、ちょっと何のために挿入されている文章なのかは、意図をはかりかねるものではあります。


 この本らしい→ http://www.msz.co.jp/topics/07920/

  

 この32章の文章をカットして、「プロローグ」とだけ記され、章番号をつけられていない冒頭の文章の方を第1章として提示しても、構成上それほど問題ないようにも思えてしまいます。

 

 あるいは、もともと1章としていた箇所を何らかの理由でプロローグとして独立させてしまったがため、第2部の32章ある章の数との兼ね合いだけで差し込まれた文章なのかも、と邪推してしまいそうな構成を持っているのですが、だからこそプロローグとバランスを取りつつ、第2部へと物語をつなぐ物としてこの第1部の32章目というのは機能しているのかもしれません。

 

 言ってみれば蝶番のように。


 ちょうつがい。

 ことばの音だけ聞いてみれば、蝶の夫婦とでもいったほのぼのとした雰囲気がただよってきますね。


 それはそれとして、そこはかとなく意味不明な第1部32章を差し込んでまで独立させた(ように思えた)プロローグとは何なのでしょうか。




 ◆◆◆ 

 

 今日、短い午睡から目覚めたとき、〈顔のない男〉が私の前にいた。私の眠っていたソファの向かいにある椅子に腰掛け、顔を持たない一対の架空の目で私をまっすぐ見つめていた。

 

 〈中略〉

 

 私は立ち上がり、仕事場からスケッチブックと柔らかい鉛筆をとってきた。そしてソファに腰掛けて、顔のない男の肖像を描こうとした。でもどこから始めればいいのか、どこに発端をみつければいいのか、それがわからなかった。なにしろそこにあるのはただの無なのだ。何もないものをいったいどのように造形すればいいのだろう? そして無を包んだ乳白色の霧は、そのかたちを休みなく変え続けていた。

 

 〈中略〉 

 

 いつかは無の肖像を描くことができるようになるかもしれない。ある一人の画家が『騎士団長殺し』という絵を描きあげることができたように。しかしそれまでに私は時間を必要としている。私は時間を味方につけなくてはならない。

 

 ■村上春樹『騎士団長殺し』プロローグ


 ◆◆◆ 

 

 

 つまりプロローグにおいて、わりあいとはっきりテーマらしきものを確定して、物語は語られているようなのです。

  


「いつかは無の肖像を描くことができるようになるかもしれない。ある一人の画家が『騎士団長殺し』という絵を描きあげることができたように。」

 

 

 という一文から察するに、おそらくは、「無」を描く、「無」というものの存在を認識する、というものを、ひとつのテーマとして、語ろうとしているようなのですが。

 

 そして第2部ラスト、東北を襲った、3.11のエピソードがちょっと唐突に、という印象を持って語られることによって、一応物語の幕は閉じられることになります。

 

 まあそんな感じの構成を持った物語なのですが、どうやって感想をまとめたらいいのでしょうかね。


 やれやれ。

 

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