第13話ザッハトルテの企み

【ベネツィーの運河沿いの通り】


〈いつものように変装して街を歩くフィナンシェ〉


「(どっちへ行けば良いのかしら…?)」


【メインストリート】


「こっち?それともこっちの通りかしら?」


【酒場】


〈光の神と七都が食事をしている〉


「おう光。魔法石探しに行こうぜ」


「くりきんとん、お店は良いの?」


「ああ、母ちゃん一人でじゅうぶんだろう。なあ母ちゃん、ランチタイムが終わったら出かけて良いだろ?」


「ああ良いよ。行っといで」


「魔法石探しにって、どこに行くのよ?」


「洞窟なんてどうだ?」


「うん!あそこなら有るかもね。行こう行こう」


「って、お前も付いて来るんかい?」


「何よ、良いじゃない」


「まあ良いけどよ」


「じゃあ、洞窟に出発!」


「お前が仕切るか」


「楽しそうね、私も行くわ」


【大聖堂】


「やっと着きましたわ(さんざん迷ってもうクタクタ…)」


〈フィナンシェは神の像の前に行くと瞳を閉じて自分の心の内に入って行く〉


「(何故懐かしいのかしら?この神の像も…あの方も。あの方はこの神の像に似ているの)でもこれは昔この国の人々を救った人に似せて作った物…猫魔さんは光さんを神様って」


「そうなのニャ」


「猫魔さん」


「嘘は嫌なのニャ。でも、本当の事は餡先生しか知らないのニャ。だから皆んなには言わにゃいでほしいのニャ」


「わかりました」


〈そして猫魔は言い伝え通り光の神が人間に転生してこの国の人々を救った事、そして今は光の体を借りている事を話した〉


「まあ、では満さんのお兄様の魂は?」


「今は天上界に居るニャ。これから浄化をして次の転生の準備をするのニャ」


「光の神様は…いずれ天上界お帰りになられるのかしら?」


「人間界が平和を取り戻したら帰ると思うニャ」


「そしたら満さんはどうなるのです?お兄様の命が助かったと喜んでいたのでしょう?」


「そうなのニャ」


「それはあんまりです」


【洞窟の入口】


「本当に入るの?」


「何だよ、怖いのか?さっきまでの元気はどうした?」


「だってここ、オオコウモリとか居るし…猫魔連れて来れば良かった」


「ほれ、とっとと行くぞ」


【洞窟の中】


「キャ」


〈躓く餡先生を抱きとめる光の神〉


「大丈夫?暗いから気を付けて」


「ええ」


「くりきんとんも光みたいに優しくしてよね」


「はあ?だいたいあのぶっきらな光があんなに変わる方がおかしいだろ」


「そうだけどさ、でも言葉遣いはだいぶ変じゃなくなったよね?」


「そうか?じゅうぶん変だと思うぞ」


「だって、貴族みたいじゃなくなったじゃない。時々変だけど」


「だけどよ、前は俺と同じ感じだっただろ」


「あー、今の光はくりきんとんと違って紳士みたいよね」


「悪かったな」


「ねえ、団ちゃん。あそこで何か光ってるわよ」


「おおっ!魔法石か?ちょっと掘ってみるか」


〈ピッケルで壁面を掘るとキラキラ光る石が出て来る〉


「やったぜ!」


「黄色い石」


「雷の魔法石だ。もう少しで取れるぞ…よっしゃ!取れた!」


「おっと、そこまでだ」


「誰?キャー」


「七都!野郎!七都を放しやがれ!」


「その魔法石をこっちに渡してもらおうか」


「卑怯だぞ!」


「逆らうか。この娘がどうなっても良いのだな」


「しゃあねえや、ほらよ」


「何この臭い?」


「火薬のようね」


「これさえ手に入れればお前達に用は無い」


〈ドカーーーンと大きな爆発音〉


「キャー」


「わっ」


〈煙りで視界が悪くなる〉


「ゴホッゴホッ」


「皆んな大丈夫?」


「くそぅ、あいつら…」


〈少しずつ視界が開けて来る〉


「えーーっ?!」


「どうやって出るんだよ?」


〈出口が崩れて埋もれている〉


「何今の?」


「何か猛獣の声みたいね」


「いや、あれは…魔物か?」


【大聖堂】


「本当の光は死んだのニャ。だから神様は光の体を借りたのニャ」


「そんな…」


〈神の像を見詰めるフィナンシェ〉


「あっ」


「どうしたのニャ?」


「何だか胸騒ぎがするの」


「胸騒ぎ?」


「光さんの身に何か…」


「神様は栗金団の店で、七都と一緒にご飯を食べてるはずニャ」


【酒場】


「おや、猫まんまちゃん。いらっしゃい」


「居ないニャ」


「帰ったのかしら?」


「七都ちゃん達なら、うちの団(だん)と一緒に魔法石を探しに行ったよ」


「どこに行ったかわかるかニャ?」


「ちょっと待っとくれよ。確か…あ!そうそう。洞窟に行くって言ってたよ」


「まあ大変。あの洞窟は近頃、ザッハトルテ家の者達が調査と称して怪しい研究に使う材料を集めていると聞きます」


「行ってみるニャ」


【洞窟】


〈魔物の鳴き声がする〉


「ねえ、魔物と物の怪ってどう違うの?」


「ンなもん…俺に聞くな」


「同じような物よね。私達は霊的な物を物の怪って言ってるけど…」


「でもよ、結局人間が魔物を呼び出したんだろ?」


「うん、お婆ちゃんがそう言ってた」


「あの昔話ね、あれは本当のようね」


「物語とかでは異世界から来たモンスターが悪者だけど、本当は人間が招いた事なんだよね」


「そうだな、今だってザッハトルテの奴らが」


「団ちゃん達。そんな事言ってる間に来ちゃったわよ」


「うわっ、どうする?」


「退路は絶たれた。戦うより他有るまい」


【吊り橋】


「橋が落とされてるニャ」


「他にも入口が有るはずです」


「行ってみるニャ」


【洞窟の中】


〈奥の暗い中魔物の目が光っている〉


「来やがったな」


〈剣を構える栗金団。餡先生を庇うように前に立つ光の神〉


「何だよ、俺の服を掴むな」


「だって怖いんだもん」


「それじゃ動けねえだろ」


〈栗金団は七都の手を後ろ手に払う〉


「ギャーギャー」


〈大きな声を上げて魔物が突進して来る〉


「キャー」


「てぇーーい!」


〈光の神は魔物をよけて切りつける〉


「俺だってやってやる!やーー!」


〈栗金団の剣からファイヤーボールが飛び出す〉


「ゲッ、しょぼっ。何だよこの剣?光が使った時はすげー炎が出たのに」


「ちょっと、くりきんとん!真面目に戦いなさいよね」


「うるせえ野郎だな」


「か弱い乙女に向かって野郎とは何よ!」


「はあ?乙女だあ?誰がか弱いって?」


「団、よそ見するな!危ないぞ!」


「おっと」


〈魔物の攻撃をよける栗金団〉


「ほらよ」


〈自分の剣を光の神に投げる〉


「団?」


「そいつはお前の方が扱いが上手い。光の剣を貸せ」


「わかった、拝借する」


〈お互いの剣を交換して構える二人〉


「今だ!」


〈光の神はパポネ村の北の山に炎の大の字が焼かれるイメージをする〉


「大文字」


〈剣から出た炎は大の字に広がり辺り一面火の海になる〉


「やったか?」


「いや待て。まだだ。油断するな」


「だけどちったぁ堪えたみてえだぜ」


「しかし、奴を怒らせてしまったようだ」


〈怒り状態になった魔物は大暴れする〉


「キャー」


「二人共下がっていろ」


〈魔物は大岩をいくつも落として来る〉


「苦戦してるニャ」


「猫まんまちゃん遅いわよ」


「フィナンシェちゃんも。女王様がどうしてこんな所に来たのよ?危ないじゃない」


「ごめんなさい、胸騒ぎがしたの」


「フィナンシェちゃん?女王様ってまさか」


「そのまさかよ」


「後は俺に任せて皆んなは安全な所に居るニャ(神様も皆んなも俺が守ってみせるニャ)」


「本当にフィナンシェ様か?」


「だから言ったでしょ、フィナンシェちゃんは友達だって」


「いや、聞いてたけどよ、まさか本当だなんてなあ」


「信じないんだもん」


「信じられるわけねえだろ」


〈魔物と睨み合う猫魔〉


「大人しく魔界に帰るニャ」


「ギャーギャー」


「猫魔今日は変身しねえのか?」


「こいつは殺したくないニャ」


「今日の必殺技楽しみだったのに」


「今日は婆ちゃんのお菓子を食べてないニャ。こいつは人間に呼び出されただけニャ。殺さないで魔界に帰すニャ」


「考えてみればその子も可哀想よね」


「良し、大人しくなったニャ。俺はこいつを魔界に帰して来るニャ」


「え?だって、猫魔居ないで私達無事に帰れるかな?」


「大丈夫です。ここへ来る途中皆んな猫魔さんが片付けてくれましたもの」


【洞窟の出口】


〈七都がうるさいので結局猫魔も一緒にここまで来た〉


「本当にほとんど何も居なかったね。みんな猫魔がやっつけちゃったんだ。もう、この男達は頼りないからな。猫魔が居てくれて良かったよ」


「悪かったな」


【吊り橋】


「ここを渡るの?」


「えー、怖いー。来た時の橋より高いよー怖いよー」


「怖かねえ、とっとと行くぞ」


〈団を先頭に七都が続く。フィナンシェは足が竦んで動けない。光の神が手を差し出す〉


「あ…」


「大丈夫だから」


「ええ」


〈そっと手を重ねるフィナンシェ〉


「下を見ないで」


「はい(来る時は猫魔さんに掴まって来たけれど…)」


「大丈夫?」


「ええ、大丈夫です(光さんの手…何だか安心するわ)」


「猫まんまちゃ~ん。私もあんなふうにエスコートしてほしいなぁ」


「手を繋ぐニャ。ニャはは」


〈餡先生と手を繋ぎ子供のようにはしゃぐ猫魔〉


「肉球可愛い」


「くすぐったいニャ」


〈吊り橋を渡り切ると振り返る七都〉


「あーもぅー怖かったよー」


「こんなもんが怖いなんて女の子みてえだな」


「女の子だあ!!」


「それにしてもよう、腹立つなあ、ザッハトルテの奴ら」


「やはりザッハトルテ家の者達でしたか」


「やはり?」


「何やら怪しい研究をしているようなのです。それで素材を集めにここへ」


「怪しい研究?」


「それで魔法石を持って行きやがったのか?」


「まあ魔法石を?」


「そ、そうなんですよ。せっかく採取した雷の魔法石を取られちまったんです」


「くりきんとん、言葉変だよ」


「だ、だってよう、フィナンシェ様だろ?女王様だぞ」


「フィナンシェちゃんそういうの嫌なんだって」


「嫌って言われてもよう」


「くりきんとんさんもお友達になって下さるのでしょう?」


「うえっ?と、友達?そ、そんな、友達だなんて恐れ多いです」


「だから、そういうのが嫌なんだって言ってるの!」


〈バシッと栗金団の背中を叩く七都〉


「痛てっ」


「フフフ」


「わかったよ。フィ、フィナンシェ…ちゃん」


「はい」


「お、友達からお願いします!」


「団ちゃんたら、交際申し込むつもり?」


「あ、いや、まさか、そうじゃねえよ」


「宜しくお願い致します」


「は、はいーっ!」


「何て声出すのよ!」


「裏返っちまった」


「フフフ、また一人楽しいお友達が出来ましたわ」


「だけどよう、ザッハトルテの奴ら、 いったい何するつもりなんだ?妖精の森に毒を撒いたり、洞窟で魔法石の採取したりしてよぅ」


「動物達を捕まえて、細胞を採取すると言ってたわね」


「あいつらの事だもん、きっと何か良からぬ事を考えてるよ」


「ここまで来れば安心ニャ。俺はこいつを魔界に帰して来るニャ」


【ザッハトルテ公爵家のラボ】


〈研究員が何やら怪しい調合をしている〉


「洞窟で採取した魔法石を使うのだな?」


「はい公爵様。まずはこの動物の細胞を使って復活させるのです。その際にこの魔法石を」


「本当に新しい化け物が作り出せるのか?」


「やってみましょう」


「祈祷師、お前はもっと強い魔物を召喚しろ」


「私に命令するのかね?」


「何だと?」


「も、申し訳有りません。今のは私ではなく、私の身体の中に居る魔道士の霊です」


「まあ良い。この世界を治めるのはこの私だ。待っているが良いフィナンシェ。小娘が」


【ザッハトルテ公爵の領地】


「公爵様が兵を集めるって噂だ」


「俺も聞いた」


「従わねえとひどい目に遭うだろうな」


「俺は子供が生まれたばっかりだ。兵士になんてなりたくねえだよ」

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