第10話とうとうこの日が来た 前

【金物屋】


「杵さん、コイツの剣に魔法石付けてやってくれよ」


「最近そういうお客さん多いな、うちは武器屋じゃねえんだけどな」


「しょうがねえよ、この町にゃ武器屋なんてねえんだから」


「団ちゃん、魔法石を手に入れたのかい?」


「ああ臼おばちゃん。森では見つかんなかったから、旅の行商人から買ったんだけどよ、偽物じゃねえよな?」


「一応本物みてえだな。よっしゃ!付けてやるか。光、剣貸しな」


「あ、ああ…」


「杵さん、包丁研いでくれる?」


「七都かい、ちょっと待ってな。うん?これは…この剣には付かねえぞ」


「あん?何でだよ?探し回ってやっと買った魔法石なのによ」


「くりきんとんじゃない?何やってんの?」


「うるせえのが来やがったぜ」


「もう何よ、その言い方」


「そんな事より、杵さん。何とかなんねえのかよ?」


「それがな…何かこう…剣が嫌がってるみてえでよ」


「嫌がるって何だよ?」


「こいつぁ、どうやったって付かねえぞ」


「んじゃあ、俺の剣ならどうだ?」


「おう、貸してみな…良し、これなら付きそうだ。こいつに付けちまって良いんだな?」


「おう、やっちまってくれ。光の剣に付かねえんじゃしゃあねえや」


「武術大会に出るのは光なのに、くりきんとんの剣に魔法石付けてどうすんのよ?」


〈杵は団の剣を赤々と燃える火の中に入れる。剣は焼けて真っ赤になる。火から取り出してハンマーで打ち付ける。カンカンカーン!〉


「あいよ、出来たぜ」


「おお!」


〈剣の柄に付いた魔法石を眺めて満足気な栗金団〉


「ほれ」


〈光の神に剣を差し出す〉


「この剣使えよ」


「良いのか?」


「良いって、良いって、貸すだけだからな。武術大会が終わったら返してくれよ」


「すまぬな、では拝借する」


【天上界女神の泉】


〈光の魂がやって来る〉


「ここに来りゃ満の様子がわかるからな。女神はどこだ?」


〈泉の上から金色の光が降りて来る〉


「お、居た居た。おい、女神さんよう。また妹を見せてもらいに来たぜ」


「ちょっと、女神様に向かって何ていう口の利き方?」


「おう、おめえも居たのか」


「おめえもじゃないわよ」


「め、女神様。お願げえします。妹の様子を見せてやっておくんなさい」


「良いでしょう」


〈水面に人間界の様子が映し出される〉


「おっ、居た居た。料理なんか作ってやがる」


「美味しそうね。ああ、また誰かの体を借りて美味しい料理が食べたいわ」


「何だってあんなに沢山作ってんだ?」


「皆んなで食べるんじゃない?」


「ちきしょーう。俺も満の料理食いてー。けどよ、腹減らねえんだよな、ここに居ると」


「肉体を持ってないからよ」


【療養所】


「光、準備は出来てるか?出かけるぞ」


「ああ、参ろう」


「後で私も行くわ。ケガ人が出るだろうし」


「んじゃ、先に行ってるな」


【療養所前】


〈光の神と栗金団が出て来る〉


「あ、お兄ちゃん」


〈満の手に視線を落とす光の神。そっと手を伸ばして荷物を取る〉


「あ、ありがとう。フフフ(本当に優しくなったわね。前のお兄ちゃんじゃこんなに気が利かなかったもの)」


「随分でっかい荷物だな?何が入ってんだ?」


〈覗き込む栗金団〉


「おっ、美味そうな匂いがするぜ」


「後で皆んなで食べましょう」


「遅くなってごめーーーん」


「ったあく、何でお前はそう、いつもいつも賑やかに登場するかな?」


「早く船に乗るニャ。街に行くのニャ」


【天上界女神の泉】


「船に乗り込んだな。あん?猫の物の怪も一緒だ。危ねえだろ!」


「大丈夫よ、猫魔は光の神のペットだから」


「ほう、そうなんだ?」


【船の上】


「風が気持ち良いね」


「まだちょっと寒いけど、お天気が良くて良かったわね」


「早くブリの港に着かないかニャ」


「何でよ?」


「シイラが、俺の為に余った魚を取っておいてくれるのニャ」


「港が見えて来たわ」


「猫まんまーーー!」


「シイラニャ!おーーーい!」


【ブリの港】


〈シーラが手を振っている。猫魔達を乗せた船が入って来る〉


【天上界の女神の泉】


「港がいつに無く賑やかだな。今日は何の日だ?」


「ああ、楽しそう。私も地上に降りたい」


「俺が死んでどれぐらい時間が過ぎたんだ?本当ここに居るとわかんねえよな」


「人間界は、時の流れが早いもんね」


【ブリの港】


〈猫魔達が船から降りて来る〉


「はい、猫まんま。魚だよ」


「わぁお、ありがとニャ」


「今日は、父さんが店番してくれるって言うから、私も一緒に行く」


【天上界女神の泉】


「何だ何だあ?ヴェネツィーの街はお祭り騒ぎだな」


「いったい何が有るのかしらね?」


「おおーっ!闘技場に入って行きやがった。何の大会だ?」


【闘技場】


「とうとうこの日が来たわね」


「小倉杏さん」


「越野餡は?」


「後から来るって言ってましたよ」


「光。今日は負けないわよ」


「え?」


「杏さんも出るんかい?」


「出るわよ」


「ヴェネツィーの剣術大会で光に負けたのに、何で出れるんだ?」


「負けたから修行して、他の地区で勝ち上がったのよ」


「すげー」


「私と戦う前に負けたりしたら承知しないわよ。じゃあね」


「行っちゃった」


「おい光。魔法石の使い方わかってるか?」


「うん?まあ、何とかなるだろう」


「ちゃんと稽古しとけば良かったな」


【天上界女神の泉】


「これはもしかして、ブラマンジェ武術大会かあ?おおっ!あいつも出るのか?!」


「光の神に戦いは無理よね」


「無理って、ここまで来るって事は相当の腕だぞ」


「あの時は私が居たからよ」


「へ?オバサン天使が居たら何だってんだよ?」


「オバ、オバ、オバサン?」


「ああ、ちきしょう!俺だってまだ一度も出た事ねえのによ。おい、そっちの俺!頑張れよ!負けたら承知しねえからな!」


「だから、私の話し聞いてる?光の神には戦いは無理なのよ」


「あーもう、うっせーな。んなモンやってみなきゃわかんねえだろ」


「(まあ、本気になれば強い事は強いんだけど…彼は優し過ぎるのよ)」


〈水面に闘技場の様子が映し出されている。出場者は強者揃い。その中に場違いのように優しい光の神の姿〉


「おいおい、皆んな強そうだな、大丈夫なのか?」


「戦いは向いてないのよ。あの時だって…(あんな悪い奴にまで情けをかけるから…あの時私がそばに居なかったらと思うと…だいたい何よ!改心するなら許そうなんて甘いわよ!結局あの魂は地獄に封印するしか無かったじゃない)女神様、私地獄の様子を見て参ります」


「ええ、くれぐれも気を付けるのですよ」


「はい!」


【闘技場】


〈近衛騎士隊が入って来る〉


「カッコいいよな、近衛騎士」


「あれ?ねえ見て、あの子供…あれ…パン君じゃない?」


「おぅ、あのペイジか?」


「パンくーーーん!」


「おね、じゃない、七都さん」


「え?どうしたの?調子狂っちゃうな。お姉ちゃんで良いよ」


「いえ、いけません。伯爵様に叱られますので」


「お前、ペイジになれたのか?この国じゃ貴族でないと騎士になれないんだろ?」


「はい、ペイジになれました」


「いったいどうやってなったんだ?」


「ある日突然伯爵家の馬車が迎えに来たんです。お屋敷に上がると、伯爵様が「騎士になりたいのだな?良いか?今日からお前は私の息子だ」と仰って」


「そうなんだ、凄いじゃない。修行は大変だけど頑張るんだよ」


「パン、行くぞ」


「はい!伯爵様!」


「パン、何度言ったらわかるのだ」


「あ、そうでした。えっと、こういう時は父上です。公の場ではいけませんが」


「騎士隊長さんが?」


「私を引き取ってくださいました」


「フィナンシェ姫様に泣きつかれてな。息子が欲しかったのでちょうど良かった」


「フィナンシェちゃんが頼んでくれたんだね」


「では失礼する。行くぞ、パン」


「はい、父上!」


〈騎士達の列に戻るパンの後ろ姿を見送る七都達。鳥が一斉に飛び立つ。羽音。見上げる猫魔〉


「猫魔行くよ」


「俺、ちょっと行って来るニャ」


「行くってどこに?」


「すぐ戻るニャ」


〈駆け出す猫魔〉


「もうすぐ始まるよーーー」


「行っちゃったわね」


「しょうがねえな、先行ってようぜ」


【貴賓席】


〈フィナンシェ姫が会場に入り着席する〉


「(今日はあの方も出場なさるのね)」


〈胸に手を当てて瞳を閉じる〉


「(わたくしったらこんなにドキドキして…大きな怪我などなさいませんように…いいえ、全ての出場者に怪我など有ってはいけないのだわ)」


【闘技場の外】


〈猫魔が走って出て来て止まる。何かの気配を感じながら歩く猫魔〉


「隠れてにゃいで出て来るニャ」


〈黒い影が現れる〉


「魔界の奴が、何で人間界に来たニャ」


「フフフフ、今に皆んな来るさ。皆んなで人間なんか滅ぼしてやるのさ」


「人間は大神様が作ったのニャ、そんな事はさせないニャ」


「あれ?だって、それがあいつの望みだよ。あいつだって人間だったのにねフフフフフハハハハハ」


〈黒い影はサッと猫魔の前を横切って走り去る。笑い声だけを残して〉


「フフフフ、ハハハハハ」


「(人間を滅ぼすにゃんて許さない!皆んなの事は、この俺が守ってみせるニャ!)」


【闘技場】


「1回戦が始まるぞ。光!頑張れよ!負けたら承知しねえからな!」


〈観客席を見上げる光の神様〉


「フッ(団だな。大きな声だ)」


〈対戦相手が訝しげに光の神を見る〉


「(何だこいつ?何で笑ってんだ?俺の事バカにしてんのか?)」


「(さて、この魔法石はどうやって使うのだろう?団の言う通り稽古しておくのだったな)」


【地獄の門】


〈中の様子を窺う光の天使〉


「特に変わった事は無いみたいだけど…私達がやたら入れないから厄介よね」


【女神の泉】


「おおっ!始まったぞ!負けんなよ!何やってんだよ、とっととやっつけちまえよ!魔法石付いてんだろ?」


【闘技場】


「(団が用意してくれた魔法石…炎の魔法…イメージすれば良いのだな…過去世を思い出す…遠い昔人間界に居た時を…ハポネ村の北の山に炎で焼かれた文字…大の文字)良し!つぇーーーい!!」


〈光の神が剣を振り下ろすと炎が現れ大の字になる〉


「わ、ぐわあああ!!!」


〈一面炎の海になり、対戦相手が火に包まれる〉


「しまった、加減が出来なかった。大丈夫か?」


〈倒れている対戦相手に歩み寄る光の神〉


「火傷に効く精油だ。これを塗ると良い」


「お、お前…何言って…やがる…試合はまだ…終わっちゃいねえ」


「それ以上は戦えまい。済まなかった」


「何謝って…やがんでぃ?おかしな野郎…だな」


〈審判の騎士が戦士の状態を見る〉


「戦闘不能!それまで!勝者紫月光!」


【天上界女神の泉】


「よっしゃ!まずは1勝だぜ。ああちくしょう!あれが本当に俺だったらな…ま、まあ、俺の体を貸してるんだ、頑張ってもらわねえとな」


【闘技場】


「さあ、私の肩に」


「お前…本当に…変な奴だな」


〈傷ついた戦士を抱えて会場を出る光の神〉


「餡先生!餡先生は居られるか!」


〈早足で餡先生が来る〉


「そこに寝かせて」


〈餡先生と光の神は大火傷を負った戦士の治療を始める〉


「うっ…うぅ」


「少し我慢してね。精油を塗ったらヒーリングするわよ」


「越野餡。その人終わったら私もお願い」


〈チラッと小倉杏を見る餡先生〉


「あ、まあ大丈夫よ。急ぐなら他の医者に診てもらって」


「ひどいわね、それが友達に言うセリフ」


「友達だから言えるのよ。貴女にとってそのぐらい大した怪我じゃないでしょ?」


「まあね。さて、2回戦に間に合わないといけないから、行くわ」


「ごめんね」


「紫月光。決勝で会いましょう」


【観客席】


〈猫魔が戻って来る〉


「遅い!もう1回戦終わっちゃったよ」


「光のか…光はどうだったニャ?」


「勝ったぜ」


「猫まんま、魚食べる?」


「今は良いニャ」


「え?どうしちゃったの?猫魔が魚食べないなんて、熱でも有るんじゃない?」


「後で食べるニャ(魔界の奴が来ているニャ。さっきの奴だけじゃないニャ。これから沢山来るニャ)」


【地獄の門】


「うん?やっぱりおかしいわ」


〈ドンドンと門を叩く光の天使〉


「ここを開けて!開けてください!!」

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