『神様が引退したら大変な事になりました』

大輝

第1話えーーーっ?!神様が引退?

【天上界】


〈雲のようなベッドに横たわる神。オロオロする爺や〉


「ああ、大神様、どうなさったのです?」


「ワシはもう疲れたよ。物凄く眠いのじゃ。そろそろ引退してゆっくり休みたい」


「父上、大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃない。あー眠い。物凄く眠い」


「爺。父上が引退したらどうなるのだろう?」


「今迄そのような事はございませんでしたので、私には見当もつきません」


「また昔のような事になるかもね」


「これ、天使の分際で何という口のきき方です」


「爺、良いのだ、友達なのだから。それより、昔のようにって…あの時は父上達が収めたから良いけれど…」


「大神様があの状態じゃあね…闇の神はどうしていらっしゃるかしら?」


「うむ、叔父上の所に行ってみるか」


「私も行く!」


【人間界】


「何だか空がおかしくないかい?」


「どんよりしてるな」


「薄気味悪いね」


【天上界闇の神の神殿】


「そうか、兄上が…それで下界の様子がおかしいのだな。光と闇のバランスが取れている状態が一番良いのだ。光だけの世界も闇だけの世界も決して良い物ではない」


「叔父上、私は人間界に行ってみようと思います」


「しかし、私達はエネルギー体。肉体を持たずに人間界に行ってどうなる?」


「何か方法が有るはずです」


「光の神、図書館に行ってみよう。前に本で読んた事が有るの」


【人間界ハポネ村】


〈数日後〉


「昼間なのに薄暗いね」


「こんな日がいつまで続くんだろう?」


「歴史の本に書いて有るわよね?昔、こんなふうに空が暗くなって、そして物の怪が現れたって」


「あんなの本当か嘘かわかんないよ」


「千代子さんが言ってたわ「世界が闇に覆われし時、再び光の神が地上に降り立つ」って」


「物の怪で世界が混沌としてた時、光の神と闇の神が現れたって話しだね。お婆ちゃんの昔話は面白いけどさ」


「七都(なつ)は信じてないの?」


「だって、ただの言い伝えだよ。だいたい神様なんて本当に居るのかな?そりゃ居たら良いな、って思うよ」


「うん。悪い事をしたら罰が当たる。神様はちゃんと見てると思う。ううん、そう思いたい」


「ねえ、満(みちる)光(ひかる)は?」


「お兄ちゃんなら、さっき山に入って行ったわよ」


【ハポネ村の茶屋】


「お婆ちゃんまだ帰ってない」


「どこに行ったの?」


「よもぎの葉を摘みに行ったのよ」


「七都ちゃーん。大変だ!千代子さんが!」


「え?お婆ちゃんがどうしたの?」


「物の怪に襲われたって、今、餡(あん)先生の所に」


「大変。七都、行こう」


【療養所】


「越野先生、お婆ちゃんは?!」


「安藤千代子さんなら、奥の部屋に居ますよ」


【奥の部屋】


「お婆ちゃん!」


「七都。大きな声を出すんじゃないよ。ここをどこだと思ってるんだい」


「だって、物の怪に襲われたって言うから心配して来たんじゃない」


「千代子さん、大丈夫?」


「それがね、よもぎの葉を摘んでたらいきなり化けもんが現れたから、とっさに持ってた菓子を投げたんだよ。そしたら美味しそうに食べてるじゃないか。だからね、その隙に逃げて来たんだよ」


「怪我は?」


「村に戻ったら腰が抜けただけさ。杵さんが大げさなんだよ。大騒ぎしてここに運ぶんだもの」


「だってよう、いきなり倒れ込むからさ」


「杵さん、ありがとね。お婆ちゃんたら、もう」


「お婆ちゃんて呼ぶな、って言ったろ」


「はいはい、千代子さんです。そんな事より本当にお婆ちゃんが見たのって物の怪だったの?」


「だから、お婆ちゃんじゃないよ」


【天上界の図書館】


〈本を調べる光の神〉


うーん…しかし、そんなに都合良く手に入れる事が出来るものかな?


「ねえ、下界に行くなら私も一緒に行くね」


「え?」


「だって、一人じゃ何も出来ないじゃない」


【人間界ハポネ村の療養所】


「大変だ!餡先生!」


「今度は何?」


「ああ、満ちゃん。光が、光が…」


「紫月、紫月、しっかりするんだ!」


〈紫月光が運ばれて来る〉


「嘘でしょ?!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」


「これは…もう、手の施しようが無いわね」


「餡先生お願い、そんな事言わないで!お兄ちゃんを助けて!お願いよ」


「ごめんね、私だって助けたいけど…もう…魂が抜け出てる。ほら「何で泣くんだ?」って、満ちゃんの頭を撫でてるのよ」


「そんな…そんなの…私には見えないもん」


「満…(餡先生には見えちゃうんだよね、そういうの)」


「ちょっと待って、何か来た。光?」


「しーっ」


「光?そんなの見えないよ」


「私には確かに見える…あ、何か言ってる」


「しーっ、黙って。私は光の神」


「あ、天使が居る」


「どうもー」


「何?随分軽い天使ね」


〈金色の光が光の身体に重なっていく〉


「(何をするつもりなの?あ、光君の魂が天に昇って行く)」


〈餡は天に昇る光の魂を見ている〉


「お兄…ちゃん?」


「今動いたよね?餡先生!」


「え?」


〈光の身体に目をやる餡〉


「治療するから、皆んなは部屋を出て!」


〈部屋を出る村人達〉


「ほら、満も七都も、出た出た」


「満、大丈夫だよ。餡先生腕だけは確かだから」


「「だけ」は余計でしょう?ほら出てて」


〈七都は満を連れて部屋を出る〉


「えっ?」


〈治療をしようと餡が振り返ると、光の身体が金色の光に包まれていた〉


「貴方…確かさっき、光の神って言ったわよね。神だが何だか知らないけど、亡くなった人の身体を乗っ取るなんて、どういうつもり?」


「すまぬ…うっ…」


「あっ、まだ動いちゃダメ」


〈そう言って光の身体を寝かせる餡〉


「不思議…傷が癒えて行く。これが貴方の力なの?でも何の為に?」


「私に出来るだろうか(この世界を…救う事が)」


「何の事情が有るか知らないけど、用が済んだら帰るんでしよう?死んだはずの兄が生き返って喜んでる満ちゃんはどうなるのよ?」


「事実を話さねばなるまいな」


「それはちょっと待って。私は普通の人に見えない物が見えるけど、見えない人には理解出来ない事も有るでしょう?」


「その人になりきるしか無いニャ」


「猫魔」


「光の神、置いて行くなんてひどいニャ」


「猫まんま?」


「オバサン、猫まんまじゃないニャ。猫魔ニャ」


「おば、おばさん?ちょっと化け猫さん。おばさんは失礼でしょう?」


「化け猫じゃないニャ。妖魔ニャ」


「おんなじじゃない」


「言っとくけど、俺は良い妖魔ニャ。光の神様のペットなのニャ」


「ペットにした覚えは無いが」


「細かい事は気にしニャい、気にしニャい」


「私も、猫まんまの言う通り、なりきるしか無いと思うわ」


「そうニャろ?中々話しがわかるニャ。でも言っとくけど俺は猫魔ニャ。猫まんまじゃないニャって、聞いてニャいし」


「猫魔でも猫まんまでも、どっちだって良いじゃない」


「光の天使も居たニョか?」


「猫魔ちゃーん。猫まんま食べる~?」


「食べるニャ!」


〈猫魔に猫まんまを食べさせて餡が戻って来る〉


「猫ちゃん美味しそうに食べてるわよ。天使さんも一緒にね」


「すまぬな」


「良いのよ。そんな事より、貴方のヒーリング能力…興味深いわ」


「な、何故そのように顔を近づけるのだ?」


「前の光はちょっと乱暴で好きじゃなかったけど、魂が変わると顔つきまで変わるのね」


「は、離れてくれぬか」


「フフフ、お顔が赤いわよ。か・み・さ・ま」


「何故だがわからぬが、身体が熱うなった。この身体まだ本調子ではないようだ」


「いえいえ~それは健全な男の身体よ。ほら、ここがこんなに元気」


「うおっ、な、何故このような…」


「男性が女性に魅力を感じるとこうなるの」


「肉体を持つという事は、厄介なものなのだな」


「ねえ、ここで仕事しない?住・み・込・み・で」


「うっ、そのようにそなたの手が触れると、そこが硬うなって痛い」


「どう?その気になった?住込み」


「この者には妹がおったな?心配しているのではないか?」


「妹と言っても血が繋がってるわけじゃないし、今は別々に暮らしてるんだから良いんじゃない?」


そんなわけでこの療養所の世話になる事になったのだが…


〈翌日の療養所〉


「お兄ちゃん!もう大丈夫なの?本当に生きてるのね?本当に本当に大丈夫なの?」


「あ、ああ、心配をかけてすまぬ」


「変な喋り方ね、どうしちゃったのよ光?」


「ああ、光君ね、ちょっと記憶が無いみたいなのよ」


「えーーー?」


「そ、そうなのだ」


「その変な喋り方なんとかならないの?」


「すまぬ」


「変でも何でも生きててくれたら良いの」


「私は、今の光君素敵だと思うわ。物腰が柔らかくて」


「そぉうおー?何だか気持ち悪いけど」


「お兄ちゃん。私を置いて死んだりしないでね、約束よ」


〈泣いてる満の頭を良し良しと撫でる光の神〉


「痛っ」


今のは、この身体の持ち主の感情か?


心臓が…肉体が憶えていたと言うのか?


物狂おしいほどに妹を愛していたのだな。


〈数日後〉


「お兄ちゃん、本土に行くわよ」


「私も一緒に行くのか?」


「七都も」


【ハポネの港】


「船に乗るのか?」


「本当に何も憶えて無いのね」


「すまぬ」


「もう!調子狂っちゃうな。いつもならそこは「うるせえな」って言う所だよ」


「ここから船で本土のブリの港に行くのよ」


「ブリ?美味そうな名前ニャ」


「何か言った?」


「いや、何も」


「も、もう我慢出来ないニャ。魚の匂いニャ」


「何?物の怪?」


「まあ、可愛い猫ちゃん」


「どこが可愛いのよ、物の怪よ、物の怪」


「俺は妖魔の猫魔ニャ。光の神じゃニャい、光のペットなのニャ」


「お兄ちゃんが猫を飼ってたなんて知らなかったわ」


「もしもし、満?猫じゃなくて妖魔だから」


「猫魔ちゃん。仲良くしましょうね」


「はいニャ」


「聞いて無いし。まあ、悪い物の怪じゃなさそうだし良いか」


【ブリの港】


「着いた~」


「ちょっと、化け猫が居ないわよ」


「あそこにおる」


「あ、本当。もうマルシェに行ってる」


【ブリの町のマルシェ】


「美味そうな物がたくさん有るニャ」


「何だお前は?化け猫か?」


「俺様は化け猫じゃないニャ」


「怪しい、怪し過ぎる。近頃は物の怪が出るからね」


「だから物の怪じゃないニャ」


「あは、あはは、すみません。その妖魔、この人のペットなんです」


「何の騒ぎだい?おや、紫月さん家の満ちゃんじゃないか」


「あ、おばさん。今日は野菜たくさん収穫出来たから持って来たの」


「その猫放しておやりよ。この子達が連れてるんだ。悪い物の怪じゃないよ。私が保証する」


「まあ、あんたがそう言うなら信じるよ」


「さあこっちへおいで」


〈マルシェの八百屋で荷物を下ろす満達〉


「猫ちゃん、お腹空いてたんだろ?お食べ」


「貰って良いのかニャ?」


「遠慮しないでお食べよ。うちは八百屋だからさ、魚じゃなくて悪いけど美味しいよ」


「ありがとニャ。頂きます。美味美味美味いニャ」


「美味しいかい、そりゃ良かった。ささ、あんた達もお食べ」

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