名階一子の数学授業
白居ミク
数学三原則
「まず一番初めに数学三原則を教える。これだ。」
①数学は自由だ。どんなやり方でも答えにたどり着けばよい。
②復習せよ
③見直せ 計算間違いするな。
「これが数学3原則だ!」
「…誰が考えたんですか?」
「私だ。私はもともと文系で数学が苦手でな。実は大学も数学科じゃないんだ。
数学に取っ組んでる時に思い付いたのがこれだ。」
「分かりました。では、授業をお願いします。」
「まあ待て。お前は分かってない。この3原則の重要性を。
順に説明していくから。まあ、5分程度だ。」
「①だが。
どうやったら、数学の問題が上手に解けるようになると思う?」
「うーん。好きになることですか? 才能を持って生まれるとか…?」
「ちがう。公式をちゃんと覚えることだ。そしてそれをどんどん使うことだ。
数学には問題ごとに公式があって、文章題はそれを使えば簡単に早く解けるようにできている。
だから公式を順番にもれなく覚えて、しかもそれをじゃんじゃん使って体にしみこませて覚えた後でも錆びつかないように時々また使うことが大事なんだ。」
「自由だって、①に書いてますが。」
「そうだ。公式も早業も最短距離の解き方だ。覚えていればあっという間に解ける問題が多い。でも、やればやるほど、公式も早業も量が増えて、忘れがちになる。迷子になってしまうんだな。
それだけじゃない。たくさん暗記すればするほど、応用力がきかなくなる。ちょっと細部が違うだけで、やってない問題はパニックになって解けなくなるんだ。
難しい問題ほど、2段構え3段構えの解法を要求してくる。暗記と繰り返しだけでは解きにくくなる。
だから、いま覚えているものだけでも道筋さえ正しければ解けるはずだと、気楽に構えるんだ。
公式も早業も、たくさん教えるし、できるだけ覚えやすいように教える。
公式も、一つ覚えれば2つも3つも応用できる場合がある。
例えば、解の方程式から、判別式を見出したりとか、オイラーの公式から、三角関数の加法定理が2つともできたりとかな。加法定理から、三倍角を出したりとか。
だから、覚えなければならないが、忘れてもパニックになるなという事だ。公式とは違う工夫を要求されているだけかもしれないんだ。」
「分かりました。」
「数学で習う公式や早ワザは、身につければ強力な武器として役に立つ。しかし、回り道でも何でも、正しく歩んでいれば正解にたどり着く。
実際には、最短距離の解き方というものを習って、それを使うのが一番なんだが、だからといって他のやり方が間違いというわけでもない。確率の問題で、出てくる目をすべて書き出して確率を求めても、間違いじゃない。時間は無くなるが。
この自由な発想を許すところが、数学の面白いところでもある。」
「はあ。」
「その②。
数学の先生が5人いたら5人とも、10人いたら10人とも、これを言うと思う。
解法を理解するだけでは十分ではない。自力で解答が書けるようになるまで、何度も書いてみることが必要だ。
例えば、ラケットのふりかたを教えてもらったからといって、テニスができるようになるか?練習しなくちゃだめだろう? リコーダーの吹き方を教わっても、練習しないとうまく指が動かないだろう? 山道を教わっても、実際に何度も行ってみなければ…まあとにかく、練習しなければ数学も使えるようにならない。だから数学が得意な人というのは、復習を怠らない人のことだ。
不思議なことに、これをやっているとなぜか問題を見たときにひらめくようになる。」
「ほんとですか???」
「もちろん本当だ。しばらく離れるだけで勘が鈍るが。
すでに分かっている問題には、復習よりも予習の方が効果的だぞ。受験生は時間が大事だから、無駄な復習はしなくてよし。」
「その③。
計算間違いを甘く見てはいけない。ただ気を付けるだけではなくならない。これをやると記述式ならやり方があっていればある程度点はもらえるが、大問の最初の問いで計算間違いがすれば大問1問まるまる落とすことにもなる。
公式も答えのだし方もすべてわかっていたとしてもだ。だから計算間違いしないことが大変重要だ。
数学の得意な人はみんな計算間違いを防ぐ工夫を凝らしている。数学の先生はたいてい計算が早くて独自の工夫を持っているが、授業で気が付いたことはないか?
字をきれいにとか、広々したところに書くというのはもちろんだが、いろいろあるぞ。
まず1つは、お前が前にやっていたように、答えを出した後検算してさっと確認することだ。もし簡単にできるなら。この習慣は大変いいぞ。間違いをたくさん食い止める。
検算のためにも、数字はきれいに書け。見直してわからないからな。
これが1つ。」
「はあ。」
「あまり書き写さないというのもあるな。
人間のすることだから、式を丸ごと書き写していたら、どこかで必ず間違いが出る。
だから、書き写しはきれいかつ最小限にして、必要なところだけ。計算過程は余白にでも書けばよい。
これは貿易事務20年の大ベテランから教わった方法でな。」
「?数学の関係者じゃないんですか?」
「じゃない。でも事務職は間違いを犯さないプロだ。この助言はありがたく心に留めておけ。でも自分に合ってないと思ったら、無理して使うことはない。
私は、通分の掛け算で間違えることがしょっちゅうあるから、小学生みたいに横に、『×—3』とか書くようにしてるな。
ほかにも、先生ごとに工夫して個性があるから、自分に合ったのをありがたく真似するといい。」
「分かりました。」
「よし。数学は理系を目指すなら避けて通れないぞ。
数学の中にどっぷりつかれ。そうすれば勘ができてくる。問題を見れば頭が勝手に解いてくれるようになるからな。
それでも苦手なら、暗記だ。一度出た問題が出たら必ず解け。」
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