詳しめ免疫学



・登場人物―免疫細胞は体内を守る軍人たちである


 キラーTはインテグリンの車を駈ってやってくる。

 血流の流れが速いので、ブレーキ装置インテグリンがオフになっていると、自動的にキラーは全身を飛び回る。そして、炎症のサイトカインを出しているところでインテグリンがオンになって自動で停止する。

 止まったキラーTは、私たち細胞が出すMHCクラスⅠの両手の上に乗ったブツを、次々に自分の凹型に合わせていく。クラスⅠの上には、私たちの体の中のいろんな物質が乗っかっており、キラーT様の検査を受けるようになっている。

「ねえ、あれ何しているの?」

「自分の凹型に合うクラスⅠを探しているのよ。」

「合ったらどうなるの?」

「殺されるのよ。」

キラーTが探しているのは、たった1つの型にはまるたんぱく質だ。(これを「特異的」という)

うかつにもウイルスに感染し、ウイルスの体をのせて出してしまったものがいたらしい。しかもそれは、そのキラーT様の持っている凹型とぴったり合うものだったようだ。

近くでばしゅっという音がして、デスレセプターが押されたらしく、その細胞はだらだらと崩れて、小さなたくさんの泡になり、近くに集まっていたマクロファージたちに消化された。


*T細胞が認識できるのは、たった一つの型である。

これを「特異性」と呼ぶ。

T細胞は極めて限られたものにしか反応しない代わりに、反応を始めるとその効果は強力である。

強力であるからこそ、T細胞はごく限られた型でのみ、反応を始めるようになっているのである。T細胞の持つ指名手配用の凹型は、「TCR」と呼ばれる。T cell receptor「T細胞レセプター」の略で、T細胞の触覚のようなものである。これで一般細胞はクラスⅠ、抗原提示細胞はクラスⅡのMHCの盆にのせられているブツ(抗原)を確認する。

 クラスⅠは最終的に殺すかどうか、

 クラスⅡはそれ用の抗体を作るかどうかを決めている。



「ねえ。また来たよ。でも僕、前のキラーT様の時も大丈夫だったから大丈夫だよね。」

「あっ。今度のは…。」

 一般細胞Bははっと隣を眺めた。そこには酸素不足ですっかり色の変わった一般細胞Cがいた。癌化しているらしい。もう助からない。

 しかし一般細胞BはCから目をそらして、AにNK細胞に対する心構えを示した。

「いい?今度来られる方は、『キラーT』様ではないの。『NK』細胞様なのよ。」

「NK?」

「そうよ。NKは、『ナチュラル・キラー』の略で、あの方は、軍人学校『胸腺』を卒業していなくても、生まれつきの殺し屋(キラー)なのよ。

そして、あの人に会ったら、絶対にやらなければならないことがあるわ。それは、MHCクラスⅠを出すことよ。出さなかったらその場で殺されてしまうわ。

 あの方は手をつないだ瞬間に、私たちのデスレセプターに手をかけているのよ。

 MHCクラスⅠを出せば、抑制シグナルをかけることができる。」

 一般細胞BもAも順調に出せたが、Cは出せなかった。

 正常細胞なら誰でも出せるのだが、Cは血管が詰まった場所にいて、長年の間酸素不足にさらされているうちに、癌化してしまっていたので、誰にでも出せるものが出せなくなっていた。

「さあ。みんなMHCクラスⅠを出すんだ。」

 A、B、その他の一般細胞たちはMHCクラスⅠを出して、NK細胞のチェックを受ける。

 NK細胞はMHCクラスⅠをチェックしていったが、その触覚は、キラーTのような凹型ではなく、いろんなたんぱく質をチェックできる汎用性があった。

「む?」

 NK細胞はCのところで立ち止まった。

 Cは何も出していない。


 CはNKと手をつないだ瞬間にデスレセプターを押されて殺されてしまった。

 MHCを出して抑制シグナルを入れられなかったばかりに。


 それだけでは済まなかった。

 Cの横には一般細胞Dがいた。

 Dの中は、しばらく前から、風邪のウイルスでいっぱいで、そろそろDの膜を破って、ウイルスが大放出される時期に来ていた。

 Dの中の風邪ウイルスは、特殊な操作をかけ、MHCクラスⅠに、何も載せさせないようにしていた。それで、キラーTの検挙は乗り切れたのである。なぜなら、クラスⅠのお盆の上に何も載っていなかったので、キラーTは素通りしたのだ。

 しかし何も載っていないMHCクラスⅠは、NK細胞をごまかせなかった。

 NKはすぐにDのデスレセプターを押して、Dは中のウイルスごと、泡となってマクロファージに食べられていった。


 NKは「ハハハハハハ!」という大きな笑い声を上げて遠ざかっていく。

 NK細胞は笑うと活発化し、癌細胞や、特殊な防御策をとるウイルス持ちの細胞を、殺す細胞である。その代わり数はキラーTよりもよほど少ない。

 


 マクロファージはお掃除屋だ。

 体のどこかに炎症が起きると、そこに集まって、みんなでできた余分なものを食べて消化して回る。

 マクロファージは当然、ウイルスや細菌がいれば、一番にそれを食べる可能性がある。

 粘膜には似たような、そしてもっと優秀な「樹状細胞」がいる。

 そして、食べた後MHCクラスⅡにのせて見せて回ることができるという、限られた細胞にしか与えられていない特殊能力を持っている。


「あれは誰?」

「マクロファージ様だよ。」

「MHC出さなくていいの?」

「出さなくていいのよ。」

「僕、クラスⅠもクラスⅡも両方出せるよ。」

「あなたは血管の内皮細胞だからね。普通の細胞に出せないクラスⅡも出せる、抗原提示能を持っているからね。

 でも、あのマクロファージ様には、抗原提示をしなくていいんだよ。

 マクロファージ様には、T細胞様のような触覚がないんだから。そのかわり、抗原提示能を持っていて、クラスⅠもクラスⅡも出せるのよ。」

「じゃあ、何もしなくていいんだね?」

「なにもしなくていいのよ。」

 


・感染した時

 マクロファージはそこらへんにただよう異物を食べて回っていたが、そのうちに体から、MHCクラスⅡを出して、食べたものを指名手配するように周りにアピールし始めた。


 同じことを、粘膜にいる樹状細胞もやっている。樹状細胞は、クラスⅡだけでなく、クラスⅠでも抗原提示して、キラーTも呼び寄せている。

 こんな器用なことができるのは、取り込んだ細菌を体の中で、クラスⅠの上に移し替えるからで、これを「クロスプライミング」と呼ぶ。クロスプライミングのできる樹状細胞は器用である。


 ヘルパーTがやってきて、自分の凹型と細菌の型が合うかを調べている。

 合うヘルパーTがいた。

 ヘルパーTは、合うだけでGOしない。

 TCRの凹型が、MHCの盆の上に載った細菌とぴったりしているだけで反応を始めたのでは、体内はたちまち軍人(免疫)だらけになって、一般細胞まで死ぬことになる。

 だからTCRの凹型がぴったり合うまで、何もしないのである。


 さらに軍人(免疫)が働きにくくするため、TCRの凹型がぴったり合うだけでなく、共刺激と呼ばれるサブの刺激と、サイトカインと呼ばれるホルモンを浴びせかけてもらわなくては、働き始めない。

 2重3重に書類を用意しなければ審査が通らなくなっているのである。

 そしていったんGOが出ると、「増殖」が始まる。


 IL-2(「インターロイキン2」)というホルモンを浴びて、なんと倍倍ゲームで増え始める。

(*「2乗で増えるIL-2!」)


 増えたヘルパーT達は、B細胞に増殖するように言う。

 そして、やはりヘルパーTの凹型にぴったり合うB細胞が、増えて抗体を出し始めるのである。

 「マクロファージの出したウイルスや細菌の一部にぴったり合う凹型を持つヘルパーT」

 これもかなり確率が低い話であるが、

 「ヘルパーTの凹型とぴったり合う凸型抗体を持つB細胞」

 これもかなり確率の低い話である。

 この確率を上げるため、TもBもぎっしりと集まって、お見合いの成功率を上げようとしている場所がある。それが、「リンパ節」である。

 確率の低い話であったとしても、1週間もたてば、ぴったりのヘルパーTと、Bが、出会うこともある。

 そうすると、そのBも増殖して、凸型を鍛えると、その凸型を「細菌にぴったりくっつく投げヤリ」として、発射し続ける、砲撃手となって、全身をめぐる。

 このBの出す投げヤリと化した凸型のことを、「抗体」と呼ぶ。



「ねえ、何かヤリっぽい物が、血液の中をたくさん流れてるよ。」

「ああ、やっと来たのね。」「やっと来た。抗体だ。」「これでもう安心だわ。」「いや。まだ安心はするな。抗体が増えるまで時間がかかるぞ。」

 Ⅰ型IFN(いちがたインターフェロン)の警報を受けて、ウイルスに備え続けていた一般細胞たちは、喜び合った。周りには、哀れにもウイルスに中を食い尽くされ、苗床にされて死に、マクロファージに食べられつつある仲間たちの残骸が散らばっていた。

 

「あのヤリって何なの?」

「抗体さ。あれが血液を流れるようになったら、もう細菌はやってこられない。

 抗体が細菌にくっついて、マクロファージが食べやすいようにしてしまうから。

 そうか、風邪をひいてから、流れてくるだろ、小さい三角。あれが肝臓で作られる補体というんだが、抗体がくっついたものに、マキビシみたいにとりついて、殺してくれるのだよ。(オプソニン化)

 マクロファージも補体もかいくぐってここまでやってきたとしても、抗体がくっついた細菌は、もう細胞を攻撃できないのさ。(中和)。」

「じゃあ、もう細菌の心配をすることはないんだね。」

「でもこいつらは私たちの中にとりつくウイルスだからね。

細菌より厄介なんだ。」

 一般細胞Eは、ウイルスに食いつくされて若くして死んでしまった一般細胞Aの抜けた空洞を見やった。

 やがてはそこも別の細胞が埋めるだろう。

「このウイルス、手強い奴だったなあ。

Ⅰ型IFNの警報、どのくらい出てた?」

「一週間くらいかな。仕方ないよ。なんていっても初めての敵じゃ、ヘルパーTさんも、Bさんも、てこずるよね。」

「それにしたって、血管の中を無菌状態にしておくのが、彼らの仕事じゃないか。手間取ってくれたために、どれだけの仲間が…。」

 言いかけた一般細胞Fは、口をつぐんだ。

 

*1度目の敵は時間がかかるが、2度目からは素早く対応できる。

これを1次応答と2次応答と呼ぶ。

そんなことができるのは、ぴったりの型の記録用に、一度増殖して大活躍したTやBが、一部働く代わりに眠りについて、次の感染に備えているからである。

 ワクチンで弱い細菌に感染させておくと、次に素早く体が対応して感染を排除できるのは、こういう原理によるものである。

 「2度目はない」というのは、病気にかかって苦しんだものの強みである。

『麻疹で知られる 傾城の年』という江戸時代の川柳は、25年~30年に一度流行する麻疹に、免疫を持っているという事は、25歳以上であると、サバを読んでいたことがばれた遊女のことを言っている。




キラーTが来たのだ。

 増えたのは、ウイルスにぴったりくるヘルパーTだけではない。

 樹状細胞の「クロスプライミング」により、ウイルスにぴったりくる凹型(TCR)を持ったキラーTも、増えていた。抗体だけでは不十分である。ウイルスにとりつかれて、今内部でウイルスを大量に作り出している、そんな不届き者も始末せねばならない。


「ほら、MHCクラスⅠを出すんだよ。」

 Eは恐る恐る出したが、少し離れたところで、一般細胞が殺されるのを見た。

「これ、キラーT様の触覚(TCR)に形がぴったり来たら、僕殺されちゃうんでしょ。」

「しょうがない。ウイルスが中に寄生していたら、増え続けるんだから、他の細胞のために、そうしなくちゃいけない。」

 年かさの一般細胞はたしなめて、自らMHCクラスⅠを出した。

「だけど、これを出さなかったら、すぐに殺されることも…あっあの子出してないよ。」

「たちの悪いウイルスだよ。大丈夫。ナチュラルキラー様が来たら、出していないというだけで…。」

 言うまでもなく、ナチュラルキラーが、MHCを出していない細胞を殺して回っていた。キラーTが来る前から、ナチュラルキラーは、ウイルスにやられているこの一帯に集まって、初期掃討作戦を勝手に行っていたのである。


 こうして、抗体が大量に血中を流れるころには、感染した細胞はあらかた殺されてしまっていた。


 生き残った者たちは、死んだ者の穴を埋めるために、細胞たちの数が戻るまで生命機能を支えた。



・やがてがんになる

「あっ。あの細胞がんになっているんじゃないのかな。」

「あそこの血管は詰まっているから、酸素も栄養も足りないんだよ。嫌な細胞になってしまっても仕方がない。」

「そんなこと言ったって、あいつらは、増殖シグナルが壊れてるんだよ。どんどん増えるんでしょ。僕らの酸素と栄養まで、食い尽くされちゃうよ。」

「それは分かってるけどね。どうしようもないよ。ナチュラルキラー(NK細胞)様が来られるまではね。」

 年かさの一般細胞はため息をついた。

 ナチュラルキラーは少ないのだ。

 笑えば増えるが、この人間の体はしばらく笑っていなかった。幸福感にも、長い間縁がなかった。苦しくてつらいという思いばかりが心を占めていた。

 そしてガンは大きくなり、自治体の無料がん検診で発見された。



『免疫に勝る癌治療はありません。』

『全財産をつぎ込みますので、新しい治療でも構いません。受けさせてください。』

『あなたは幸運です。当病院は、免疫療法の専門なのですよ。

 それに、新しい治療の治験は、治療費が無料です。』


 医師と人間の間でそのような会話が交わされた。

 そして免疫を用いた最先端のがん治療が順番に行われた。

『まずはがん細胞を採取して、その癌細胞の種類を特定いたします。』

『がんにも種類があるんですか。』

『はい。たくさんあります。そして、癌細胞の種類によって、効く薬と効かない薬があるんです。

 患者様のがん細胞は…まだ有効な治療が分かっていませんが、効かないというエビデンスもないので、順番に治療を試していきましょう。』


*ここで書く治療法は理論的なもので、

実際に臨床で効果が否定されているものもあるかもしれませんが、

免疫の感じをつかむための文章ですので、臨床上の効果は無視して進めてまいります。


① お見合い

② 養子(TとB)

③ 武器だけ(抗体)


① お見合い

『樹状細胞を取り出して、外部で癌を抗原と認識させて、また戻します。』


「あれ、あの樹状さん、なんかへろへろだ。」

「だけど、キラーT様に、抗原提示はなさってるね。」

「あの抗原、最近増えてる癌細胞じゃないか?」

「あっ。これであの癌細胞もいなくなるのか?」

「キラーT様が認識してくださったらね。ちょうど認識するキラーT様なんてそうそうは…あっ樹状さん死んじゃった。」



② 養子(TとB)

『T細胞やB細胞を外部で培養し、癌細胞を攻撃する種類だけを選んで増やし、体内に戻します。』


「あのTさん、癌細胞を攻撃してるよ。」

「いったいどこで増えたんだろうな。あの癌細胞は小ずるくて、なかなかしっぽ(抗原)を出さないって、この前別のT様が言ってたのに。」

「だけど何か変だなあ。動きが鈍いよ。なんだか弱ってる。」

「さっき聞いたんだけど、あれは傭兵部隊だって。うちの胸腺学校を卒業したわけじゃないらしいよ。よそから来たそうだ。」

 

③ 武器だけ(抗体)

『抗体だけを増やすのは、可能です。無限に増え続けるヒト細胞に抗原認識のある抗体の遺伝子を導入し、可変部は人、定常部はネズミの抗体を作り…(長い説明)』


「なんだか変わったヤリ(抗体)が流れてくるよ。」

「あのヤリ、癌細胞に突き刺さってるね。」

「オプソニン化されていたら、マクロファージ様がよってくるからな。食べられてくれるさ。」



『治験では効果が上がりませんでした。

 今からでも普通の化学療法に切り替えます。』

『先生、その療法の成功率はどのくらいですか?』

『正直言ってあまり高くはありません。しかし、外科手術でとれないほど大きくなっており、化学療法しか方法はないのです。

 効くこともあります。』

『笑うとNK細胞が活性化するんですよね。

 私、これからはなんでも笑って過ごすことに決めます。

 同じ限られた時間でも、笑って過ごすほうが幸せです。

 化学療法も、苦しいのならやめます。』

『やめると癌細胞が増えてしまいます。』

『あまり苦しくないのだけ、続けることにします。』




・それから臓器移植

『癌はひとまず収まりましたが、化学療法で近辺の臓器の損傷が激しく、生命維持を行うため、臓器移植が必要です。

 移植は一部分です。

 ちょうどMHCの型がかなり一致する臓器提供者が見つかりました。

 拒絶反応は免疫抑制剤で抑えるため、がんの再発のリスクが高まりますが、今生きるために必要です。』



「あれ?あそこに入ってきた細胞なんだかおかしいよ。最近血もすごく少なくなったし、ただでさえ癌細胞のせいで栄養と空気が少なかったのに、今度は変な奴が来た!」

「だけど、出しているMHCは同じだよ。」

「よく見ろよ!俺たちのMHCは、父親母親から3種類ずつ、型番の違うMHCをもらってるんだぜ。だけど、あいつは5種類しか同じじゃない。」

「ほんとだ。MHCはたくさん種類があるからな。」

「あれじゃ、NK様に殺されるな。」

「それだけじゃない。MHCの上に乗っかってる抗原を見ろよ。」

「おや。俺たちの中にはないたんぱく質だ。似ているがちょっと違う。」

「な?あれは別のやつの体だ。俺たちと全く同じじゃないやつだ。」

 ちょうどその時、キラーTがそのMHCと、凹型(TCR)を合わせた。

 一般細胞たちははっと息を詰めて見守ったが、キラーTの凹型(TCR)とは一致しなかったらしく、キラーTは素通りしていった。

 一般細胞たちはほっと息をついた。

「安心するのはまだ早い。」

「なんで?胸腺学校では、人間の体内に反応するT様は、抑制T細胞様になって、軍人さんたちを抑えてくださるんじゃないのか?

 そのうち抑制T様がいらっしゃって…。」

「俺たちの体じゃないんなら、胸腺学校で見本として並べられていない。

あの抗原に反応するT様が出てきてもおかしくないぞ。」


*胸腺では体のすべての組織のたんぱく質が発現し、反応するTを排除している。だから、体内のたんぱく質を攻撃対象とするTはいないのだが、他人の体のたんぱく質まで排除できない。


「あんな抗原小さいじゃないか。

 あれにぴったりはまる凹型(TCR)をお持ちのT様なんて、現れるのに何年もかかるよ。

 最近、免疫細胞様たちの動きがすごく鈍いし。

 前ほど増えないんだよ。

 今までは凹型(TCR)がぴったり合えば、増殖なさってたのに、それが鈍くなってる。

 大丈夫さ。今日明日どうこうなるわけじゃない。」

「そう。今日明日は無事だろう。

 でも何年もたったらどうだ?

 あの抗原にぴったり合う凹型(TCR)をお持ちのT様が出てこないと言い切れるか?

 いつかは出てこられるんだぞ。」


*臓器移植を受けると、免疫抑制剤を飲むことになります。

 リンパ球を完全に排除したり、増殖のシグナルを途中で抑えたり、レセプターを破壊するなどして、免疫細胞の活動を低下させます。

 当然風邪はひきやすくなり、他にも様々な支障が出ますが、移植した臓器を攻撃させないためです。

 細胞が自分の中にある物質を提示するMHCクラスⅠ、抗原提示能を持つ細胞だけができる、外部の物質を提示するMHCクラスⅡ、説明をしてきましたが、これらは抗原を乗せるお盆であって、お盆の上に載った抗原こそが与えたい情報です。ですが、T細胞は、このお盆込みで抗原の形を把握しているために、MHCの形が一致していないと、人体にとっては何も出していないのと同じになります。

 さらにこのMHCには両親から半分ずつもらい、たくさんの種類があり、その全種類が発現し、そのうちの6種類が多型であるため、移植治療ではこの6種類の一致が、特に調べられます。

 MHCが一致していれば当然攻撃はされにくくなりますが、

当然細胞内で作られるたんぱく質には個人差があるために、いつかは免疫細胞の攻撃対象となります。

 それは、早いか遅いかだけの違いであり、移植した臓器は、いずれは使えなくなります。



2019年8月14日

一度掲載いたしますが、

また訂正・追加等を載せることがあるかもしれません。

免疫の知識は日進月歩であり、

今あやふやなことも数年先にわかっていたり、

今常識とされていることも、数年先にまったく間違いと言われることもあります。

ですので、この文章もかなりあいまいにぼかして書いております。

ご容赦願います。

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