生物講義

白居ミク

免疫

免疫

ヒト国免疫兵士 組織とその一生

 ヒト国には、細胞として、生命維持活動に携わらない、一組の兵士達(免疫)がいる。

 彼らは物質を作らない、分解しない、吸収しない、運ばない、壁の一部とならない。ただ、ヒト国を外敵から守るため、たくさん生まれた中から選び抜かれ、鍛え抜かれて増やされる。その一生の話。


 まず始まりは骨髄。

 造血幹細胞という、細胞の卵が生まれる。

 骨の中にあるが、これは骨で守られているためだと思われている。

 

 造血幹細胞

 ↓ 少し育って

 前駆細胞

 ↓

 これがいろいろな細胞になる。

 

 血管を流れる者は、兵士(免疫) 運搬人(赤血球) 道路整備(血小板)などなど

 すべてここから分けられて育っていく。


 ・赤血球(酸素運搬人 核(個性)が抜かれている。ただの運び屋)

 ・血小板(道路整備人 血管に穴が開けば、貼りついて自ら修復壁となる)

 ・好中球(食べて敵を掃除する化け物 もともとは免疫兵士の生まれだが、おかしな操作を受けて、異物は何でも丸呑みする、恐ろしい怪物(食細胞)にされてしまっている。「見つければ丸呑みして掃除」この化け物こそ、初動免疫(「自然免疫」)の要である。名前の由来は、ph的には「中性」だから)

     特にたくさん食べて、はち切れんばかりになる。膿は好中球の死骸。

 ・単球→マクロファージ(食べて掃除する化け物その2 好中球ほどたくさん食べない。そして、ちょっと頭があるので、ほかの細胞と連携できる。)

     皮膚や粘膜に住んでいる。

 ・B細胞(T細胞の手下スナイパー「免疫グロブリン(抗体)」を発射する)

 ・T細胞(幹部兵士)

 ・樹状細胞(将校)Tのさらに上の司令官。Tに司令を出す。皮膚や粘膜に住んでいる。幹部兵士たちが指示を仰ぎに来る。


 T細胞は、「胸腺」(心臓の上)で育てられる。

 よって、血液に乗って、胸腺(幹部兵士養成学校)へと送られる。



T細胞養成学校(胸腺)

 T細胞(幹部兵士)にはいくつも種類があるが、それは後で。

 胸腺(養成学校)の構造は、「髄質上皮細胞」(教官)が、スポンジのような網目構造を取っていて、その中をくぐり抜けるうちに、T細胞の素(訓練生=胸腺細胞)は分化・選択される。

 残るのは全体の5%で、あとは死ぬ。

 

 髄質上皮細胞(教官)は、体中の細胞の見本をヘルメット(MHC分子)に乗せている。

細胞たちは、他の細胞も全部そうだが、目がない。

(ヒト国内にはそもそも光が全くないので、あっても役に立たないだろう。)

ただし、免疫のT細胞には、外界を認識する手段として、例外的に、目の代わりの、触角(T細胞レセプター)がある。ちなみにこの触角、飛ばせば武器になる。それをするのは、下部兵士のB(細胞・スナイパー)の仕事である。

ただし、触角は、側に来て、触って、しかもピタッと合う物・そこそこ合う特定の異物しか見えない。そして、見えた物は、敵と思って攻撃態勢を取るのである。

だからこの、触角(レセプター)をふるいにかけるのが、養成学校の目的である。

におい(ホルモン)を感じる鼻もあるが、これは基本どの細胞も、細胞の表面(細胞膜)で感じ取れる。感じ取れる匂いは細胞によって決まっている。特定の命令にしか鼻はきかない。

におい(ホルモン)。幹部兵士たちが操るのは、その、「サイトカイン」というにおい命令である。(細胞に耳はない。においで命令する) 幹部クラスの一部の免疫兵士たちは、この「サイトカイン」命令を出せるので、その命令のきける他の下部の免疫兵士たちを指揮できるのである。


養成学校の内部を見てみよう。

教官達がヒト国中の細胞の見本をヘルメット(MHC分子)に、見本の細胞をくっつけて、見えるかどうかを検査している。

見えすぎる者は、すぐに強いショックを与えてその場で殺してしまう。(負の選択)その幹部を成長させれば、下部兵士とともに、ヒト国内を、攻撃しまくるだろう。

逆に全く見えない者は、見込みがないので、ほったらかしにして、死ぬのを待つ。全く見えないという事は、「ヘルメットも分からない」という意味なのだ。多少見込みのあるものなら、触角を作りかえて満足のいく形にして、また来るのであるが、それでもだめなら、教官の「よろしい」がもらえずに、やがて死んでいく。(正の選択)

「ほどほどに見えるもの」、これだけが残される。彼らは「ヘルメット(MHC分子)を見る」能力がないほど無能ではなく、また、「見えすぎてヒト国の壁や工場を敵だと思い込む」ほど、見えるわけでもない。「ほどほどの触角」これが、幹部に必要なのである。

ちなみにこのヘルメット、人によって形が違う。臓器移植などで、拒絶反応が出ないかどうかを調べているのは、このヘルメットの形が似ているかどうかを調べている。似ていれば受け入れてもらえるが、自分のと違う型のヘルメット(MHC・人の場合は特に”HLA”)だと、ヘルメット自体を敵とみなして、腐り落ちるまで攻撃を加えるからである。

こうして幹部候補生は、5%を残して、あとは闇に消えていく。彼らは戦闘能力があるので、誰でも残れるというわけではないのだ。

それでももちろん、チェック漏れもあり、養成学校も教官も完ぺきではない。

*ちなみに、手下スナイパーの骨髄のB細胞でも、「負の選択」は行われる。Bも触角があるからだ。しかもスナイパーで、攻撃力が高いので、慎重に増やされている。しかし、指令をもらう側なので、見えなくてもよい。「正の選択」はない。


 ちなみに、ここで幹部兵士は、主に2つに分けられる。

 分け方はいたって単純で、実は教官のかぶるヘルメットには2種類あるのだが、どちらが見えやすいかで決まる。警察用ヘルメットⅠ(Ⅰ型MHC)が見えやすい方が、「処刑人」(キラーT細胞)に、指令送り用ヘルメットⅡ(Ⅱ型MHC)が見えやすい方が、「指令兵士」(ヘルパーT細胞)になる。

 ヒト国内専門「汚染細胞処刑専門の幹部警察」(キラーT細胞)と、

 侵入した外敵専門の、「下部兵士への指令兵士」(ヘルパーT細胞)である。


「汚染細胞処刑」とは、つまり、それほど戦闘能力のない細胞が、侵入されてしまい、自力では何とも仕様がないとき、警報を鳴らして「助けて!」ホルモンを出し、さらにヘルメットⅠをかぶってそこに侵入者のきれはしをのせておく。

すると「処刑人」(キラーT細胞)が来て、他に汚染が広まらないように、細胞ごと殺してしまうのである。火を消すのに水をかけるのではなく周りの燃えやすい家をすべて壊して回った江戸時代の火消しのような破壊的手段であるが、これがヒト国内の警察のような役目をしている。

ちなみにこの処刑人、スペシャルクラスもいる。それが、話題の、「NK(ナチュラルキラー)T細胞」である。細菌やウイルスの中には、ヘルメットⅠをかぶるのを阻止して感染する、賢い奴もいるため、ヘルメットをかぶっていない怪しい細胞を殺して回るのが、このNKである。その上彼らはじゃんじゃんサイトカイン命令を出すこともでき、普通の処刑人(キラーT細胞)では対処しきれない部分に、対応してくれているのである。


「指令幹部」とは、つまり下部兵士に指令を送る役目である。送る相手は、主にB(B細胞)、ほかに、マクロファージ(掃除化け物)などであるが、ヘルパーにもいろいろ種類がある。


じつは、この幹部達の上にさらに、「将校」(樹状細胞)がいて、これの命令がなければ、幹部も動けない。免疫組織は、人間と同じく縦社会で、将校が直接下部兵士に命令しないし、下部兵士に分かるサイトカイン命令も出せない。将校は幹部としか話さないのである。それに、幹部兵士も下部兵士も、命令がなければ敵がいても動かない。ここもヒト社会とよく似ている。


触角は実に鋭く、頼りになるが、初めての敵の場合には、それに合った触角(レセプター)を持った幹部兵士(T細胞)、下部兵士(B細胞とか)を増やすのに、約3日かかる。これを「獲得免疫」と呼ぶ。

一度増やすと、一部の兵士を触角ごと保存しておくので、次からはすぐに増やせる。これが、「免疫がある」という状態なのである。


処刑人、指令兵士となった幹部兵士達は、兵士専用道路(リンパ腺)へむかう。

キラーT細胞、ヘルパーT細胞や免疫兵士が集うこのリンパ腺を、次の項で説明。



免疫兵士専用道路(リンパ管)

 できた指令兵士たちは、命令が出るまでリンパ管で休んでいる。

 これは、免疫兵士専用道路である。攻撃したがる人間は、ちょっと隔離されているのである。

 生活道路(血管)にも出張機関があり、これは「脾臓」とよばれて、ここにも待機中の免疫兵士(T細胞)がぎっしり詰まっている。

リンパ腺は、小腸に始まり、胸腺(養成学校)近くの鎖骨下静脈で終わる。心臓近くで再び生活道路(血管)と合流する。


小腸は細菌のたまり場なので、ここで細菌たちを捕捉し、やっつけるのが、普段の免疫指令兵士(ヘルパーT細胞)の主な役目である。

(つまり腸内をきれいにすれば、その分免疫兵士たちは、他の場所で働ける。腸内をきれいにすることが、肝心だ肝心だという医者がいるのは、そのためなのである。)

 

リンパ節という少し広めのたまり場が何か所にかあり、そこは生活道路(血管)との特殊な合流地点(高内皮細静脈)もある。

 将校から指令を受けると、幹部は指令に従って増えて、命令を出し戦闘準備を行わせ、下部兵士は触角を研ぎ澄まし、ここから血管へと出ていき、活動を開始する。

 風邪を引くと、リンパ節がぐりぐりと腫れ上がるのは、そこで免疫兵士たちが、血管へと出ていく準備をしているからなのだ。


とはいっても、指令兵士は、勝手に働けない。

 将校(樹状細胞)の指令がなければ働けないのである。

 つまり、将校(樹状細胞)も、この専用道路(リンパ腺)で張っていて、細菌をとらえ、次々にT(キラー・ヘルパーT細胞)に指令を送っている。

 

 ここで樹状細胞(将校)について説明しておこう。

 実は彼も、怪しい操作を受けて、「何でも食べてしまうお掃除化け物」になったしまった口である。ただし彼らの場合は自分の意志でそうなったかもしれないのだ。

 なぜなら、食べた物の味にしたがって、幹部たちに働くか働かないかの指令を出しているからである。将校(樹状細胞)は免疫兵士たちのトップに君臨している。

 「お掃除化け物(食細胞)」たちはいくつか種類があり、樹状細胞(将校)のほか、マクロファージや、好中球などが存在するが、彼らは触角の代わりに、体の中に、触角が束になった舌(トル様レセプターなど)をもっている。基本的な細菌やウイルスなら、この舌で、ざくっと感知できる。触角ほど正確ではないが、ざくっと分るので、最初からヒットする。

 将校(樹状細胞)はこの舌(トル様レセプター等)を使って、敵かどうかを感知し、ヘルメット(MHC分子)に破片を乗せて、それが見える指令兵士(ヘルパーT細胞)、処刑人(キラーT細胞)に攻撃命令を出している。

 普段は皮膚や粘膜で待機し、敵を待ち構えている。

 

 

 これで基礎はおしまい。

 最後に免疫の特徴5つ。

① 抗原特異性(一つしか見えない。)

② 多様性(ゆえにいろんな触角を作ったり作りかえたり。)

③ クローンの増大(増えた細胞は残る)

④ 自己寛容(自己細胞を攻撃しないようにふるいにかける。)

⑤ 免疫記憶(一度増えると長いこと残る)



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