予備校のススメ

「と、以上で大体私の知っているコツは並べたわけだけれども、このように大学入試には見えないルールが山ほどある。よって…」

「何か不公平じゃないですか?」

「何が?」

「だって、勉強して努力して、頭のいい人だって、知ってないだけで落とされるわけだし…。」

「何を言う。これほど平等に評価してもらえるのは、大学入試で最後だと思え。そんなことを考えている暇があるなら一問でも多く解いて、合格率を上げる努力に向けるんだ。社会に出たら、仕事ではなくて、上司のご機嫌取りがうまいかどうかだけで判断されるぞ。いくら仕事ができた所で、上司のご機嫌伺いの下手なやつは一生出世できない。リストラになったらクビにされる。たとえ有能で会社を支える人材でもな。仕事ができなくてもご機嫌取りのうまい奴は残れるんだ。これは事実だ。今のうちにこの平等さをよく味わっておけ。

天才が十年勉強しても貧乏人にはまず未来がない、お金のあるやつにこそ有利になっているのだから、君に有利だ。…と、いうわけで、予備校へ行くことをお勧めする。」

「僕、予備校本当に嫌いなんですけど…。」

「好きになる必要はない。一年で絶対に抜け出せ。

評判をよく聞いて、春期講習でどこが向いているかあれこれ確認してみる。入ったら変えられないから、ここは慎重に。予備校ごとに、スパルタ式だとか、公務員式だとか、いろいろあるから、向いていると思える所を探せばいい。中身がなくて宣伝だけがうまいところに騙されて選んだりは絶対するなよ。一年後に泣くことになるぞ。評判を聞くのが大事だ。

どこも体験授業には、看板教師を持ってくるからあんまりあてにはならない。それに、春期や夏期ではコツまでなかなか言ってくれない。だからやっぱり入学する必要がある。難関を目指すなら特にな。」

「ほんとに嫌いなんですよ! 家庭教師だけじゃダメなんですか?」

「だめだな。私が知っているコツなんて、ほんの一部にすぎない。本当に細かいコツは、やっぱり大手の予備校が握っている。

何でそんなに嫌いなんだ? まあ、私も好きではないが。」

「露骨にひいきするから。」

「当然だ。合格率を上げてくれそうな生徒は熱心に教える。来年3月の募集ちらしに合格者を書けなかったら、その予備校はつぶれたも同然なんだから、死活問題だ。生徒の顔は全員志望校と模試の判定結果に見えているはずだ。学校とは違う。

もしも出来の悪い生徒にも笑顔を向けて声掛けをして気を遣う予備校講師がいたら、その行為は立派だが、たぶんクビになるな。経営方針に逆らっている。できのいい生徒を、誉めなければならないんだ。講師の笑顔も、予備校の立派な武器の一つだ。

逆に、できる生徒はどの学校も本気で教えるし、値下げもしてくれる。」

「やっぱりなんか間違ってるって気がするんですけど…。」

「ふん、若いな。世の中理不尽だらけだ。まだ点数で評価してくれるだけましだ。がんばれよ、青年。」


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