第83話 DDRパフォーマンス大会 その12

静まり返る会場、踏まなければDDRではないと過去に宣言したロクドーに何名かの視線が集まる。

魔法の感覚が無かったので、どう判断するのか気になった者達である。

その視線を受けロクドーは一歩前に出た。


「見事・・・まさに見事と言わざるを得ないパフォーマンスでした!」


一見すると曲が流れている間、マッスルポーズを延々と行っていただけ・・・

だが曲は実際にクリアされた、その謎の正体は驚くべきものであった。


「皆さん、上位ランクの冒険者の話でこんなことを聞いたことがありませんか?」


そう言って続けられた話、それは誰もが一度は耳にしたことがある神業であった。

すなわち、敵の攻撃を素早く避けて直ぐに元の場所に戻り、まるで攻撃が擦り抜けたように錯覚するアレであった。

何処の戦闘民族かと問いたくなるようなこの技、実は御伽噺として語られている伝説の勇者の話にもあった。

それゆえにロクドーが言いたい事を誰もが理解した・・・

つまり!マッスルポーズのまま踏むべきタイミングと同時にパネルに足を動かして反応させ、直ぐに元の場所へ戻っていたのである!

そして、これはザナップに取りついた精霊アメスタシアが行ったと言う事もロクドーは理解していた。

だがしかし、本番で体調が万全ではない状態でパフォーマンスを披露するのは良くあること、大事なのは結果である。

だからこそロクドーはその事に付いて触れなかった。


「えっ・・・あれ?」


それと同時くらいに筐体の上に立つザナップはアメスタシアの支配から逃れ意識を取り戻していた。

そして、自らになにかが憑りついて体を動かしていた事を理解した。

だが悪い気はしなかった。

ザナップ自身が披露しようと考えていたパフォーマンス、それは背面関西ステップだったからである!



関西ステップ:基本的に中央に足を置いて矢印を処理するステップ法。

足の入れ替えが激しい反面、足が縺れる事が少ない踏み方である。

時代と共に消えていった体力を必要以上に消耗する踏み方であるがパフォーマンスには不可欠なステップである!

ちなみに関東ステップと呼ばれる踏んだパネルに足を残していくスタイルが基本となっていったのは必然と言えるであろう。



納得すれば凄いんだけど地味なパフォーマンスである事を理解した観客達。

だがこれはこれで大いに有りだと受け入れられるのに時間は必要なかった。

自由に魅せる!それがDDRのパフォーマンス!

まるで鍛冶師が武器に自らの名前を緻密な作業で彫り込むかの様な極意が受け入れられたのだ!

遅れて徐々に上がり始める拍手!


「す・・・素晴らしいパフォーマンスありがとうございました!」


司会の受付嬢が我に返り、大きく口にした事で一気に観客たちのテンションは再起動した!

それに合わせ受付嬢が審査員達に視線を向け、それを理解した審査員たちが得点を記載した!


「それでは発表です! ただ今の得点は・・・8点、4点、6点、4点、9点! 合計31点!」


独特のパフォーマンスに持ち上がった会場!

その熱が冷めぬまま司会は続けてのエントリーの名前を呼ぶ!


「それでは続いてエミリー選手どうぞ!」


そう呼ばれて出てきたのは・・・ローブを着た少女であった。

釣り目で鋭い目つきで怒りを抑えているかのような表情のまま一定のスピードで出てくるエミリー。

そのまま筐体に上がってゲームをスタートする・・・


「あっ・・・あのエミリー選手、な、何か一言・・・ヒッ?!」


受付嬢のその一言にヤバいくらい殺意が混じった視線が向けられた。

それ以降なにも言わなくなったエミリーは慣れた手つきで曲を選曲する・・・


「そ・・・それではエミリー選手どうぞ!」


半泣きになりながら受付嬢が仕事を全うし曲が始まった・・・

その選ばれた曲は・・・MAKE IT BETTER (So-REAL MIX)であった・・・



MAKE IT BETTER (So-REAL MIX):通称ミツオ様。

1.5から登場した曲のリミックスで夏っぽくアレンジされている。

波の音などが入っており裏打ちや同時踏みコンボ等かなりの高難易度曲となっている。



ザワザワとする会場、曲の難易度はベーシックだがマイナーな曲な為に知らない者も居たのである。

更に、少女が選ぶ曲とは思えないと言うのもあるが、今まで彼女のプレイしている姿を見た者が居なかったのである。

この世界にロクドーが設置した音ゲーは各所にあるが、それでも設置されている場所同士で交流が持たれ大体の有名プレイヤーの情報は共有されているのだ。

だからこそ、パフォーマンスに参加しているエミリーと言う名に聞き覚えが無いのが不思議なのであった。

特徴があり過ぎる鋭く悪い目付きの少女プレイヤーが無名な訳がないのである!

そして、家庭用が出ているとはいえ、選ばれている曲が2ndにしか収録されていない新曲だったからだ!


「ふんっ!」


しかし、会場の困惑を一蹴するかの様な気合の入った声と共に響く足音!

少女が発生させたにしては大きすぎるその音に誰もが驚いた。


ダン!ダン!ダダダン!


響く足音!

家庭用のハンドクラップをイメージさせるかのような響く正確な足音!

この世界のプレイヤーにとって上手い人程足音をあまり立てずに踏むと言うのが常識であった。

だがそれが覆された瞬間でもあったのだ。

無駄に体力を使うこの力のこもった踏み方。

それを目の当たりにした面々の中で数名は気付いたのだ。


(そうか・・・これは足音を奏でるパフォーマンスなんだ)


矢印の来ていない場所で変則的に鳴り響く足音!

ロクドーは驚きが隠せなかった、それはまさにタップダンスの起源そのものであったからである!



タップダンス:モダンダンスの一つで爪先と踵にタップスと呼ばれる金属を装着し足音を奏でながら踊るダンス。

元々は18世紀のアメリカで黒人奴隷が労働後にダンスを踊る際、白人が黒人の集まる場所でのドラム使用を禁止した。

その際に黒人たちはドラムの替わりに足を踏み鳴らしたのが起源とされる。

現代では音を合わせて奏でるリズムタップやダンスの中に足音を自然と鳴らすミュージカルタップなどのスタイルがある。



足音を鳴らすには強く勢いをつけて広い面積を地面に叩きつける必要がある。

その為このパフォーマンスは足首に大きな負担を強いる、それを理解したからこそ見ている者は納得した。

今目の前で踊っているエミリーと言う少女がどれほどの覚悟でパフォーマンスを披露しているのか・・・

あの強張った表情は今彼女の足首に襲い掛かっている痛みと衝撃に気付かせない為の物だったのだと。

彼女の体格から体重を考えれば響く音の大きさを出す為にどれ程の力が込められているのか・・・

そして、その痛みに耐えながら手を抜くことなく踏み続けているのだ!

いくら終われば回復魔法で治療が出来るとはいえ、下手をすれば歩くのも困難になるかもしれない体を張ったパフォーマンス!

最早観客達の視線はエミリーを応援する物となっていた!

筐体に向き合い後ろのバーからは首から上しか出ないような少女が頑張っている!

固唾を飲むとはこういう事かと理解するかのような視線の中、エミリーは最後の3連打を見事に踏み切った!

両手を握り締めて斜め下へ伸ばし最後の一歩を踏んだ姿勢のまま硬直している彼女・・・

少し遅れて拍手が一斉に襲い掛かった!


「うぉおおお!!!!」

「よくやったぞぉおおお!!!」

「おとうさんは感動した!!!!」

「いや誰だよお前?!」

「エミリーちゃーん!!!」


何名か変な事を口走っていたりするが、その歓声にエミリーは後ろのバーに手を置いてそっと振り返った。

そこには最初に見た強張った表情ではなく、あどけないちょっと目付きの悪い少女が微笑んでいた。

そして、その表情が全てを物語っていた。

痛みに耐えて頑張ったと言う予想は合っていますよと・・・


「「「「「うぉおおおおおおおおお!!!!!」」」」」


会場は更にヒートアップ!

体を張った少女に惜しみない拍手が送られ審査員達は点数を記載していく・・・


そして、審査員が点数を記載し終えて受付嬢に手渡した時であった・・・


「あーもう限界!」


エミリーの口から聞こえたのはガラガラ声であった。

そして、その言葉と共にボフンっとエミリーの体から煙が出てその姿が見えなくなる・・・

そこに居たのは・・・面影を一切残していない丸々太った雌のオークであった・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る