第72話 DDRパフォーマンス大会 その1

シレーヌは娘達に連れられてコンマイ国を訪れていた。

最近は娘と共にDDRを軽くたしなんでいる彼女はすっかり音ゲーの魅力にやられていたのだ。


「おっ待たせたか?」

「あっおとーさん」


アイとマインがシレーヌと手を繋ぎながら魔王サタンに開いた手を振る。

その魔王サタンを娘とは違う表情で見詰めるシレーヌ。

ペコリと頭だけ下げるその様子にまだ心を閉ざしているのは直ぐに見て取れた。

ただでさえここ数日帰ってきて居なかった事もありシレーヌは完全に魔王サタンに捨てられたと勘違いをしていた。


「それじゃあ行こうか、シレーヌ・・・」

「はい・・・」


どこか余所余所しい感じになるのを二人の娘は寂しそうに感じながら魔王サタンの後を付いて行く・・・

この様子で本当に仲直りなんか出来るのか?

アイもマインも心配しながらもその後を付いて行ったのだが徐々に周囲の雰囲気が変わり始めたのに気付いた。

夕刻が近付き、普段であれば仕事を終えた人々が帰る姿がチラホラ見える時間帯だというのに妙に人気が少ないのだ。

そして、前方から感じる熱気・・・

魔王サタンからシレーヌを連れて遊びに来るようにと言われ今に至るのだがその詳細は聞いていなかった。


「あれ?おとーさんあの垂れ幕もしかして・・・」


マインがそれに気付き声を上げた。

それを見たアイも表情を一変させた。

まだ先に見える高く掲げられた垂れ幕にそれは記載されていたのだ。


『第2回ロクドーさん主催!DDRパフォーマンス大会!!本日開催!』


娘二人が嬉しそうに早く行こうと人が集まる方向へシレーヌの手を引きながら駆け出そうとする。

その様子に驚きながらも微笑ましくシレーヌは付いて行く・・・

その横で誰にも気付かれずに真っ青になっている魔王サタン・・・


「おいおい・・・なんだこれは・・・こんなの聞いてないぞ・・・」


シレーヌとの仲を戻すためにパフォーマンスを披露する場を設ける。

そうとしか聞いていなかった魔王サタンは唖然とする、目の前の人だかり全ての前でアレを披露すると言う姿を想像して震えていたのだ。


「おとーさん?早く行こうよ」

「う・・・うむ・・・」


アイの言葉にバレナイ様に返事をして歩を進める魔王サタン。

その足取りは非常に重かった・・・







「司会はこちらで用意しましたからロクドーさんは解説をお願いできますか?」

「・・・はぁ、分かりました。店長様のお願いですから任せてください」


その物言いに店長は違和感を覚える。

フレンドリーに最近ロクドーが話してくれるようになった数少ない人間だと店長は自身を考えていたのだが、ロクドーの口調が前の敬語に戻っていたのだ。

遠巻きに他人に戻ってしまった感を受けて店長は妙に焦りだす。


「ロ、ロクドーさん?どうしたんですか?なんか口調が・・・」

「えっ?自分は前からこんな口調だったと思いますがどうかしましたか?」


怒っている、静かに確実に怒っているロクドーのその様子に店長は焦りだす。

そこでフト、ロクドーが最初にお願いした事と現在の状況の違いに気付き始める。

ロクドーは確かに場所と時間を借りたいとは言ったが・・・イベントを開催したいとは言わなかったのだ。

他の人間からロクドーが主催と言う話を聞いて思考誘導をされた様に勘違いをしてしまった。

それを理解したのだが全ては手遅れである、沸き上がる観客、エントリーを受け付けている場所に並ぶ者、審査するのを楽しみにしている国の重鎮達。


「店長様、自分もエントリーしてきますね」


そう言い残してロクドーもエントリー受付の方へ向かう・・・

店長の困惑と後悔の中、空気を読まない司会の声が高らかに響く!


「エントリー枠は残り1です!参加希望者は御急ぎ下さい!」


驚くのも無理は無い、エントリー枠は時間の都合上15組用意していたのにも関わらず既に14組が決定していると言うのだ。

他国の人間も関係なく種族すらも気にしてない集まってるメンバーに視線をやれば今から中止なんて言い出せるわけも無い。

そして、今最後のエントリーに一人の男が駆けつけた。


「ま・・・間に合った・・・」


黒髪長身のその男は見慣れない服装をしていた。

この世界には無いカジュアルと言った感じのラフな格好。

チラリと審査員席に居る帝国の皇帝が頷くのを見て彼が帝国の人間だと言う事は直ぐに分かった。


「えっ?この名前で本当に良いんですか?」

「はい、これでお願いします」


何か問題があったのか分からないがエントリー名で確認を受けていた男はチラリとロクドーの方を見る。

気付けばロクドーもその男に視線をやっていた。


「初めましてロクドーさんですね?自分はポポロと申します」

「・・・こちらこそ初めましてロクドーです」


一瞬の間、その時ロクドーがポポロと名乗った男の服装と立ち振る舞いを見て何か納得した様子だった。

握手を交わし何か通じ合った感じのする二人は離れる、それと共に声が上がった。


「ロクドー!どういう事だこれは!」

「あっサタン、いや~どうしてこうなったのかなぁ~?」


魔王サタンである、それに困った様子のロクドーは苦笑いを浮かべながらサタンを参加者席へ連れて行く・・・

それと共に司会者の声が高らかに上がった!


「大変長らくお待たせ致しました!これより第2回パフォーマンス大会を開催致します!」


沸き上がる歓声、盛り上がる観客、そんな響き渡る声の中小さくロクドーは呟いた・・・


「前回のはパフォーマンス大会じゃなくてフリースタイル大会だったんだがなぁ~」


誰にも聞こえないその声を掻き消すように最初のプレイヤーが歩き出した。


「エントリーナンバー1『チルコポルコ』どうぞ!」


クジで選ばれた最初の二人が台の方へ歩き出す。

それを見て誰もが歓声を一気に上げる!

それはそうだろう、今や知らない人は居ないプレステを作り上げたガム国の天才である二人である。

軽く会釈をして二人は1Pと2Pのバーの後ろに立つ。


「えっ???」


誰かの疑問の声が上がる、それはそうであろうゲームをプレイするのであれば筐体に上がるのが普通である。

だが二人はそこで良いのだと司会に視線を向けて頷く。

慌てて司会もマイク型の魔道具を近付けた。


「それでは一言どうぞ!」

「皆様初めましての人は初めまして、チルコです」

「ポルコです」

「今日は私たちが開発した新型ゴーレムのパフォーマンスを是非ご堪能下さい!」


パチンっとチルコが指を鳴らすと芸戦の後ろに巨大なゴーレムがゴゴゴゴゴゴゴ!!!と立ち上がった。

誰もがそれを見て唖然と固まる。

そしてその手には何か巨大なコントローラーの様な物が握られていた。


「私たちがあのゴーレムをこのコントローラーで操作します!そして、操作されたあのゴーレムが手にしたコントローラーでこのゴーレムを操作してDDRをプレイします!」


意味が全く分からない、誰もがそう考え視線を戻すといつの間にか筐体の上に人型ゴーレムが上がっていた。

誰もが唖然としている中、なんとか我を先に取り戻した司会の娘がどうにでもなれと大きく言い放った!


「それでは早速プレイしていただきましょう!!」


その声にワアアアアアアアア!!!!!と歓声が上がりゴーレムが曲を選び出す。

選ばれた曲は・・・『El Ritmo Tropical』

俗にマジシャングソングと呼ばれるリンクバージョンの新曲である!

『オリーブの首飾り』1974年にフランスで大ヒットしたディスコナンバーのカバーで原題は『エル・ビンボ』。

メルシャンワインのCMで一気に話題になったあの曲である。


陽気なラテンのリズムに合わせてカクカクっとした動きでゴーレムが1歩ずつパネルを踏んでいく。

それがどれ程凄い事なのかを理解している者は少ない・・・

それはそうだろう、ゴーレムを操作すると言う事の難しさすらも良く分からないのが普通である。

今回はそのゴーレムを操作して更にそのゴーレムに操作させてDDRをプレイさせているのである。

最早意味不明である。

譜面が簡単なのもあって無事にクリアを達成する。

それと共にゴゴゴゴゴとまた芸戦の向こうに立っていたゴーレムが沈んでいく・・・

クリア評価はA。

二人がペコリと頭を下げてパフォーマンスが終わったのだと理解した観客席から一気に拍手が上がる!


「ありがとうございました。それでは審査員の皆様・・・点数を・・・」

バーーーン!!!


そこまで言って司会はその音に固まった。

筐体上のゴーレムがその体を破裂させたのだ!

そして、そこに立っていたのは・・・ガム国女王メロディーの弟リズムであった。


「いやっ!人が入っていたのかい?!!!!!!!」


見事な突っ込みがロクドーから入り一気に観客席は大爆笑に包まれた!

いつの間にかその状況を楽しんでいたロクドー、ケラケラと予想外の事態に笑うシレーヌの横顔を見て微笑む魔王サタン。

そう、パフォーマンス大会はまだ始まったばかりであった!

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