第61話 放たれる秘密兵器の一撃!

「こ・・・この気配は?!」

「アレがまた?!」


コンマイ国から遥か遠くのエルフとドワーフが共同で暮らす国。

そこに住む者達はそれを感じ取り空を見上げていた。

つい先日ロクドーが魔王の魔力を取り込んだ事で世界中の音ゲーがバージョンアップしており、ギターマニアとドラムフリークスには長蛇の列が出来ておりそこに並ぶエルフであるリュリの父親アーカインとドワーフのガイルは互いに見合って頷いて列を離れる。

忘れもしないあの石が起こした事件、それが再び起こった時の為に彼等は対策を練っていたのだ!


「お父さん!コンマイ国へ行くの?!」

「あぁ、リュリお前も気付いただろう?あの石の気配だ!」

「私も行く!」

「よし、旅の扉に急ぐぞ!」


コンマイ城と繋がった旅の扉、それを潜れば遠く離れた場所までワープできるのだが起動させるのにはかなりの魔力を必要とする。

だがこの国に設置された音ゲーをプレイする事で彼等の魔力は飛躍的に上昇し魔力の空く無い筈のドワーフですら異常なチートキャラと成り果てていた。

本来で在れば国でトップクラスの魔道士が数名掛かりで起動させる筈の旅の扉が1人で起動出来るほどに・・・


「ガイル!それが秘密兵器か?」

「あぁ、これさえあれば・・・後はロクドーさんの魔力が頼りだ!」

「行きましょ!」


3人はそれを持ってコンマイ国へ向かう。










コンマイ国の城門・・・

城壁から見える遥か遠くで繰り広げられる異様な光景に誰もが唖然としていた。


「なぁ・・・あれドラゴンが魔物達を蹂躙しているんだよな?」

「お前にもそう見えるか?」


休息時間に入った筈のガム国の兵士達も仮眠を中断し城壁の上でそれを見詰めていた。

明らかにカイエン兵士長と戦った時よりも巨大な体になっているそのドラゴンは未だにその体を巨大化させているのだ。


「これって・・・不味くね?」

「だれか国王様に伝えて来い!」

「分かった!」


状況が変わり明らかに様子がおかしい現状、あの巨大なドラゴンが再びこの国を襲ってきたら今度はやばいかもしれない・・・

そう考える者が大多数を占めていた為に急遽伝令を出したのだ。

しかし、伝令が出発する前にコンマイ国王は城壁までやって来た。

国を治める王が気軽に城壁まで来るのはどうかと思うかもしれないが後ろに続く3人の異様な雰囲気に誰も何も言い出せなかった。

そこに居たのは旅の扉を通ってやってきた2人のエルフと1人のドワーフ、そしてその後ろに続くそれ・・・

それを見て驚きに目を見開き噴出したのはガム国王女メロディーであった。


「ぶはっ?!あはっあはは・・・あははははははは!!!!」


人間サイズの骨組みだけで作られたそいつはミスリル銀をふんだんに使われており自立歩行を可能とした人型のメカであった。

誰もがその明らかに異様な雰囲気に恐れおののく中メロディーだけは爆笑していた。

がに股で歩くその人型メカ、そいつは尻に続くコードの様な物がありそれが音ゲーに取り付けられるようになっているのだ。


「なにやら爆笑している方は置いておいて、これは我々がこの事態の為に用意した秘密兵器じゃ!」


ガイルがそう宣言し城壁に居る人々は驚き拍手を送る。

そして、そこへロクドーが駆けつけて来た。


「ロクドーさん!お久しぶりです!」

「おわっと?!リュリ?!どうしてココに?!」

「勿論、未来の旦那様に会いに来たに決まってるじゃないですか~」


人差し指でロクドーの胸元をクリクリとなぞりながら告げるリュリ、だがロクドーは目を見開いてそれを見て驚いていた。

そして、メロディーが涙を流しながら大爆笑しているのを見て納得する・・・


「これは・・・」

「フフフ・・・ロクドーさん驚きましたか?エルフとドワーフの共同作業で作られたあの石に対抗する為の秘密兵器ですよ!」


アーカインがそう告げるがロクドーはジロジロと人型メカを拝見する・・・

何処からどう見てもアレにしか見えないそいつ、ロクドーは自立歩行するそいつがあの石の対抗手段として作られていると言う話を聞いて困惑した。


「とりあえずあの様子だとまだまだ強化されそうですから今の内に止めを刺しちゃいましょう」

「えっ?えっと・・・」


城壁の上に用意されたのはロクドーが生み出した音ゲー達であった。

コンマイ国王の指示で町から音ゲーが次々と城壁の上に運ばれてきていたのだ。

アーカインとガイルはテキパキとそれを接続して用意をする・・・


「おし、ロクドーさんあいつを一発で吹き飛ばす為にイッちょ頼んますわ!」


ガイルがどうぞどうぞと進めるので病み上がりの体でロクドーは椅子に座る。

プレイするのはドラムフリークス2ndMIX。

1曲プレイしてもらえれば大丈夫との事なのでロクドーは悩む事無くアレを選択する。


そう、ドラムフリークス2ndMIXで一番最難関曲と呼ばれる曲『CENTAUR』である!


CENTAR:通称『大WAZA』もしくは『WAZA2』

他の曲とは明らかに段違いの難易度を誇るボス曲で交互に叩けなかったり変拍子が入ったりとかなり難しい曲である。

だが、クリアするだけならそれほど難しくなく後にスキル稼ぎに美味しい曲として人気を出すがそれは先の話である・・・


周囲の人々からザワザワと騒がしい声が聞こえる。

それはそうだろう、この曲はドラムフリークス2ndMIXでEXPERT REAL専用曲なのだ。

そして、騒がしい中ロクドーの演奏が始まる・・・

誰もがジャズ調の曲に耳を傾けるがロクドーの余りにも高いプレイ技術に近くに居た者は唖然と固まっていた。

実はこの曲、譜面さえ暗記してしまえば意外と簡単だったりするのだが知らない人からすれば訳が分からない難易度の曲と捕らえられてしまう曲なのであった。


結果・・・フルコンボのSランク判定クリア!

驚くべきその高評価に唖然と一同がする中、筐体から送られた音ゲーの魔力がメカへと流れ込む。

がに股の足を足踏みし始め地団太を繰り返し込められた魔力をエネルギーへと変換していく・・・

更に動きが変わり今度は上下へスクワットの様に動き始め込められた魔力を全身から下半身へと送り込む・・・

その時になってロクドーは全身から魔力が一気に引き抜かれる感覚に気付きフラッとよろけた。

既に魔力の桁がとんでもない事になっているロクドーの魔力を込められたそれは物凄いエネルギーとなりメカの股間へと集中していく・・・

そう、その股間に装着されている砲台へとエネルギーが集まっているのだ!

ソレを見て爆笑しながら叫ぶメロディー!


「いけー!先行者!中華キャノンだ!」


ロクドーが突っ込む余力も残っていない中、先行者と呼ばれたメカの股間のキャノン砲が火を噴いた!

魔力が圧縮され一塊の球体となったそれは真っ直ぐに魔物を蹂躙し続けるドラゴンへと飛んでいき・・・

着弾した!


光が最初に飛び込み遅れて、音、そして衝撃がやって来た。

その余りにも強すぎるエネルギーは周囲の地形を変えて大爆発を起こす・・・

ドラゴンだけでなくその近くに居た魔物達も巻き込み一瞬にして万を超える魔物が消滅した・・・





「どうじゃ?」


吹き飛ばされた体を起こしてガイルは口にする。

それを皮切りに次々と立ち上がる人々であるがその視線は爆風の奥で動くその影に唖然としていた・・・

ロクドーの天文学的魔力を圧縮して放たれた一撃、それは明らかに人がどうにかできるレベルをはるかに超えた一撃であった。

だが・・・

ドラゴンは健在であった。


「黒い魔力がドラゴンの体を守ってる・・・」


リュリの言葉の通りドラゴンの周囲には黒いバリアの様な物が張られていた。

爆発で今にも崩壊しそうだったそのバリアも時間と共に修復された。


「うそでしょ・・・中華キャノンでも倒せないなんて・・・」


メロディーが叫んだ事であのメカの名前が先行者、一撃は中華キャノンと名付けられた。

だがそれに誰も突っ込みは入れない・・・

それどころではないのだ。


「あれって・・・こっちに?」


そう、周囲の魔物が一瞬で蒸発してしまったのでドラゴンはコンマイ国の方へ再び向かい始めてきたのである!


「ロクドーさん!今のもう一度おねが・・・い・・・・」


アーカインがそう言って振り返ると魔力が枯渇して虫の息になっているロクドーがそこに居た。

その様子ではもう一撃同じ攻撃を放つ事なんて不可能だと誰もが理解し絶望にその顔をゆがめた。

そんなこっちの都合なんてお構いなくドラゴンは一気にコンマイ国の城壁に飛んでくるのであった・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る