第52話 サタン、ゲーセンで音ゲーを初体験する!
「へぇ~兄さん中々イカしたファッションしてるじゃんよ!」
「気安く話しかけるな人間!」
「かぁ~なりきってるねぇ~」
音ゲーの行列にサタン一行は並んでいた。
この行列の先頭ではくじ引きが行なわれている。
そのくじ引きで辺りを引けば整理券が当たるくじ引きを引く権利が与えられる。
そして、その整理券のくじ引きで整理券を当てれば音ゲーを買うことが出来る人を選別する抽選券がもらえるのだ。
長い、長すぎる音ゲーへの道のりであるが娯楽が殆ど無いこの世界に置いて唯一無二の娯楽である音ゲー。
それを家庭で楽しめると言う事であれば行列すらも楽しんで並ぶ国民の民度は非常に高かった。
この行列に並んで時間を稼いでいる間にチルコとポルコがプレステを製造しているのだ。
「サタン様、駄目でした・・・」
前の方に並ばせていた冥土のメイドがくじ引きで外れたとションボリしながら最後尾へ並びなおす。
既にくじ引きを楽しむだけの行列になりつつあるが極稀に当たりが出て喜んで更に奥のくじ引きに挑戦している者が居る。
それを見れば当たりは確実に入っているのだと誰もが夢を持つ。
そして・・・
「おめでとうございます!当たりです!奥のくじ引きへどうぞ!」
魔王の側近の執事が引いたくじが当たりだった様で嬉しそうに奥へと進む。
それを少し後ろで眺めるサタンは悪魔的な視線で当てろと念を送る!
それが幸を成したのか・・・
「おめでとうございます!抽選券の整理券を進呈です!抽選会は来週になりますので無くさない様に気をつけて下さいね!」
そう告げられ抽選券への整理券を執事は手に嬉しそうにサタンの元へと戻ってきた。
それを見てとりあえず列を離れて合流するサタンと冥土のメイド達。
この長い時間を並んで遂に出た1枚の当たりを引き抜いた執事に嬉しそうに近寄ったサタンであるが執事からの言葉にその動きが止まった。
「サタン様、当たりを引いたのは良いのですが・・・音ゲーとは一体どんな物なのでしょうか?」
言われて見ればサタンも音ゲーと言う物は話でしか聞いた事が無い、娯楽機械で遊べば魔力が上昇する物としか認知していなかったのだが娘達が大興奮でその楽しさを述べていたのを思い出し・・・
「ふむ、百聞は一見にとも言うな・・・よし視察に行ってみようか!」
「「「ハイッ!」」」
冥土のメイド達は魔王の娘達から聞いたとても楽しい遊具と言う話を思い出し嬉しそうに返事をする。
そうして一同が向かったのはこのコンマイ国で一番音ゲーの台数が多いとされているあの元酒場であった。
「ふむ、少し暗い店だな」
入り口から中を見れば窓が殆ど無いのか、店内は薄暗く感じられた。
これは筐体の画面が光を反射して見にくくなるのを防止する為に敢えてそうしてあるのである。
そして、熱を逃がすように換気扇的な物も設置され予想以上に快適な空間に仕上がっている事に中に入った一同は驚いていた。
空気が篭もらないように新たに開発された扇風機があちこちに設置されまさしくこの世の楽園とも言える場所に変貌を遂げていたのだ。
「これは・・・凄いですな・・・」
薄暗い店内に様々な音楽が響き筐体に向かって叩き踊り回す様々な人間達。
その誰もが真剣で楽しそうでそれを見た執事は驚きに言葉が自然と出ていた。
「サタン様、あちらどうやら空いているようですが」
冥土のメイドが指を刺したのはビートDJマニア2DX、通称弐寺であった。
この賑わう店内で唯一誰もプレイしていないその筐体、その理由は一目瞭然である。
難し過ぎるのである。
かつて日本でも弐寺は初代が可動当初はまだ通常の5鍵盤の方が人気であった。
値段も演奏位置も高いというもの勿論あったがなによりその難易度が問題であったのは間違いないだろう。
「よし、では早速やってみるか!」
意気揚々とサタンは弐寺の前に立った。
コイン投入口に指先を触れればゲームがスタートすると分かりやすく書かれているのを人間の言葉を読み書きできる執事が説明しサタンはプレイを開始する・・・
「ぬわーーっっ!!」
まるで某国民RPG5の父親の断末魔の叫びの様な声が響きサタンは1曲目が終了すると同時に鍵盤の上に頭を沈める・・・
サタンが選んだ曲、それはレベル3の『g.m.d』であった。
この曲はHIPHOPジャンルではあるが非常にリズムが取り辛く鍵盤慣れしていない初心者がいきなりプレイすればそうなるのは当然でもあった。
しかし一番の問題はそこではなかった。
サタン、魔族とはいえ名門の家柄でダンスも一通り習って踊れる。
だがサタンにとって音楽という物は流れているモノであって演奏するものではなかった。
その為、リズム感は在ったとしても技術が全く追いつかなかったのである。
しかし・・・
「く・・・くそう・・・もう1回だ!」
幼少の頃から立派な魔族になる為に育てられたサタンは簡単に言うと負けず嫌いであった。
初心者らしくレベル1から練習すれば良いのだがそれはプライドが許さないのか最低レベルを3に決めているのである。
更には・・・
「えぇい邪魔だ!」
と魔法を使って自らの長い爪を切断する始末。
魔族に限らず魔物も野生の動物も自らの牙と爪の様な生まれて得た武器は本来余程の事が無ければ処理したりはしない。
それすらも音ゲーの為に切り捨てたサタンは間違い無く本人の自覚の無いまま音ゲーにハマッていたのだ。
弐寺をプレイしようとする人間が居ないので連コならぬ連魔を行なっても問題にならなかったのは幸いであろう。
気付けば数時間が経過するほどプレイを続けておりサタンは遂にレベル5の『Prince on a star』を初クリアした!
「よっしゃぁあああああ!!!」
両腕を高く上げて喜ぶその姿を見て周囲に居た人達から拍手が送られる。
魔物のコスプレをしたまま弐寺を頑張る人が居ると話題になり気が付けば見物客が周りを囲んでいたのだ。
「な・・・なんだこれは?!」
プレイするたびに上達し遂にレベル5をクリアするまでに成長したサタンの事を褒め称える人間達。
そこには種族の差など感じさせないモノがあり魔王の心を包み込み始めていた。
お世辞ではない心の底からの賞賛を生まれて初めて感じたサタンの高揚感は凄かった。
胸を張り威厳を保ったまま毎日を過ごす魔界の3柱の1人は照れながら頭をかきつつ筐体を降りていた。
いつの間にか周囲に執事や冥土のメイド達が居ない事にやっと気付いたサタンは弐寺を離れ別の音ゲーを見て回るのだが・・・
「いいぞぉー!ねーちゃんかっこいいーーー!!!!」
誰かの叫び声が聞こえそこへ向かうと・・・
冥土のメイドの1人がギターマニアを演奏しながら長い髪を頭を全力で前後へ振る事で振り回しながら豪快に演奏をしていた。
普段は落ち着きのある物静かな自分のメイドの知られざる一面を見てサタンは唖然とするが、お構い無しに全力で飛び散る汗を撒き散らしながら演奏するその様はある意味美しかった。
ただ、演奏している曲が『JAZZY CAT』と言う猫をモチーフにしたマッタリした曲でなければもっと良かったのだが・・・
「キャー!!!!」
今度は左の方で若い人間の女の叫びが聞こえた。
嫌な予感がしつつもサタンはそちらの人ごみの奥を見詰めると・・・
「悪魔で執事ですから!」
色々とヤバイ発言をしつつ香ばしいポーズを決めて、突然その場でターンをしながら筐体の大きなボタンを叩く執事の姿が・・・
執事がプレイしている音ゲーはポップンでミュージックである。
本来であれば筐体の前に立って演奏をするゲームな筈なのだが何を血迷ったか軽やかなステップを踏みながら動きの一環でボタンを撫でるように叩いていくその姿に見学している女性達の甲高い悲鳴が響く!
演奏している曲は『Young Dream』と言うラップ曲で見事に執事の左右の移動と譜面が一致していた。
既に画面を見ていない事からかなりの回数プレイして譜面を暗記しているのは間違い無く、礼儀や作法を常に叩き込まれていたサタンはその姿に唖然とする・・・
「失礼・・・通りますね」
唖然としているサタンがその声に謝罪の言葉を述べながら一歩下がるとそこをモップを手にした冥土のメイドが通過していく・・・
その姿は間違い無く自分と共にやって来たサタンの城のメイドであった。
「な・・・なにやってるんだ・・・」
サタンは知らない、つい先程DDRで氷の造形魔法で生み出した氷柱をプレイしながら削って像を作ろうとして店内を濡らした罰をマスターに受けている事など・・・
その後、サタンも再び弐寺を練習再開し気が付けば日が暮れるまで一同は音ゲー三昧な一日を過ごす事となったのであった。
そして、流石に疲れたのか店を出た執事がボソリと呟く・・・
「音ゲー、これがサタン様の城で出来るとしたら・・・」
誰もがその言葉に夢を持ち執事の持っている抽選券に期待を膨らませる。
しかし、彼等の誰もがまだ気付いていない・・・
電気が通っていない事もそうなのだが・・・
購入には人間の通貨が必要だという事を・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます