第47話 帰ったか分からない魔族とスパイ

突如飛び出してきたゴスロリ少女の投げキッスを思わずスウェーでロクドーは回避した。

その瞬間ゴスロリ少女の目が座った。


「「ゲッ?!」」


アイとマインが同時に声を発すると共に周囲の空気が変化する・・・

ズゥウウウウンっと耳鳴りが始まり周囲の空気が重くなる・・・


「アタイの投げキッスを避けるなんてダーリンってばおちゃめさん」


とゴスロリ少女は目が笑っていない状態で口にする。

それと共に直ぐ後ろに居たアイとマインが立っていられなくなり床にしゃがむ・・・


「ちょっと・・・マイ・・・あんたいきなり・・・」

「マイン無駄よ・・・切れてるわ」


2人が途切れ途切れに何かに耐えながら会話をする。

ロクドーにもそれは同じように襲い掛かっておりマイの正面で身動きを取らずに立っていた。


「でもほれこれで・・・ちゅっ」


再び放たれる投げキッス。

だがロクドーは再びそれを体を半回転させて避ける。


「ちょっ?!なんで動けるのよ?!」

「ん?・・・根性?」

「ふ、ふざけるんじゃないわよ!大人しく私の虜になって・・・」


そこまで口にしたマイにロクドーは真っ直ぐ歩いて近付く。

周囲に使われている魔法、それは重力を操る魔法であった。

マイはこれを使ってDDRのパネルを重くして反応させていたのだ。


「しかし、見事なものだけどちょっとおいたが過ぎるな」

「な・・・なんなのよあんた・・・」


今まで気に入った男は投げキッスに込められた魅了の魔法とこの重力魔法で虜にしていたのに、ロクドーにはそれが一切効かなかったのだ。

目の前まで近付いたロクドーはマイの顎に手を当ててクイッと上を向かせる。


「うううう・・・」


今にも泣き出しそうなマイにロクドーは顔を近づける・・・

キスをされる・・・そう感じたのかマイは目を瞑った。

だが・・・


ピチーン!!

「はうぁあっ?!」


マイのおでこに衝撃が走った。

目を開くとロクドーがデコピンをしていたのだ。


「悪いな、俺の事を気に入ってくれたのは嬉しいが自分勝手なヤツは嫌いなんだ」


そう言ってマイの横を素通りしてへたり込んでいるアイとマインの元へ近付きロクドーは手を差し伸べた。


「大丈夫か二人共?」

「なんで・・・あんた普通に動けるのよ?!」

「身体強化の魔法を使っているわけでもないし・・・どうなってるの?」


2人はマイの重力魔法が魔界でも強者しか抵抗出来ない程強いと言うのは知っている。

だがそれは飽く迄抵抗出来ると言う話である。

今のロクドーはまるでそんな物は無かったかのように気にせずに普通に動いていたのだ。


「んー、確かに動きにくくなった感じはあったけどそれだけだろ?」

「「んなわけあるか?!」」


そう突っ込みを入れつつもロクドーの手を借りて立ち上がったアイとマインはジト目を向けつつ溜め息を大きく吐く。

だが二人共知らないのだ。

音ゲーをプレイする事でこの国の住人の殆どがとてつもない魔力を持つレベルにまで達しておりマイの重力魔法の中でも抵抗するくらいは誰でも出来るのであった。

それ即ち、このコンマイ国の住人の殆どが魔物の強者レベルの魔力を持っていると言う事でもあった。


「あ、あんたなんか嫌いだー!!!帰るよ二人共!!!!」


突如そう叫んでマイは二人の手を取って外へと走り出す。

そんなマイにロクドーは告げた。


「マイって言ったな?とりあえず建物に被害を出さないように範囲を絞った重力魔法だったのには感謝しておくよ」

「うるさい馬鹿!」


そう言って3人は町の中へと姿を消した。

その後に続くようにロクドーも建物を後にする・・・

次々と襲い掛かってきた様々なイベントをこなし一段落した事に安堵しつつロクドーは暫くのんびりと過ごせると良いなと期待しつつ自宅の元奴隷商の建物へと足を向けるのであった。








一方その頃。


「こちらメル、やばいぞこの国・・・特にあの音ゲーってのは凄すぎる」

『それほどか?』

「あぁ、今まで聞いた事も考えた事もない歌が沢山在った」

『ならば我々がその国の住人を支配してその歌をマスターせねばならぬな』

「だがこの国の住人の魔力は異常だぞ?とても適わない」

『焦るな、我々には歌が在る。このガムの歌唱力が在れば何も出来ないさ』

「なんにしても俺は面が結構割れてしまったから今後は普通にこの国の住人として溶け込んでおくよ」

『了解した。こちらから攻め込む前には連絡をする。予定では3日後には動けるからそのつもりで居てくれ』

「分かった。我がガム国のメロディー様に勝利を」

『メロディー様に勝利を』


薄暗い部屋の中で糸電話の様な物を使って誰かと会話をしていた男メル。

彼は歌を武器に他国を支配するガム国のスパイであった。

この国の音楽を使った娯楽である音ゲーの噂を聞きつけ、歌を武器にするガム国はメルを潜入させていた。

偶然にも彼が潜入した数日後にDDRのパフォーマンスイベントが開催されそこで初弐寺プレイヤーとして周囲に認識されてしまったのである。

歌だけでなく楽器すらも武器とするメルだからこそ初見プレイで弐寺の☆6をクリアする事が出来たのであった。


「3日後に祖国を出発するとすれば到着は1週間後か・・・」


それまでは他の音ゲーも触っておこうと本当にスパイなのか分からない程、実は音ゲーにどっぷりハマッているメルは一番音ゲーが豊富に設置されていると言うマスターの店へ向かう・・・

ロクドーの知らないところで次ぎなる敵の手が伸びているのであった。

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