第22話 トラップマシーン

MANIAC『パラノイヤ』

DDRに置いて最高速のBPM速度を誇るこの曲・・・

その最高難易度となるMANIACレベルは異常であった。


「えっうぉっ?!あぁんっ?!」


ズーの困惑の声が重低音と共に響き僅か15秒ほどでゲージは無くなり途中退場となってしまった。

だがそれに誰一人としてブーイングなんて出さない。

ズー自体が目つきが悪く凶悪な面構えをしているのも勿論そうだがこの場に居た誰もその譜面を見て驚きに固まっていたからだ。

早いだけでなく複雑、他の曲とは明らかに一線を凌駕した凶悪譜面に誰もが声を失っていたのだ。

ただ一人を除いて・・・


「ぐっ・・・ちっ」


悔しがりながらもこの場に居る誰一人としてアレほど先に勧める人間は居ないだろうと考えていたズーだったが・・・

ナーヤだけは確かな手ごたえを感じていた。

それはNOMALをプレイし、HARDをプレイしているズーを見ていたナーヤだからこそ知った事実。

いや、以前から気付いてはいたのだ。

このパラノイヤが他の曲の特徴的な譜面を全て盛り込んだ総合譜面だと言う事を!

ここが二人の進む道を大きく分けた瞬間であった。

4枚のパネルしか使わないDDRに置いて似た様な配置なんて幾らでも在る、だがその配置が完全に同じものであると言う事は実際にプレイした人間にしか判別が難しいのだ。

更にこの新しいバージョンになって追加された曲が2曲存在する。


『マイクイットベター』と『トラップマシーン』である。


ズーはマイクイットベターは曲調が遅く馴染めないと感じていたのでプレイしなかった。

だが後にこの選択が大きく二人の差となって影響を及ぼすとは誰も知らなかった。


2回目のプレイでも再びナーヤはNOMALレベルを選び違う曲を選曲する・・・

それを面白くなさそうに睨みつけて見るズー


「なにやってるんだ?DDRを舐めんじゃねぇ・・・」ボソッ


実力が在るにも関わらず自分の限界に挑戦せずに余裕を持ってクリア出来る曲をプレイするナーヤに苛立ちを覚えるズー。

特に焦る事無くノーミスクリアをするナーヤのプレイに額の血管を浮かべて怒りを露にする。


(なんだってアレだけの事が出来るのにちゃんとやろうとしねぇんだ!)


思考の差、それはとても小さくとても大きいものである。

この場に居る中で自分に並ぶとはいかないまでもいい勝負が出来そうな唯一のプレイヤー。

女でありながら実力を認めるだけにズーは溢れる怒りを抑えきれない。

二人で協力して少しでも先へ進もうとMANIACパラノイヤをプレイすれば攻略は捗る筈!

なのに自分一人だけにボス曲を攻略させようとしていると勘違いをしているのだ。


「よし、これも大丈夫!じゃあやってみるか!」


そんなズーの視線を背中にビンビンに感じながらもナーヤはNOMALの未プレイ曲を消化して行きファイナルステージとなっていた。

この時ズーが怒り狂っていたのはナーヤが選んでいたレベルがMANIACではなくANOTHERだったからである。

だがナーヤはまずMANIACではなくANOTHERのこの曲をクリアしてからにしようと考えてそれを選ぶ。

そう、NOMALに追加されたボス曲『トラップマシーン』である。

ダークで幻想的な楽曲が特徴的なこの新曲を選択するのは勿論ナーヤが最初であった。

流石にこれにはズーも身を乗り出して見に回る。


(見せてもらうぜ、そして俺は更に上手くなるキレイごとは通らねぇ・・・)


ズーの周りに居た人はズーから距離を取る。

そう、誰もが彼が何をしようとしているのか理解したのだ。

そして、曲がスタートした。


5.4.3.2.1・・・レッツダンス!


音楽が開始されるとカウントと共に譜面が上がってきてゲームがスタートする!

他の曲には無い不規則なリズムに小刻みに刻まれるボイスや裏打ち音。

この世界の住人の耳にまた新たな存在しない筈の音が届きその心を揺さぶる。

そんな中、悪戦苦闘しながらもミスをせずに我流で譜面を消化して行くナーヤ・・・


「おぃ・・・これでANOTHERかよ・・・」


誰かのそんな台詞が聞こえた。

そんな中、ナーヤの斜め後ろではスペースが開いた場所で画面を凝視しながらズーが足を動かしていた。

そう、シャドープレイである。

これはプレイしている人の後ろで実際にプレイしているように足を動かしてプレイを疑似体験するスタイルである。


(卑怯だと思うなら思えばいい、所詮敗者の戯言だ。俺は勝つ!)


ズーは周囲の目も気にせずに足を動かす。

だが攻略を第一に考えているズーと楽しみながら色んな曲をクリアしたいと思うナーヤの差を誰もが理解した。

動きにアドリブがズーは効いてないのだ。

そして、ナーヤは無事にANOTHERトラップマシーンを初見にも関わらずAランククリアする。

最高がSSランクなので3段階目の評価では在るが殆どミスの無いプレイだった事が良かったのだろう。

拍手の中、汗をぬぐいながら笑顔で筐体を降りようとしたナーヤであったが・・・


「おっおい、なんだよこれ?!」


誰かの叫びにナーヤだけでなくその場に居た誰もが筐体の方を見る。

リザルト・・・つまり成績が表示されその後はエンディングが流れるだけの筈なのに少しの読み込みの後再び選曲画面に移動したのだ!


「えっ?」


当然ナーヤも驚く、しかし制限時間が選曲画面にはあるので慌てて台の方へ戻る。

手にした荷物を所定位置に置き画面を見て更に驚く事実にナーヤは動きが止まってしまった。


「レベル表記が・・・緑・・・」


そう、選曲画面では曲毎にレコードが表示されその下部にはその譜面の難易度を示す足マークが並ぶのだがその色が緑色だったのだ。

これは通常が黄色、ANOTHERが赤、そしてMANIACが緑と言うのは既に周知の事実であった。

そして、ナーヤが先程プレイしていたのはNOMALのANOTHERである。

なのに選曲画面の表示は緑色・・・

その思考が操作を止めていた。

結果、最初に合っていたその曲が勝手にスタートする。

そう・・・


MANIACのトラップマシーンである!


「あわ・・・あわわわわ・・・」


焦りを覚えながらナーヤは気を引き締める。

そして・・・悪夢が始まった・・・

パラノイヤと並ぶボス曲であるトラップマシーンのレベルは8!

BPM・・・つまり速度はパラノイヤに及ばないもののその配置はまさに凶悪であった。

いきなり休憩の無い上に体の捻りを何度も要求する配置に焦りながら足を滑らせるプレイをするナーヤ。

実際には譜面を理解して入る足を上手く決めれれば交互に踏めるのだが焦った上に曲をまだ2回しか聞いてないナーヤにはそれは難しかった。

3連続の8分譜面が何度も続き心を抉られる中、突然やって来る横から始まる一周譜面。

←↓→↑←

この配置が8分のリズムでやってくるのだ。

実際に足を動かしてみれば分かると思うが右足で←を踏み始めれば捻った状態で踏み切れる。

だが咄嗟にそんな高度な事をやってのけれるわけも無く足を滑らせるように踏む事でなんとか食いつくナーヤ。

そして、それに驚き固まるズー。


(よかった。ロクドーさんのプレイを過去に見ていたから踏める!)


そう、ナーヤはロクドーのパフォーマンスプレイを見た事があった。

足を捻ったり滑らせて踏むスライドプレイ、連打を両足で交互に踏むトリル、体を回転させるターン。

知っているか知らないかの違いではあるがそれはとても大きいものとなっていた。


(いける!これなら・・・いける!)


そして、曲調が変わり譜面が少し落ち着く・・・

配置的にはグルグル回り続ける配置なのでANOTHERと変わらないと感じたナーヤはここで減ったゲージの回復と心を落ち着かせる。

そして、曲は後半に突入する・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る