第21話 トム vs アトランのビートDJマニア、決着?

3曲目『トライブグローブ』


新曲☆6にして新ジャンルワールドグルーブと言う地球でも珍しいジャンルのこの曲。

中盤まではまるで☆6とは思えない単調ながらノリのいい民族音楽風な曲が流れる。

これには見物客の誰もがあれで☆6なら俺にも出来ると見ながら鼻で笑っていた。

新作になって☆6のハードルが下がったのかと誰もが思っていた。

だが演奏しているトムとアトランは感じていた。

前作にもあったスカ顎々の様にラストに問題があると理解していたのだ。

と言うのもこのビートDJマニアのルールは曲終了時に赤ラインをゲージが突破している事。

現在はゲージがMAXからミスをすると減るのみで残っていればクリアにはなるがこのルールで在る限り後半に難所が詰め込まれているとクリア難易度は一気に跳ね上がる。


「やはり来たか・・・」

「当然だな・・・」


トムもアトランも上から流れてくる譜面を見て口元を歪める。

まるで強敵と巡り会った戦闘民族の様に二人同時に目に火が灯った二人と時を同じくして観客から声が上がる。


「ま・・・まじ・・・かよ・・・」

「なんだよ・・・あれ・・・」


まさにスカ顎々のラストを思い出させるような左城鍵盤の縦連打が並びしかもそれ以外の箇所に普通にスクラッチや鍵盤が配置されている。

そして、二人同時に突入した!

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・」

と言うボイスと共に二人は初見にも関わらず正確なリズムで連打を刻む!

その光景にロクドーは驚きに目を見開く。

音ゲーに置いてリズムを取るのは非常に難しい、特に演奏に置いて自身が何かに合わせて演奏をすると言うのは目安が無いと非常に難しいのだ。

ピアノで使うメトロームの様にリズムを刻む何かを基本的に音ゲープレイヤーは体を揺らしたり顔を振ったりとリズムを取るのが普通だ。

だが初見でそれを合わせるのは至難の業なのだ!

そこで二人は独自の理論でこういう場合の対処法、いやきっとスカ顎々で編み出したのだろう。

それこそが中級音ゲープレイヤーが到達する一つの領域、強弱叩きである!


強弱叩き、これはリズムが非常に取りづらいタイミングを刻む時に4分のリズムの部分だけ意識的に少し強めに叩くと言う方法である。

これにより体感リズムを4分に合わせて演奏をする事が可能になり微調整がそのタイミングで行なえるのである。

初心者から中級者に上がる時に必須とも言える音ゲーテクニックである。


「うぉおおおお!!!」

「なんだこいつらすげえええええ!!!」


観客が沸くのも仕方ないだろう、初見の☆6の曲にも関わらず殆どミス無く二人共ゲージを残してクリアしたのだ!

だが二人はそれでも油断しない、当たり前だ。このコースは全5曲、そして後半になるにつれて難易度は上がる・・・


「3曲目でこれかよ・・・」

「なんだ?疲れたかトム?」

「馬鹿いえ、今楽しくて仕方ないよ」

「ふっ奇遇だな俺もだよ」


横に居るロクドーは二人の会話を聞いて嬉しさに顔が歪む。

異世界の人間に自分がこれほど自分が大好きな音ゲーが好まれているのが嬉しくて仕方ないのだ。

そして、次の曲名が表示される・・・


4曲目『アタック・ジ・ミュージック』


曲が始まり数秒で誰もがそれに気付いた。

ジャンルがハードテクノと言うだけあり、まさにハードなテクノをイメージするドラムの重低音が響く。

そのドラムの音を左白鍵盤で演奏しながらその他の音を拾うというまさに音ゲーらしい曲であった。


「おい、もしかしてこれ最後までこの一定感覚の音を休憩無しで?」

「すげぇ・・・なんだあの妙なリズムは・・・」


そう、ドラムの演奏音がずっと4分ではないのだ。

そして、スクラッチによって響く謎の「ミューウゼー」と言うボイス。

微妙に等間隔でない連打。

どれもが目で見て演奏を余儀なくさせる音に乗らせて演奏をしにくい曲であった。

それでもここまで来た二人にとってはそれほどの難易度ではない。

☆6にしては少し弱いかと思っていた矢先、譜面がドンドン増え続ける。

そして、ラストのウぜーくらい「ミューウゼー」地帯がやってきた。

一定感覚でスクラッチを回しながら鍵盤をスクラッチとは違うリズムで刻ませるラスト殺しのポイントである。

この曲の難所とも言われるこのラスト地帯だけ見るとやはり☆6と言うのは言い過ぎではないかと思うかもしれない。

だがここでトムが痛恨のミスをしてしまう。

そう、アトランとトムの大きな違いがここで現れたのだ。

それは・・・スクラッチの回し方の基本を理解しているかどうかであった。


「えっ?あれっ?えっ?」


トムの動揺する声が漏れゲージが減少していくのが見て取れた。

スクラッチを回しているのに何故?

そう考えるトムであったがそのまま曲が終わりトムとアトランに少しの差が付いてしまう。

そんなトムの姿にアトランは笑みを浮かべる。

そう、二人の大きな違い・・・

それは2ndMIXでDJバトルを初期の頃しかやっていないトムと定期的にプレイしていたアトランの差であった。


「トム今回はお前の負けだ!」

「いやだって・・・」


トムはスクラッチが反応しなかったと言い訳をしようと考えた時に初歩の初歩を思い出す。

そうである、このビートDJマニアにおいてスクラッチは回した後、停止するまでに同方向に回しても反応しないのである!

なので連続で操作する時は逆方向に回さないと駄目なのだがトムは普段それほどスクラッチを大きく回して演奏する事は無かったので忘れていたのだ。

このアタック・ジ・ミュージックの様に鍵盤とスクラッチを行き来する演奏の場合手の移動の力が加わりいつもよりもスクラッチが強く回されていた。

その為、基本を忘れ逆方向ではなく同方向に回し続けていたのがトムの大きなミスであった。

またこの曲のラストに待ち受けるスクラッチ感覚がそれを意識したような感覚だったのも大きく影響をしていた。


「トムさん、スクラッチは逆方向に回さないと・・・」


ロクドーの言葉にトムはその基本を思い出しハッと目を見開く。

だがゲームは待ってくれない。

差が開いてしまい動揺する状況の中最後の1曲が表示される・・・


5曲目『スーペーハイウェイ』


このコース名がテクノで、この曲はドラムンバスと言うジャンルが示す通りここまでは重低音を演奏させる曲が続いていた。

だが最後に控えるこの曲は一味違ったのだ。

曲名が異世界に存在しない高速道路と言う通り曲はBPM160と早く鍵盤も敷き詰められている恐ろしい曲である。

なによりこのコースで白鍵盤ばかりが使われる曲が続いていたのにも関わらず最後のこの曲だけは総合譜面、最後だけが難しいのではなく序盤から白鍵盤黒鍵盤スクラッチが多種多様なリズムで配置されている。

テクニックと技術を駆使し挑まなければタイミングを狂わせ押し忘れやBADハマリを引き起こす恐ろしい曲である。


「な・・・なんだよこれ・・・」

「わ・・・わけ和からねぇぞ・・・」

「でも二人共演奏してやがるぜ・・・」


観客が驚くのも仕方ないだろう。

誰もが譜面を見て驚きに唖然とする中、挑戦している二人は焦る事無く曲を演奏していたのだ。

トムも曲が開始されると同時に切り替えて演奏に集中していた辺りまさに音ゲーマーと言わざるを得まい。

音ゲーにおいて精神状態というのは非常に重要な要素を占める、悩み事や考え事をしながらプレイすると正確さに欠け実力を充分に発揮できないのである。

我を忘れると言うと聞こえは悪いが、視界も思考もクリアになり周りの何もかもが聞こえなくなる集中した状態になる事が出来るかどうかが中級者から上級者へ上がる時に必要になるモノなのは間違いないだろう。

そして、この曲が☆6である一番のポイントがやってきた。


「う・・・そだろ・・・」

「こんなんできるのかよ・・・」

「ファッ?!」


画面の上から流れて来たのは斜めに並び配置された俗に言われる階段譜面であった。

白鍵盤と黒鍵盤を交互に配置し、まさに階段をイメージさせる並びの階段譜面が連続で続く・・・

しかもそのどれもがかなりの高速演奏を要求しているのである。

だがしかし、演奏方法の基礎をしっかりと身につけている二人はまるで無意識に手が動くようにそれを捌く・・・


パララララッパラッパッパッパラララ・・・


その光景に誰もが唖然とするだけでなく口までポカーンと開けてそれを見る・・・

きっと誰もが内心考えていただろう・・・


(((なんでできるんだー?!)))


しかも階段だけでなく途中にはバラけた配置のものもあり二人共押し間違いをしつつもしっかりと演奏を続けていく・・・

聞いているものにとってはまだ続くのかと思っていたその難所、実際にも10秒続いた後に3秒ほど休みがあって更に10秒続くという階段地帯。

実際にこの曲は約85秒ありこの階段地帯だけで23秒、つまり3分の1くらいは難所が続くのだ。


そして、曲が落ち着きつつも最後に向けて演奏は続く。

誰もが落ち着いた雰囲気でその演奏を見ているが・・・

既に階段地帯のせいで感覚が麻痺しているがその部分は単独でも結構難易度が高いのである。

まさに高速道路、一般道に降りると制限速度が遅く感じるあれと同じであった。

そうして5曲全てが終わる・・・

なんと二人共ロクドーの予想通り見事クリアしておりその合計スコアで勝負だったのだが・・・


「おい・・・マジかよ・・・」


観客が声を上げるのも仕方ないだろう・・・

4曲目のミスもありゲージ残量はトムの方が少なかったが得点上ではトムはアトランに勝っていたのだ。

これはグッド判定とグレート判定の差であった。

ロクドーが選んだコースがリズムを刻む事が多い曲の並んだテクノコースでなければもしかしたら結果は逆転していたかもしれない・・・

だが結果は変わらない。


「また、お前の勝ちだな・・・」

「いや、今回のはミスが少なかったお前の勝ちだろう・・・」


二人は互いに自分が負けだと宣言する。

ゲームとしてみれば得点の高いトムの勝ち、だが演奏としてみればミスの少ないアトランの勝ち。

その二人にロクドーは声を掛ける・・・


「決着は次回に繰越で今回は引き分けって事でどうだ?」


トムとアトランは少し驚いた顔をしていたがロクドーの顔を見て頷き互いに握手を交わす。

その二人に盛大な拍手を送る観客達の中でどのタイミングで次にビートDJマニアをプレイしようかとタイミングを見計らうプレイヤー達も居た。

この後、二人は打ち上げに行きそれにロクドーが巻き込まれるのだがそれはまた別のお話・・・



そして、場所はコンマイ国に戻る・・・



「ジャージャージャヤン!ワンツー!」


汗だくになりながら凶悪な笑みを浮かべ、チラリと後ろの座席に座って見ているナーヤをチラ見して再び画面を見詰める男『ズー』。

バクバク言う心臓を時間ギリギリまで落ち着かせながら見詰めるその先には前人未到のレベル8の曲・・・

MANIACレベルの『パラノイヤ』が表示されていたのであった・・・

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