第16話 エルフと音ゲー

コンマイ国の冒険者ギルド本部にロクドーは来ていた。

そして、ギルドマスターの部屋に入りそこで一つの出会いがあった。


「み・・・耳が?!」

「ん?アナタがロクドー氏か?」


ソファに座る美しい金髪の女性。

ほっそりとしたスタイルに美景の顔、そして特徴的な尖った耳。

間違いない、エルフだ。


「え・・・エルフ・・・」

「ふふっ天才魔道具士でも私の存在には驚いて・・・なんだこの魔力は?!」

「さ、触ってもいいですか?!」


ロクドーの持つ膨大な魔力を感知して驚愕するエルフ。

そして、エルフの特徴的な耳に触れてみたいロクドー。

互いに手を伸ばしエルフはロクドーの胸に、ロクドーはエルフの耳に手を伸ばして互いに触れ合う。


「んっ凄いっ」

「あぁ、凄い」


そこにロクドーを連れて来た衛兵は頬を赤く染める。

別に何も変な事をしているわけではないのに桃色空間が出来上がっている不思議。

そして、2人同時に我に返り手を離す。


「あっごめんなさい」

「おっとすみません」


熟年の夫婦のように息の合った互いの行動に他人の様な気がしない2人は自然と見詰め合う。

そして、その2人の行動に部屋の中で空気となっていたギルドマスターは苦笑いを浮かべながらそれを見守る。

しかし、この2人の行動がリンクしているのには理由があった。


「「あの・・・」」


同時に声を掛けて固まる2人。

互いに同じ行動を取って同時に黙る。


「もうお前等結婚しちゃえよ」

「「なんでや(ですか)!」」

「はぁ・・・なんなんだお前たちは・・・」


空気になっていたギルドマスターの言葉に同時に突っ込みを入れて落ち着いた2人は並んで椅子に座る。

ようやく話が出来るとギルドマスターは口を開いた。


「さて、もう紹介するのもなんか変だがこいつが音ゲーを作り出した魔道具士ロクドー。んでこっちがエルフの村から来たリュリだ」


互いに同時に首だけ動かし見詰めあい同時に頭を下げる。

それを見てギルドマスターは再び小さく・・・


「だからお前等もう結婚しろって・・・」


そんな言葉を掛けるのであった。





その後、リュリからこのコンマイ国まで来た理由の話を聞いたのだが。

なんでもエルフは音楽に秀でた種族であまり人間との交流を持とうとしない。

その理由が音楽性の違いと言うまるで芸能人みたいな事を言うなと納得したロクドー。

そして、その音楽に秀でたエルフが久々に人間の街に出て見付けたのがロクドーが生み出したビートDJマニアであった。

機械的な音楽に独特の楽器音、今まで存在したどれにも当てはまらない奇跡の所業に心を惹かれたリュリはロクドーに是非会いたいとナコム国からやって来たとの事だった。

そう、ナコム国にはまだDDRは無かったのだ。


「なるほど、音楽に秀でた種族ですか・・・それで・・・」


ロクドーは何故リュリと息がピッタリと合うのか理解した。

それは彼女と自分の体感リズムが完全に一致しているからであった。

人は音楽を聞く時に自身が最も適している速度と言うモノを好む。

その速度の音楽に対して自身の体感リズムが一致するので違和感無く受け入れる事が出来るので在る。

その体感リズムが一般的にBPM100~BPM120と言われている。

ロクドーとリュリの本能的に好むリズムが一致した結果なのであった。


「つまり、自分とリュリさんは気が合うって事ですよ」

「きっ気が合う?!」


生まれて数百年経過しているリュリ、今まで同族でも浮いた話は一切無かった。

それはリュリが自分の種族の奏でる音楽で好むものが無かったと言う事が上げられる。

これは珍しい事ではなく波長が合うというのはとても大切な事なのである。

それだけで心身がリラックスできる空間が出来上がると考えれば日常生活において気が休まる場所が無いと言うのがどれほど苦痛な事か良く分かるだろう。


「こ・・・こんな数十年しか生きてない人間と私が気が合うだと?!」


リュリは動揺していた。

本能的にロクドーと隣に座っているだけで何とも言えない安らいだ気持ちになる自分を認めたくないのだ。


「ん~とりあえずリュリさんは音ゲーに興味が在ると?」

「そ、そうだ!お前じゃないお前の作る音ゲーに興味が在るんだ!」


なんか一人で勝手に盛り上がって興奮しているリュリは置いといてロクドーは考える。

音楽に秀でた種族、それならば少し複雑な物でも使用できるのではないか?


「分かりました。一つ面白い音ゲーを出しましょう。」

「出す?」

「そうですね、とりあえずエルフの村に行きますか?」

「い、今からか?!」


エルフの村まで移動するとなると数日掛かる、リュリはその間ロクドーと二人旅が出来ると内心興奮してしまった。

だが・・・


「ギルドマスター、国王からあれの使用許可は貰ってるので良いですよね?」

「ん?まぁお前なら使っても余裕そうだからな。いいぜ」

「???」


ロクドーはギルドマスターの許可を貰いギルドの地下に行く。

そして、そこに在る門を見てリュリは驚く声を上げる。


「旅の扉?!あんた私の国に来るのに旅の扉なんか使うつもりなの?!」


※旅の扉:遠距離と空間を繋げて瞬時に移動できる魔道具。

だがそれを使用するには膨大な魔力が必要で優秀な魔術師数百人が全ての魔力を込めて1回起動できるかというとんでもない物である。


「でも残念、私は知ってるわよ。これを起動させるには私達エルフでも数十人の力がひ・つ・・・」


そこまで話しているリュリの目の前でロクドーは扉に魔力を通す。

すると旅の扉が起動した。

その光景に唖然とするリュリ、既にロクドーの魔力はエルフ数十人の魔力を超えていた。


「あ・・・ありえない・・・」

「んじゃとりあえずエルフの村まで飛びたいから宜しくリュリ」

「え・・・えぇ・・・」


旅の扉は目的地に一度行った事の在る人間が最初に潜るとそこに起動中はずっと繋がる。

リュリはロクドーに言われるままに旅の扉を潜る・・・

それに続いてロクドーも中へ入っていく・・・


「ギルドマスター、すぐ帰ってくると思うんで誰か来たらそう伝えて下さい」


ロクドーの残した言葉に頭を下げるギルドマスター。

そうして旅の扉の歪んだ空間内へ入って行った。






「はぁ・・・本当に通れた・・・」


旅の扉を潜り抜けるとリュリが頭を押さえていた。

ロクドーが一人で旅の扉を起動した事に自分の常識が音を立てて崩れているのだろう。


「な、何事ですか?!」


そこに若いエルフの男がやって来た。

基本的に旅の扉を使用するときは膨大な魔力が必要である。

その為、これが起動する時は王族が非難する時等にしか使われなかったので男エルフは慌ててやって来たのだが・・・


「あ~カイン気にしないで・・・こちらが人間のロクドーさん。」

「リュリ・・・とロクドーさん?人間じゃないか?!」


驚くカイン、どう見てもロクドーが王族には見えないからだろう。


「あのね、この人自分一人で旅の扉起動できるくらい魔力があるみたいなの・・・」

「そんな馬鹿な・・・って嘘だろおい・・・」


カインもロクドーの魔力量を理解したのか驚きに固まった。

その後、カインに連れられエルフ村の村長の元へ訪れたロクドー。


「それで、ロクドー殿は我々にその音ゲーとやらを提供したいと?」

「えぇ、リュリさんがどうしても村で楽しみたいと言うもので」


一同の視線がリュリに集まる。

それはそうだろう、人間の作る魔道具なんて今までエルフの作る魔道具との差がありすぎて子供の玩具程度しか無かったのだから。


「あ~それとちょっとお願いが、多分1つ出すたびに魔力欠乏症で倒れると思うんで治療お願いしたんですが・・・」

「ふむ・・・ではあれを用意しよう」


そう言ってエルフ村の村長が出したのはミドルエーテルであった。

これは飲んだ者のMPを半分まで回復させるエルフ村の特産品であった。


「それじゃ、とりあえずそこの建物で良いですか?」


ロクドーが指差したのは村長の家の敷地内に在る一角のスペースであった。

プレハブと現代なら呼びそうなその建物の中は倉庫として使用する予定であったが現在は都合よく開いていた。


「あぁ、それでその音ゲーと言うのは一体?」


村長に見た方が早いですよとロクドーは倉庫の方へ移動し隅の一角に手を翳し叫ぶ!


「スキル『創造具現化』を発動!」


まばゆい光の粒子が集まりそれを形作っていく・・・

そのとんでもない魔力にエルフの村人全員が驚愕した。

多分全員の総量とロクドー一人の魔力量が同じくらいなのだろう。

あまりの凄さに彼らは後にこう語る・・・


「認識できるサイズを超えた物を纏めて『凄く』と言う呼び方をする人間の気持ちが良く分かった」


そして、彼らの前に出来上がった縦長の魔道具。

中央に画面が在り左右に肩に掛ける縦長のリュートにも似た楽器。

構造は凄くシンプルに見えるがその内部は現代科学の集合体で在るのでエルフに理解出来る訳が無かった。


「な・・・なんじゃこれは・・・」


村長の言葉にロクドーは笑顔を見せ答える。


「これが新しい音ゲー『ギターマニア』です!」


異世界に第3の音ゲー『ギターマニア』が出現した瞬間であった!

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