第11話 DDRのシャドープレイ!

DDRの筐体の上に上がった青い髪のぽっちゃり少女はコイン投入口に触れる。

すると全身からMPを吸い取られる感覚に目眩を覚えふらつく。

そう、このDDRは1プレイ200MP必要なのだ!


「あ・・・あれっ・・・」


ふらつきつつも後ろのバーを掴んで倒れるのを阻止した少女を見てロクドーは確信した。

彼女こそこのゲームに相応しい代表プレイヤーだと。

1プレイ200MPと言うビートDJマニアの倍のMPが必要と言う事で魔法を使う職業の人間に初プレイを頼もうと思っていたのもあるが・・・


「こいつが異世界革命を起こす起爆剤になるのは間違いないだろう!」


見物客達にロクドーが大々的に発言し観客が沸くと同時に筐体から爆音で音楽が流れる!


「アイアイア~♪」


ビートDJマニアで独特な音楽に触れた異世界の人々でもまだ聞いた事が無いくらいアップテンポなそのダンスミュージックがその場に響きまるで玩具を与えられた子供の様な瞳が集まる。

そして、少女がスタートボタンを押しゲームがスタートする。


「なにこれ?」


最初に表示されたのは難易度選択だった。

と言っても表記は英語で『EASY』『NOMAL』『HARD』なのでこの国の人達には読めない。

ロクドーは通訳代わりに説明を行なう。


「左から、優しい、普通、難しいだ。優しいは最後までプレイできるが1曲しか遊べない」


それを聞いて少女は迷わず普通を選ぶ。

MPを200も消費して1曲しか遊べないと言われたら選ぶはずも無いからだ。

そして、画面は切り替わりディスクの絵と曲名、そして下部に難易度を示す黄色い足が表示されていた。

初代DDRをプレイした人の誰もが最初に触れる事となる代表曲『ハブユワ』だ。

正式名称は『ハブユーネバービーンメロン』と長く正式な名前を覚えている人は少ないだろう。


「円盤の下に足のマークがあるだろ?その数が難易度だ」

「これが難しさってわけね・・・」


少女は表示された曲の中で一番難易度が低かったハブユワを選択し曲がスタートした!

勿論ロクドーは焦った。


「おい戻れ!」

「えっ?」


少女は本体の前で3つのボタンに手をあてがって待機していたからだ。

この世界に現在唯一存在する音ゲーであるビートDJマニアしか知らない人達にはパネルを踏んでプレイすると言うのは想像も付かなかったのだろう。


「この音ゲーは音楽に合わせて下から上がってくる矢印が上の空白矢印と重なった時にその方向のパネルを踏むゲームだ!」

「そ、それを早くいいなさ・・・ぁぁああ!?」


いきなり上がって来た矢印に慌ててパネルを踏みまくる少女。

だがまだ矢印は判定エリアに到達していない。


「落ち着け!透明の矢印にその矢印が重なった時にタイミングよく踏むんだ!」

「そ、そんな事・・・言ったって・・・」


ロクドーからしたら間が開きすぎてスカスカな譜面で在るが少女にとっては未知の動き、しかも彼女は運動が全く出来ない魔道士なのだ。


「あわわわわ・・・あわわわ・・・あわわ・・・あは・・あはは・・・あははははは!」


下から上がってくる矢印が上の空白矢印に重なった時にその方向のパネルを踏む。

ただそれだけ、いや、これが全ての音ゲーがDDRである。

そこにはルールも何もない、ただその判定の時にパネルを反応させればいいのだ。


最初の数歩こそ大慌てだった少女だったが落ち着いて見ればタイミングは音楽のリズムに合ってるし足元を確認しながらしっかりと踏めば何も難しい事は無く途中から笑顔を見せながら普段かかない汗を出していた。

そして、この音ゲーがビートDJマニアと大きく違うのはクリア条件であった。

ビートDJマニアでは曲が終了時にゲージがクリアラインの赤ゲージに到達していなければならず後半に難しい苦手部分が存在すると、道中がどれ程完璧に演奏出来ていてもゲームオーバーになってしまう。

それに対してDDRはゲージ残量が0になった時点で曲の途中であろうとゲームオーバーになる。

逆を言えばどんなに上手く踏めていなくても曲が終わるまでゲージが1メモリでも残っていればクリアになるのだ。


「これがこの音ゲーのルールです!」


ロクドーの言葉を聞き実際に魔道士職の少女がプレイしている姿を見て観客は沸いた!

この世界にも踊り子と言う職業は存在する。

しかし、王族に仕える家系だったりしないとそれに触れる事も無い。

なにより、このゲームは王族の行なうダンスとは全く違う踏むのを主としたダンスである。

そして、それは画面を見る人々に伝染する。


気付けば誰もが筐体に上がる少女と同じ様に足を動かし始めたのだ。

それでも音楽に全く触れていない人々だ、リズム感が全くない為か足音はバラバラである。

だがロクドーはそれでも嬉しかった。

地球でも昔DDRが流行っていた頃に見られたプレイヤーの後ろで同じ動きを真似して連取する動き、当時は『シャドープレイ』と呼ばれたそれを再び目の当たりに出来たのだから。

そして、少女はなんとか1曲目をクリアした。

既に汗を流し疲労は目に見えて出ているがその表情は非常に楽しそうで眩しかった。

ロクドーにも覚えがあるのだ。

ただ、プレイする・・・それが楽しい・・・スコアも何もない、プレイする事自体が楽しいというその気持ち!


「曲が終了するまでゲージが残っていればクリア!これが新作音ゲー!DDRです!」


ロクドーの発言に場は更に盛り上がりロクドーに言われた通り少女の後にプレイする順番を整列させるエミ。

プレイするのにMPを200消費するので販売用のエーテルを用意するアリス。

ちなみにMPが100以下でプレイしても魔力欠乏症のリバウンドでMPの上限が強制的に200になる、そしてエーテルさえ飲めば残MPは100になるので気絶する前に飲みさえすれば問題は無い。

しかし、実はこれが大問題であった。

この効果のせいでコンマイ国の国民全ての最低MPラインが200と言う国単位のチート革命が発生するのだがロクドーはまだそれを知らない。

特にMPの成長が遅いと言われる格闘タイプの職業や特殊な鍛冶職の方々がこれのせいで大いに成長しコンマイ国の水準が一気に伸びるのだ。

ロクドーの音ゲーによる異世界革命は本人の意識しないところでも着実に進行していたのであった。


「次はこれやってみる!」


少女が2曲目に選んだのは足2つの曲『ザッツザェ~イ』であった。

きっと少女は3曲プレイできるという事で最後にプレイ前に流れた『バタフリー』をプレイするつもりなのだろうが彼女はまだ知らないのだ。

3曲目にはボス曲が出現する事を・・・

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