第5話 酒場に設置したら酒よりもエーテルが売れまくった件
「一体どうすればいいのだ・・・」
ロクドーの住むコンマイ国の大臣ガイドは自室で頭を抱えて悩んでいた。
一芸に秀でた者でも居れば隣国ナコムからの宣戦布告に対抗する手段に出来るのだが、それも国王の過去の増税のせいで殆どの人が他国に移住していたのでコレといった人材が居ないのだ。
宣戦布告を受けた国が争う内容を決められるとは言え特殊な種目は向こうが圧倒的に有利。
それと言うのも隣国ナコムは遊びに力の入った国で様々な特技を持った人を育てるのに国が協力をしているのだ。
「こうなったらなにか新しい種目を考えて・・・いやそれでもそれを今から特訓しても・・・」
そう、過去にも勝手に作った新しい種目を使って勝とうとした国は在った。
だが新しい種目と言っても発表してから本番まで相手もそれを練習するので結果的によほどのことがない限り差は開かない。
ここ数日ずっと国王は毎日ガイドに何とかしろと無理を言い続けていてそれを聞いていたガイドは薄い頭が更に薄くなりつつあった。
「少し外の風にでも当たってくるか・・・」
このままでは寝れないと考えたガイドは城から出て夜の町へ繰り出す。
日中は暑く夜は寒いこの国の冷たい風に着ている物をギュッと握りガイドは行きつけの酒場へと足を運んだ。
「なんだ?随分賑やかだな・・・」
店内に足を踏み入れたガイドは店内に聞いた事の無い音楽が流れているのに驚いた。
城で働くガイドが聞いた事の無い曲と言うのは確かに沢山在るだろう。
だがコレほどまでに多彩でしかもどうやってその音を鳴らしているのか分からない複雑な音が多数流れているのだ。
「な・・・なんだあれは・・・」
そこには人だかりが出来ていた。
そしてそこには黒い筐体のビートDJマニアが設置されていた。
ガイドは人だかりでよく見えないそれを横目にマスターに声を掛ける。
「エールをくれ、それはそうとあれは一体何なんだ?!」
「ん?ガイドさん知らないのか?先日奴隷商のロクドーってのがあれを作ったらしくてな店に置いてくれないかと言ってきたんだ。最初は断ったんだが売り上げは倍増するし試しに3日間だけって話で置いてみたらこれがまた大ヒットなのさ」
ガイドはその話を聞いて居る時に歓声が上がった。
「うぉおおお!!遂にクリアしやがった!」
「くそー!これでまだクリアされてないのはあの1曲だけか!?」
その時店に流れていたのは『ラブ総包み』であった。
レベル4のこの曲は歌が入っているのだが英語と言う言葉の存在しないこの世界では何かの楽器の音だと勘違いされていたのだ。
そして、酒場で男達が言っているあの1曲とは後に伝説となるあの名曲『11月20日』である。
「おい!マスター!エーテル追加だ!」
「あいよ、でもお前等ここは酒場だぞ。酒も注文しろよ」
筐体を作ったロクドーの言う通りあの日からエーテルがこの酒場で驚異的な売り上げを記録していた。
元々は魔法を使う冒険者が携帯する物でそれほど売れるものではなかった。
しかし、ここ数日で実に年間売り上げの倍以上の量が売られ飲まれていた。
これにはロクドーに同行して来ていたアリスから提案され午前と午後の一日2回入荷を行っているのだが初日の僅か1時間で店の在庫が全て売り切れてから毎日引っ切り無しに入荷を行っている。
「だってさ、酒が入ると上手く演奏できねーんだよ」
「はぁ・・・全くほらよ」
マスターがコップに入ったエーテルを渡す。
これ1杯でMPが丁度100回復するのだ。
「んぐっんぐっんぐっ・・・ぷはー!よし次こそクリアするぞ!」
そう言って男は再び列に並ぶ。
その光景を目を丸くして見ているガイド。
「こ・・・これだぁあああ!!!」
エールを片手に大声で立ち上がったがそれよりもDマニから流れる音の方に全員の意識は集中していて誰も反応しなかった。
翌日、国王のコンマイ・パセリ・アミュ6世の元へ朝一でガイドは突撃しこのゲームの事を話した。
そして、ロクドーが王城に呼ばれ王城にも1台ロクドーが作り出す事となったのだが・・・
ロクドーは置いて欲しいといわれた場所に即座に魔法でそれを作り出し配置した。
これには驚くべき事実が影響していたのだ。
現在のロクドーのステータスは・・・
ロクドー
LV.13
HP:500/500
MP:2400/1352400
なんとMPの上限が誰かがロクドーの生み出した音ゲーをプレイする度に10ずつ増えていたのだ!
こうして王城にも設置されたビートDJマニアは毎日のように王城に音楽を流し宣戦布告してきたナコムの者を呼びつけそれを勝負の内容と定めた。
翌日からナコムの国で一番楽器の演奏が上手いと言われる者が泊り込みでビートDJマニアをプレイして本番に備える事となったのだが・・・
「面白い・・・だが何て難しさだ・・・」
打楽器にしても太鼓の様な物くらいしかないこの世界にこのボタンとスクラッチで演奏を行うと言うのは斬新過ぎて中々馴染むのに苦労したその男性の名は『アトラン』。
街の酒場で一番上手いとされる『トム』がコンマイ国の代表となり遂に決戦の日がやってくるのであった。
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