第2話 時空侵入者 つづき

自分の体から生身の部分がなくなった。

柴田は平賀から渡されたMRI画像を見て絶句した。絶句したり言葉を失うのは初めてではない。何度かあったが短時間で元に戻った。その時に自分は移植された右腕のせいで融合した。金属生命体の腕は死んでいなくてずっと生きていた。火災現場では倒れてきた柱を支えたり、事故現場で車のドアをこじ開け、切り離したり、右腕が放水銃に変形して激しい水の渦となって激しい炎を消火した。そこまではなんともなかった。しかし何度か使ううちに融合の苦痛が来て完全に融合してしまった。

 頭に鋭い痛みが走って顔をしかめる柴田。普通の偏頭痛ではない。この激痛が来ると普段なら死人のサラリーマンやOL、幻の弟や家族を見るがそれとはちがった。

 ある映像がよぎる。

 ・・・護れ・・・戦え・・・

 あの声が響いた。

 柴田は激痛に目をつむった。

・・・ここはどこだろう?

 自分はベットに拘束具を装着されくくりつけられていた。

 あの融合の苦痛の日だ。

自分はベットに拘束器具を手足、胴体にくくりつけられている。忘れもしないあの融合の苦痛の日だ。初めて金属生命体と人間のハーフになった日だ。

 融合して二十四時間以内に疼痛が襲ってくる。融合の苦痛は合同調査で南太平洋の異変を調査した日だ。その時は国連討伐隊の力を借りてカメレオンの基地とタワーを破壊しに行った。タワーのある基地周辺にバクテリアも死滅する赤い海域が出現して五〇〇メートルずつ拡大していたから自分と佐久間、三神、五十里、福竜丸、翔太、智仁と一緒に行ってカメレオン部隊と戦かっているうちに金属生命体とのハーフになりヤン・ハカと戦い倒して脱出するハバルタグの中で融合の苦痛が起きてそっから覚えていない。気がついたら横須賀海軍病院だった。

「柴田」

不意に呼ばれて振り向く柴田。

医務室に入ってくる三神と朝倉。

咳払いする高浜。

彼ら以外に沢本や三島、大浦と時雨、柳楽、五十里と下司、貝原がいる。

「大丈夫ならいい」

声をかける三神。

「あなた方が来たのは火災現場に現われた島渦でしょ。あの女は死んだけど」

涙をあわててふく柴田。

「あの女はおまえの同僚だった。八木はこの間の合同調査で逃げたけどTフォースが追っている」

高浜は話を切り出す。

「八木はきっと他の時空侵略者を煽ってもっとも侵入しやすい場所を使ってやってくる。地下鉄に現われたカメレオンは偵察部隊でしょ」

柴田は核心にせまる。

「そういう事になる。下っ端を使って侵入して橋頭堡を築けば今度は本隊が到着する」

「だから私達「火災調査団」が倒しているのよ」

「そうだ。火災調査団は警視庁や海上保安庁、自衛隊と連携してそれを防ぐためにいるんだ」

「やりましょう。私は大丈夫」

うなづく柴田。

「俺達も協力するし手伝う。必要なら芥川達も呼ぶし佐久間さん達も呼ぶ」

三神は手を差し出す。

柴田はうなづき握手した。

「・・・マシンミュータントも融合の苦痛はあるんでしょ」

柴田は思い切って聞いた。

「あるよ。あれは悪夢だ。俺は時々、夢に見たりする。我慢しなくていい」

三神はそっと柴田を抱き寄せた。

黙ったままの柴田。

自分同様に三神も体温がない。でも仲間がそばにいる。

「ねえ、マシンミュータントがよく行く居酒屋はあるの?」

柴田は話を切り替える。

「あるよ。横須賀の「水木」は自衛隊のマシンミュータントのたまり場だ。悩みがあれば話に乗るし、俺達もそういうマシンミュータント特有の悩みや苦しみを共有するグループはある」

三神は答えた。

「参加したい。今度連れてって」

「いいよ」

三神は答えた。



翌日。

柴田はバリアに囲まれたサークル内で時雨のパンチや蹴りを受け払った。

普段なら通報がない時は消防署で事務をしているがそれは終ったから時空監視所で格闘訓練をしている。普通の消防士は格闘訓練は必要ない。火災調査団の場合は敵と戦うためである。敵はカメレオンだけでなく時空侵略者もいる。それ以外は事務仕事している。それらが終れば仮眠室で仮眠する。

訓練場に入ってくる数人の男女。

柳楽や高浜、下司、五十里が振り向く。

「柴田。時雨」

呼ばれて訓練をやめる二人。

見ると佐久間、三神、朝倉、貝原、芥川と翔太がいる。

芥川は海上保安官として女性として登録されているが時雨やオルビスと同じような種族である。彼女は特殊部隊SSTにいる。

佐久間はあの地下鉄トンネルにいた女性自衛官である。彼女はマシンミュータントでイージス艦「あしがら」と融合していた。

「あんた・・合同調査でもいたね。その声や体を受け入れろとか言っていた」

柴田は声を低めた。

あの合同調査に参加して自分は金属生命体と人間のハーフになりカメレオンや八木と戦い、時空を歪ませる程の水の力を操った。あの調査でわかったのはカメレオンは中国軍と組んで南太平洋に基地を造ろうとしていた。基地はカメレオン専用だったから潰したが南シナ海には中国軍とカメレオンの基地が混在している。根本的に解決していない。

「いずれは目覚める。タイミングが合っただけ。それにあなたにはテレパシーのマネで水を媒介してできる。私のは多数の人々にテレパシーで操れて遠隔地でも観れる。あなたも三神も一時的に強い力を持っていた。芥川や時雨、オルビス、リンガムも同調していた。彼らだけでなくランディという少年も反応していた」

「だから?」

「水を媒介しなくてもテレパシーであなたは探る事ができる。三神もそうだし沿岸警備隊チームにいたメンバーも持ち回りで訓練している。オルビス達も通信装置を使わずに集合意識で繋がっていなくてもテレパシーのマネはできる」

はっきり指摘する佐久間。

不快な顔をする柴田。

「それにあの合同調査でわかったのはカメレオンに他人を操れる連中がいる事だ。あいつらがいれば他人を操っていつでも時空の亀裂を造って仲間を入れてしまう事ができる。強制的に協力者にできる。手引きする者を作れるということだ」

黙っていた五十里が口を開いた。

「俺達も不思議に思っていた。火災現場やレスキュー現場に時空の亀裂が出現するのを」

三神が口をはさむ。

自分達は不審船を入れてしまう事件を追っていた。ニュースになっていないが日本の領海に中国漁船がたくさん出現して勝手に漁場を荒らして逃げていく手口である。仲間がいなければ絶対入ってこない。手引きした者を警視庁と一緒に捜索していた。

「カメレオンの中には他人を自由に操れる奴がいる。海上保安庁が追っていた事件の中には日本と韓国が共同開発した掘削基地と東シナ海にあった中国の掘削基地は奴らに操れられた従業員がいた」

黙っていた朝倉がわりこむ。

「資料で見たわ」

柴田がうなづく。

韓国と日本が共同開発した対馬沖の掘削基地は気がついたらカメレオンの巣になっていて卵まであり、従業員はカメレオンの下僕として使役されていた。下僕になると眼が赤くなり、首筋にタトゥがつけられる。死ぬまで操られるのだ。

「東京消防庁から火災調査団スクワッドに入電。豊洲のマンションで火災発生。時空の亀裂が発生との通報」

場内アナウンスが入った。

「柴田。柳楽、時雨、五十里、下司行くぞ。柳楽。豊洲のマンションだ」

高浜はタブレットPCで地図を見せる。

 柳楽はうなづく。すると青い光に包まれて彼らの姿は消えた。次に出現したのは通報にあったマンション火災現場である。

 すでに近隣の消防署や出張所から消防車が何台も駆けつけ、消防士達が忙しく行き交いその周辺には野次馬が集まっていた。

 目を半眼にする高浜。

 あと三十秒すると最上階の部屋から激しい炎が治まり鎮火したように見える現象が起きる。原因は時空の亀裂が現われたせいだ。そして最上階の下の階には戦闘服姿の男女が何十体もいる。人間やミュータント、マシンミュータントでもない。カメレオンだ。

 「バックドラフトに気をつけろ。扉は不用意に開けるな」

 高浜は注意する。

 うなづく柴田。

 バックドラフトとは気密性の高い室内で火災が発生すると、室内の空気があるうちは火災が成長する。しかし空気が少なくなると燃え草がいっぱいあっても、鎮火したような状態になる。この段階でも火種が残り、可燃性のガスが徐々に室内に充満していくことがしばしばありえる。こうした時に不用意に扉を開けると、新鮮な空気が火災室に入り込み、

火種が着火源となり今まで燃えなかった可燃性ガスが爆燃する。

これがバックドラフトである。気密性が高く、可燃物も多い冷蔵倉庫のような建物で発生しやすく、過去において炎が扉から噴出し消防士が殉職した火災事例もある。最近の建物も気密性が高くなり、バックドラフトが発生しやすくなっている。

「マンションから敵接近。マンション最上階の時空の亀裂から侵入してきます。

時雨のレーダーに脅威度の順番に敵が表示される。

「柳楽。十三階だ」

高浜は指示を出した。

「了解」

柳楽は答えた。高浜達が青い光に包まれて消えて十三階の共用通路に姿を現した。

四足歩行の岩石生命体が何体も壁や天井を這い回っている。岩石の外骨格に覆われ、両目は不気味に赤く輝き、口から炎を吐いた。

柳楽は片腕の掌底を向けた。

すると重い岩がのしかかられたようにぺしゃんこに押しつぶされコアもガラスが割れる音がして生命体は粉々になった。

上の階から茶碗を二つ伏せて合わせたような物体が多数やってくる。大きさは五十センチでパックマンのように口を開けると牙がビッシリ生えている。

柴田の両手と両足にどこからともなく水が集まりそれがプロテクターのようにまとわりつく。彼女は駆け出し、空手チョップ。

近づいてきた岩パックマンは真っ二つに割れた。続いてパンチと蹴りによって真っ二つに割られ、砕け散った。

柳楽と時雨は片腕をバルカン砲に変えた。青い光線が連射されて接近してきた岩パックマンの群れを撃墜した。

五十里は持っていた斧で岩パックマンを叩き割っていく。

下司は持っていた銃で撃墜する。ただの銃ではなく魔物用に改造された銃だ。

高浜は日本刀を抜いて駆け抜ける。居合い切りによりそこのいた数十個の岩パックマンは両断された。

柴田が振り向くと残骸が転がっていた。

階段を上がると煙が充満している。

通路の奥からくだんの四足歩行生命体の群れがやってくる。

「炎を吐かせるな」

高浜は身構えた。

「了解」

柴田は右腕の掌底を向けた。どこからともなく水が集まりだしそれが激流のように放射された。煙もろとも生命体も水の球に閉じ込められた。

もがくくだんの生命体。

時雨と柳楽は片腕のバルカン砲で撃つ。

コアを破壊されて倒れる生命体。

最上階に上がると炎がすでにいくつかの部屋から噴き出しているが真ん中の部屋だけ炎も煙も出てない。

「時空の亀裂があるね」

時雨は声を低める。

「それを発生させている機械を壊すしかないね」

柴田は口をはさむ。

直感である。侵入してきたなら空間を安定させるために簡易的な機械を置くだろうと。

五十里の目に火災原因は炎の出ている部屋のコードが赤く輝き、時空の亀裂があると思われる部屋は七色に見えている。

「柴田は部屋の消火だ。時雨、柳楽。その発生源を止めろ。俺達は敵の始末だ」

身構える高浜。

部屋から出てくる戦闘服の男女。両目は赤色に輝き、首筋にタトゥがある。彼らのそばにはたくさんの岩パックマンがいる。

岩パックマンが飛びかかった。

下司は正確に銃で撃ち落とし、五十里は斧で叩き割り、高浜はつかみかかってきた女を巴投げした。

柴田は水をまとった拳で別の男達を殴り倒して走った。彼女は割れた窓から噴き出す炎に近づく。いきなり二体の岩パックマンが右腕に噛みついた。しかし牙が貫通せずに驚く岩パックマン。

「残念ね」

柴田は千切れた袖を取った。彼女の右腕はガントレットと呼ばれる金属の篭手と二の腕までのロンググローブは装甲に変わっている。それは右だけでなく左腕も両足も同じように変わり、皮鎧は十センチと厚みが増し、硬質化して金属鎧に変わっていた。その鉤爪で引っかいた。岩パックマンは真っ二つに割れた。

メキメキ・・・

先端が砲身に変形した。砲口から水が勢いよく噴き出し、部屋の中を渦巻き、水に押されて火が消えていく。

彼女は隣りの部屋に行くと燃え盛る炎に向かって砲口を向ける。水がどことなく集まりだし激流となって激しい燃え盛る炎が消えて水が部屋を満たす。

ギシギシ・・!!

「ぐっ!!」

鋭い痛みに胸を押さえる柴田。

両耳は金属の耳宛に変わり、胸にある六角形の金属板が輝く。体内で軋みながらケーブルや配管が蛇のように激しく蠢き、部品を作り出しているのを感じた。

でもまだ鎮火していない。

精神を右腕に振り向ける柴田。

柴田は向かい部屋の猛火やその隣りの部屋の炎を消していく。

真ん中の部屋から閃光とともに大量の煙が噴き出して柳楽と小型砲台が出てきた。砲台に変身しているのは時雨である。彼は装甲車や榴弾砲に変身できる。Tフォース本部にビックガンというオルビスの仲間がいるが彼は大砲に変身ができる。この前の沿岸警備隊チームで南シナ海の異変で出動して巨大砲台に変形して時空の扉を破壊した。

「時空の亀裂は閉じました」

「鎮火完了」

高浜が周囲を見回す。

ホッとする柳楽。せつな右腕からケーブルや機械部品が飛び出し、何かが這い回るように盛り上がり歪み、鋭い痛みによろける。

時雨が近づいて手首からケーブルを出すと自分の機械の腕に接続した。すると激しく歪んでいた腕が元のサイバネティックスーツの腕に戻り、飛び出ていた機械部品やケーブルは内部に納まっていく。

「いつでも呼んでください。調整します」

時雨は肩に腕を回して支える。

柳楽はうなづくが目を剥いて倒れた。

駆け寄る柴田達。

「使いすぎてオーバーヒートしたのかもしれないですね。燃料タンクとエネルギータンクが空です」

時雨は分析しながら報告する。

「他の部屋の火災原因は過剰電流による漏電だ。奴らのせいでもあるね」

部屋から出てくる五十里。手には焼ききれたコードやケーブルを握っている。

「時空監視所へ行って報告書と柳楽を医務室に運べ」

高浜は言った。


・・・ここはどこだ?

鋭い痛みに身をよじる柳楽。

目を開けるとベットに拘束されていた。自分の体を見ると手足は自分の手足ではなく他人の手足で胴体は白色のサイバネティックスーツに覆われ胸には大きな傷跡がある。

「よく出来ただろう?」

助手に自慢げに言う白髪の男。

「博士。成功しましたね」

手術服と帽子にマスクの黒人は声をかける。

博士と呼ばれた白髪の男は笑みを浮かべる。

「おまえは戦闘奴隷として売られる」

博士は柳楽の髪をつかんだ。

柳楽はつばを吐いた。

博士は目を吊り上げケーブルをつかみ押し当てる。

「ぐああぁぁ!!」

ズン!と冷たく突き上げるような痛みに柳楽はもがいた。胴体が何が引っかき這い回るかのように激しく盛り上がり肉が割れ、金属が軋む音が響いた。

博士は怒りをぶつけるように何度もケーブルを押し当てる。

「融合の苦痛が来ないな」

柳楽は身をよじりのけぞる。

ドクドク・・ドクンドクン!!

激しい心臓の拍動音が響いた。

胸の傷口が開き、青い光を放ち金属と機械の心臓に変わり、血管も配管とパイプになっていくのが見えた。

「わああぁぁ!!」

柳楽は叫びもがいた。

胸の傷口からケーブルや部品が飛び出して緑色のキュイラスと呼ばれる胸甲を形成する。厚みが増していくのが見える。

二の腕も中世ヨーロッパの人達が着る服のスラッシュと呼ばれる膨らんだ袖のようになっていく。緑と白の切れ込みの入ったゴムの長袖は何かが蠢くかのように軋みながら歪む。篭手からはナイフや短剣が飛び出し、砲身に変わる。両足もプロテクターに変わっている。腹部から金属板が飛び出し硬質化する。背中からも部品が飛び出す。

博士と助手は悪魔のような笑みを浮かべてもがき苦しむ柳楽を見下ろしていた。


柳楽はベットから飛び起きた。

ベットのそばでのぞきこむ佐久間と三神、柴田の三人。

「ずっとうわ言を言っていたね」

柴田は口を開いた。

黙ってしまう柳楽。

「改造されていた時の夢を見たのね」

佐久間が察する。

うなづく柳楽。

「俺は突っ走りすぎて拉致されてアクドグナガルに人体実験と拷問を受けた。でも記憶はないんだ」

三神は写真を見せる。ジョコンダとアクドグナガルの顔写真だ。

「俺も記憶が途切れ途切れで覚えてない。でも融合の苦痛が起きた。こいつらは笑いながら見ていた」

柳楽は歯切りする。

この間の合同調査でかすかな記憶にあった助手がいた。それが政府高官のジョコンダだった。あの融合の苦痛の日は忘れたくても忘れらない。悪夢である。

柳楽は胸甲を押さえた。普段はゴムのようにやわらかいが戦う時や出動の時は硬質化する。そしてしぼんでいる袖は膨らむ。時空の亀裂を感じると心臓が早鐘を打ち拍動音と痛みで感知する。

「時空の異変を感じると腕に痛みがくる」

柳楽は二の腕を押さえる。緑と白の切れ込みの入ったゴム長袖は折りたたまれしぼんでいるが感知すると痛みとともに膨らむ。

「金属生命体と人間のハーフだけでなく金属生命体とのミュータントのハーフだっていると思っている。海上保安庁でも不審船を追いかけていて暴力団が中国マフィアと港で取引した中味は宇宙漂流民だった事がある。その女性は胴体と頭部だけ。それでも生きていたんだ」

おぼろげながら思い出す三神。

「オルビスの種族は胴体と頭部だけでも生存可能なの。だからジョコンダやアクドグナガルのような人間や米軍上層部が目をつけて戦争に利用しようとしている」

佐久間が指摘する。

「高浜隊長は?」

柳楽は高浜や翔太達がいないのに気がつく。

「高浜さんや翔太達は東京湾で調査だ」

三神は答えた。



その頃。東京湾

東京湾外湾を航行する巡視船「いなさ」と

「あそ」の二隻。

 翔太は身を乗り出しピンセットでフワフワ浮かぶ七色の綿毛をつかみビンに入れた。

 「小さな時空の亀裂が出現して消えたみたいだね」

 翔太は周囲を見回す。

 「本当に虹色なんだな」

 高浜はビンの綿毛をのぞく。

 身を乗り出す下司と五十里。

 周囲を見回す芥川、オルビス、リンガム、時雨。

 「たぶん火災現場だと火事で燃えてしまうから気づかなかったと思うね」

 五十里は海図をのぞく。

 「彼らは出現ポイントを探っているのではなかいと思います」

 芥川が口をはさむ。

 たまたま成功したのが三年前の八王子魔物事件です。東日本大震災の前年になります。あの大震災で大きな時空の亀裂が出現してすでに別の敵は侵入した」

 時雨がわりこむ。

 「それに東京湾と千葉沖は米軍がよく何かの実験をしていた。六年前のポイントと重なるな」

 朝倉が思い出す。

 「六年前の魔人事件か?」

 それを言ったのは高浜である。

 「知っているのか?」

 貝原と朝倉の声がはもった。

 「俺は邪神ハンターとして応援に行っていたんだ。魔人を君の相棒は倒した。だが相棒は大きな傷を負い一部の記憶を失った」

 高浜が核心にせまる。

 「・・・はっきり言うな。まったくのその通りだったし。米軍の極秘実験がUFO騒ぎになったりUMA騒ぎになったりする。この間の合同調査では異変の主は中国海警局だったがその原因の元は米軍だった」

 朝倉が結論を言う。

 三神を記憶喪失にさせたのも米軍関係者だった。ジョコンダの上司のアクドグナガルは米軍と関係のある科学者だ。

「そして隠れている宇宙漂流民を捕まえてはバラバラにして実験材料にしていた。マシンミュータントも捕まえて人体実験をしてそれを闇市場に横流しした結果、バラバラにされて売りさばかれていた」

貝原が指摘する。

「金属生命体とのハーフが生まれる原因ができていた。だから彼らも保護しなければいけないと思っている」

翔太は思い切って言う。

「俺の部下の柴田と柳楽はその犠牲者だ。そういう犠牲者を増やしてはいけない」

何か決心したように言う高浜。

「亜種族だけど彼らも仲間だ」

芥川がわりこむ。

「僕もそう思うし柴田も柳楽も痛みや苦しみにさいなまれている。それは僕達も同じだと思う」

時雨が真剣な顔で言う。

「オルビス。気づかなくてごめん」

翔太はあやまる。

「君のせいじゃない。僕達の戦いに巻き込んで今度は仲間を苦しめる原因まで作った」

視線をそらすオルビス。

黙ったままのリンガム。

「米軍は本当にロクでもないな。スレイグが大統領になったからもっとロクでもない事をやりそうだ」

五十里は肩をすくめる。

「米軍基地のある国は特に事件が多い。謎のUMAチュパカブラは米軍の極秘実験で生まれたと言われている。家畜が襲われる事件が多いのも在留米軍基地がある国だ。全部がそうとは言い切れないけどね」

黙っていた下司が口を開く。

「米軍の実験のせいでサブ・サンがカメレオンを連れてやってきたと言っても過言ではない。合同調査では人体実験のせいで隠れ住んでいた金属生命体をおびき出しては実験道具にしていた。やっている事は中国軍が南シナ海と変わらない」

高浜が空を見上げる。

「あの状態だとアメリカと中国は近いうちに戦争になるな。あの近くにはハワイやマリアナ諸島があり米軍基地がある。中国軍やカメレオンを使って攻撃を仕掛けるだろう」

危惧する五十里。

「それは僕も思うよ。サラトガやホーク達はそんな事は絶対にないと言い切っていたけど想定外なんていくらでも起こる」

翔太ははっきり指摘する。

合同調査でもサラトガ達はあいかわらずロクでもなくて尊大だった。あのままカメレオンがおとなしくいるはずがない。きっと何か仕掛けるだろう。

「オルビス。金属生命体とのハーフも保護しないと実験動物にされる」

翔太は視線をうつす。

「それは僕も思っている。受け入れなければ危機に立ち向かえない」

オルビスがうなづく。

「私もそれはわかる。かくまう場所は月や火星で今の所はそれでいい。人類が進出してきたら木星にコロニーを造ってそこに移ってもいい」

リンガムがうなづく。

「それに賛成する」

時雨や芥川はうなづいた。



一時間後。時空監視所。

ミーティングルームで柴田はお茶を飲んでいた。すると異様な重い空気となんともいえない気配に気づいた。

「柴田。その判断でよかったのか?」

抑揚のない声が聞こえて顔を上げると土気色の顔のサラリーマンがいた。胸に大きな穴が空いている。

「やめるべきよ」

今度はOLが口をはさむ。彼女の右頭部の半分がない。

「私は受け入れようとしている。ベストを尽くしている」

反論する柴田。

ミーティングルームに入ってくる翔太達。

部屋には柴田だけだが彼女は不快な顔で誰かとしゃべっているがそこは壁である。

部屋に佐久間、三神、柳楽、芥川が入ってきた。

「今の所は異常はないし通常の火災の通報だけだ」

柳楽はモニターをのぞく。

柴田が振り向いた。

「不審船も侵入してないか」

三神も身を乗り出す。

「調査はどうだった?」

佐久間が振り向いた。

「これを見つけた」

翔太はビン詰めの綿毛を見せた。

「東京湾の外湾で見つけた」

貝原が口を開く。

「また不安定になっている」

翔太が不安を口にする。

この言い知れぬ不安はなんだろう。今の所は異常はないが

「私もそれは感じている。この心臓が教えてくれる」

柴田は胸を触る。

機械と金属でできた心臓は青く輝き軋みながら早鐘を打つ。この心臓は嫌いだ。

「柴田。魔人や時空侵略者は強力な連中が多い。これが増幅装置。使う時は制御装置は外す事」

アーランは弓道で使うような胸当てを渡す。

しぶしぶ受け取る柴田。

「時雨と柳楽の分」

アーランはくんだの胸当てを渡した。

「柴田さん」

翔太は柴田に抱きついた。

ドキッとする柴田。

「大丈夫。君ならやれる」

子供に言い聞かせるように言う翔太。

うなづく柴田。

なんてあったかいのだろう。心音や体温がある。自分からなくなった物がそこにある。自分はこの子や椎野や稲垣達にずいぶん助けられている。

「あなたは私達が怖くないの?」

柴田は顔を赤らめ離れた。

「怖くないし、小さい頃からオルビス達を見ているからね」

笑みを浮かべる翔太。

日常生活にいつもマシンミュータントはいたしオルビス達はいた。彼らがいない生活が逆に考えられない。

「それと小さい時空の亀裂なら反応する感知器を渡しておく。場合によってはSSTもそれに遭遇するかもしれないからね」

アーランは芥川と高浜、朝倉、佐久間にリモコンのような感知器を渡す。

 「わかった。我々は署に戻ろう」

 高浜は促した。



 数日後。

 「雑居ビルが多いですね」

 柴田は地図とビルを見比べる。

 「そうだな。中華街は低層ビルが密集しているし、中華料理屋だらけだな」

 高浜は周囲を見回す。

高浜と柴田はオレンジ色の救助服姿で中華街を歩いていた。彼らは消防設備の点検でテナントを見て回っている。

柴田は地下へ降りる階段をのぞく。その階段を降りればパブやスナックがある。階段に荷物は置いていない。

荷物が置いてあれば火事になったらそれが邪魔で逃げられないからだ。階段や通路に荷物が山積みが原因で逃げられなくて火災に巻き込まれて亡くなる事象は歌舞伎町や都内の雑居ビルで起きている。

二人は雑居ビルを見て回った後、路地に入った。路地には誰もいる気配がない。にぎやかな道路から少し離れただけだが、猫や犬、鳥の気配も鳴き声もない。その時である。急激に気配が生まれたのは。

高浜と柴田は身構えた。

周囲にいつの間にかチンピラ達が集まっている。手には角材や鉄パイプを持っていた。

「お祭りでもやるの?」

柴田の拳がプロテクターに覆われ、腕の回りに水滴がまとわりつく。

チンピラ達が襲いかかった。

高浜は角材を払いのけ掌底を弾き、回し蹴り。三人のチンピラが転がった。

柴田はミュータントのチンピラの速射パンチをかわし、鋭い蹴りを入れ、右ストレートを入れた。まとっている水のバリアによって鉄パイプでたたかれても彼女には痛みはない。彼女は地面を拳で殴った。衝撃波とともに水が広がった。弾かれチンピラ達は壁や地面にたたきつけられた。

路地に駆けつけてくるチンピラ達。全員の目が赤色に光っている。

高浜は日本刀を抜いた。

チンピラの日本刀を弾く高浜。彼は鉄パイプをかわすと鋭い蹴りを入れた。彼はチンピラ達の間隙を縫うように駆け抜けた。振り向くと数十人のチンピラが倒れていた。

不意に柴田は足をつかまれた。彼女はその手を蹴り飛ばす。

柴田はとっさに飛び退いた。彼女がいた場所にチンピラの斧が地面に刺さる。

黒服のチンピラは掌底を向けた。石という石が飛んできた。

柴田は右手を突き出した。彼女の手前に出現した水の壁に石のヤリは弾かれた。水の壁が崩れ、黒服のチンピラを包んだ。チンピラは目を剥いてもがいていたが動かなくなった。

その時である。柴田に植物のツルが巻きついた。ツルは建物をはっていたツタ植物から伸びている。

高浜は伸びてきたツルを日本刀で斬った。

テレポートしてくる男。彼はいきなり柴田の首をつかみ鉤爪で引っかいた。

「八木」

柴田はその腕をつかんだ。

八木は三年前の八王子魔物事件で死んだ消防士である。あの日、右半身が魔物に喰われてなくなり死んだがあの合同調査でカメレオンと一緒に現われた。右半身は復元されていたが首筋にはカメレオン特有のタトゥがついていた。

「柴田。あの日のように同棲しないか」

八木は胸に鉤爪を突き立て何度も引っかく。救助服が破れ、腹部から胸まで覆うコルセット型の鎧があらわになる。

八木は二対の触手を出して先端を鉤爪でわき腹をつかんでいきなりキスをする。

ドクドク・・・!メキメキ!

柴田の脳裏に地面に血がしたたり落ちるイメージが入ってきた。せつな鎧の厚みが増して硬質化する。ロンググローブで覆われた二の腕が金属プレートで覆われ、篭手からナイフが飛び出し八木の胸を刺す。

「合同調査でも言っただろう?カメレオンからはいろんなものをもらったんだ」

八木は彼女にのしかかりその足の鉤爪と腕の鉤爪で何度も引っかき金属のウロコを剥ぎ取り持っていたナイフで胸を何度も突き刺す。

八木は再びキスをして傷口から部品やケーブルをもぎ取り、ナイフをもう一度えぐりながら突き刺す。

柴田の全身が青白いオーラに包まれ水をまとった拳で殴った。

高浜は日本刀で袈裟懸けに斬った。

八木は倒れた。しかし跳ね起きると大きな傷ふさがりどこかへ消えていった。

「柴田」

高浜は駆け寄る。

「心臓は刺されていない」

柴田は胸に刺さっていたナイフを抜いた。その刃は紫色に輝いていた。胸には何度も刺された傷口がいくつも口を開けている。

「そのナイフは・・・」

高浜が絶句した。

柴田は焼きゴテを押し付けられるような痛みに胸を押さえた。硬質化していた鎧が皮鎧に戻るが厚みは十センチと変わらない。

「ぐふっ!!」

柴田は口から青い潤滑油を噴き出しもがきのけぞり胸を引っかく。

「嫌・・・この体・・・」

皮鎧は激しく波打ち、傷口から蠕動運動をするパイプやケーブルが見えた。軋み音をたてて蛇のように激しく蠢く。彼女は腹部を鉤爪で引っかく。しかしゴムのようにへこみ傷がつかない。

傷口が開いたままふさがらない。傷口から青い潤滑液がしたたり落ちて止まらない。

もがきのけぞる柴田。その間にも青色の潤滑油は機械油と一緒にしたたり広がり続ける。

「血が止まらない・・・」

苦しげな呼吸音に身をよじり柴田は倒れた。

「テレポート」

高浜は呪文を唱えた。



一時間後。時空監視所の医務室。

「助けてくれてありがとう」

高浜は視線をうつした。

マシンミュータント用医療用チョッキを装着してベットで寝ている柴田がいた。

「傷口はふさがった。破片はない」

アーランはMRI画像を見せる。

時雨や柳楽、オルビス、リンガム、芥川はのぞきこむ。

「このナイフはなんだ?」

黙っていた五十里が口を開く。

「サバイバルナイフだけど紫色の刃は見た事がない」

下司がナイフを眺める。

「それは僕達を苦しめるためにサブ・サン達が開発した「深遠の石」だよ。それで刺されると死ぬ事なくずっと苦しむんだ」

オルビスが重い口を開く。

「そんな兵器があるのだな」

高浜は腕を組んだ。

「八木は合同調査でカメレオンと一緒にいた。という事は火災現場や災害現場に現われる時空侵略者はそれを知ってやってくる」

芥川は口を開いた。

「本当はサブ・サンをなんとかしないといけないのに中国政府といる。そしてアメリカの大統領はスレイグに変わった。彼はジョコンダと親しい。そして時空侵略者に興味を持っている。かえって複雑にしている」

リンガムが困った顔をする。

「そうだな。世界情勢は混沌としている」

高浜は言った。



翌日。

唐突に体が軋んだ。

この体は・・・嫌・・・

柴田は目を開けた。身を起こすと二の腕やわき腹にケーブルが接続されている。

「私はもう人間ではないのね」

柴田はうつむいた。

「気がついたか」

高浜とアーランが医務室に入ってくる。

顔を上げる柴田。

アーランはベットのスイッチを押した。

すると彼女の皮鎧と腕に刺さっていたケーブルはスルスルと抜けた。

「あの紫色のナイフはなんなの?」

柴田は思い切って聞いた。

「あれは「深遠の石」よ。宇宙漂流民を長く苦しめるために造られた武器。サブ・サンの種族が開発した。これにやられると死なないけど永遠に苦痛に苦しむ。傷も治りが遅くなり血が止まらなくなる」

アーランが銀色のトレーに入った紫色のナイフを見せた。

「嫌・・・」

顔をしかめる柴田。

なんともいえない嫌な波動を感じた。全部拒絶するようなそんな波を感じた。せつな、

心臓が早鐘を打ち皮鎧が激しく軋み波打つ。

「時雨や芥川も本能に刷り込まれている。金属生命体とのハーフも同じようね」

納得するアーラン。

「柳楽も同じように見せたら嫌がったんだ」

困惑する高浜。

「署に戻りましょ」

柴田は救助服をつかんだ。

すると感知器のチャイムが鳴った。

タブレットを出すアーラン。

「第二東名、日本坂トンネルで多重事故発生。小さな時空の亀裂がトンネル内部と出入口で確認される」

高浜と柴田は互いに顔を見合わせる。

「私も手伝う」

芥川は名乗り出る。

「僕も」

「私も」

オルビスとリンガムも名乗り出る。

 「それはありがたい」

 時雨と柳楽がうなづく

「わかった。今は人手が少しでもほしい。レスキュー隊が危ない。火災調査団は出動だ」

高浜は声を荒げた。



第二東名日本坂トンネル

トンネルの出入口からトンネル内部にかけて数十台の車とトラックが追突してひとかたまりにかたまるようにぶつかっていた。

その手前に数十台の消防車と救急車の車列ができており、消防士や救急隊員達は総出で車やトラックから負傷者を運び出している。

隊長らしい消防士が部下達に指示を出し、忙しくレスキュー隊員達が立ち働いている。

そこにフワフワ炎が飛んできた。

「なんだあれは?炎がやってくる」

負傷者の一人が指をさした。

消防士達が振り向いた。

どこからともなく炎の玉が道路にやってくる。ここは山の中で火災はどこにもなく熱源や火元もない。それは複数やってくる。

救急隊員達がどよめいた。

 火の玉は一ヶ所に集まり合体を繰り返して大きくなっていく。赤い稲妻をともなった球体が出現してそばにあった何台かの車がらせん状に捻じ曲がる。

 逃げ出す負傷者達。

 隊長が合図した。

 レスキュー隊員や消防士達があとずさる。

 飛び出す何頭かの炎の馬。大きさも厩舎にいる馬と同じ位だ。その馬はバイクを後ろ足で蹴り飛ばす。トンネルの壁にぶつかり地面に落ちた。

 続いて火トカゲが数百匹飛び出し、火の玉も数百個飛び出す。

 「伏せろ!!」

 どこかで声が響いて消防士達は身を伏せる。

 閃光とともに衝撃波が広がりそこにいた火の玉と火トカゲが一瞬にして凍った。魔物達は地面に落ちて砕け散った。

 「あれは?」

 レスキュー隊員の一人が叫ぶ。

 その指さした砲口に六人の消防士と二人の海上保安官とTフォース隊員が立っていた。

 「火災調査団スクワッドだ」

 消防士が声を上げる。

 消防士達がどよめいた。

 「ここにいる消防士達に告ぐ。今すぐここから三キロ以上退避だ」

 高浜は背中に挿していた二本の日本刀を抜いた。

 五十里は斧を抜いた。

 下司は二丁の銃を抜いた。

 貝原は片腕を機関砲に変えた。

 柴田と柳楽、時雨は救助服を脱いだ。三人は弓道で使うような胸当てを装着する。

 芥川は作業服を脱ぐとくだんの胸当てを装着して、オルビスとリンガムは片腕をバルカン砲に変えた。

 消防士達は負傷者達を抱えて現場から離れ始めた。

 「ブッシュファイアが一〇匹」

 時雨は脅威度の順に送信する。

 炎の馬が走り出す。

 呪文を日本刀に封じ込める高浜と五十里。

 高浜は炎の馬の蹴りをかわしてなぎ払う。首をえぐられた炎の馬はよろけ凍った。

 噛み付いてきた炎の馬をかわし五十里は腹部をえぐる。

 よろける炎の馬。するとたちまち凍りつく。

 芥川は炎の馬の頭部を撃っていく。白色の光線が命中する何匹かの炎の馬は凍った。

下司は銃を撃つ。凍った炎の馬は次々と砕けていった。トンネルの奥から暗褐色の肌に顔はのっぺらぼう。体中にフジツボをつけた者達がやってくる。数は一〇〇を越えている。

一体だけ信号機のような赤ランプが顔にくっついた者が部下たちに指示を出す。

「あれが人間もどき」

高浜がつぶやく。

資料で見た事がある。南シナ海に沿岸警備隊チームが派遣された時に現われた者達だ。時空の亀裂とともに出現する。

柴田の両方の拳や足に水がまとわりつく。

柳楽の拳や足にも黒色の球体がいくつもまとわりついた。

人間もどき達がライフル銃を出した。

銃弾の間隙をつくように柴田、柳楽、時雨、芥川、オルビス、リンガムは駆け抜けた。

横に飛び退きかわす高浜、下司、五十里。

柴田の飛び蹴り。鋭い刃の水が何人かの人間もどきを切り裂き、かかと落としで真っ二つにした。

柳楽は飛びけりからのブレイクダンスをするように回りながら蹴り飛ばす。人間もどき達は蹴られトンネルや地面に重力でめりこむ。

高浜は地面を蹴り壁を蹴り体操選手のように舞いながら袈裟懸けに切っていく。

両腕を剣に変える時雨。剣が青色に輝き、宙を舞うように斬っていく。

オルビス、リンガム、芥川は近づいてくる人間もどき達を撃っていく。

貝原は砲身から音波をなぎ払うように放射。

何人かの人間もどき達は頭部が破裂する。 

下司はサブマシンガンを連射。

五十里は斧で頭部をかち割っていく。

高浜は着地して振り向いた。

足元に人間もどきの残骸が転がっていた。

「時雨。砲台に変形」

オルビスが指示を出す。

時雨はうなづき青色の蛍光に包まれ八輪の装甲タイヤがある砲台が現われた。

高浜、五十里、貝原が驚きの声をあげる。

リンガムはケーブルを挿し込みシンクロさせる。黄金色の光線が砲口から発射される。稲妻を伴った時空の亀裂に命中する。

高浜、柴田、オルビス、芥川、柳楽、貝原、

五十里、下司は置いてあった消防車に乗り込むとトンネル内部に突入した。

 多数の人間もどきがライフル銃を手に走ってくる。一つ目の隊長らしい人間もどきも何体かいた。

 「強行突破だ!!」

 高浜は叫んだ。

 五十里はアクセルを踏んだ。

 スピードを上げて人間もどき達をはねながら進んだ。

 下司は助手席から身を乗り出しショットガンを撃つ。

 高浜は車体に飛びつく人間もどきを日本刀で払いのけていく。

 音波砲を連射する貝原。

 柴田達は片腕の砲身から青色の光線を放射。

 青色の光線が人間もどき達をなぎ払った。

 トンネルの中腹まで進んだ。

 すると正面に屋外給湯器やタンクのような物を建設する一団が見えた。建設しているのは岩状の外骨格に覆われたエイリアンである。

 「ガロア人の工兵だ。テレポート装置だ」

 オルビスが指摘する。

 「そのまま突っ込め!!さっきの光線を発射」

 高浜は叫んだ。

 柴田と柳楽、芥川、オルビスは片腕を砲身に変えて極太の光線を発射。青色の光線は装置もろとも貫通、爆発した。そしてガロア人工兵をはねて引いて通過した。

 しばらく行くと岩のドームが見えた。

 消防車から降りる高浜達。

 振り向く八木と首筋にタトゥがある戦闘服姿の男女。カメレオン兵士である。

 岩ドームから露出する機械群。そこから赤い球体が出現している。

 「八木。カメレオンの手下になったね」

 柴田は声を低める。

 「僕は切り込み隊長としてここにいる」

 八木は兵士達に合図した。

 兵士達が飛びかかる。

 球体から火トカゲの群れが飛び出す。

 「ブリザド」

 五十里は呪文を唱えた。力ある言葉に応えて吹雪が群れを包み一瞬にして凍った。

 続いて飛び出す岩の玉。甘食を二つ合わせたような形で口を開けると牙がビッシリ生えている。見かけがゲームのパックマンみたいだから岩パックマンだ。

 下司はライフル銃で貝原はバルカン砲を連射して撃ち落していく。

 高浜は岩パックマンや火トカゲを斬りおとしていく。

 オルビスと芥川は兵士達の片腕のバルカン砲をかわしながら撃つ。

 柴田と柳楽は地面を蹴り、壁を蹴り、八木の赤い光線をかわす。

 柴田の飛び蹴り。

 柳楽の片腕の剣の突きを飛び退いてかわす八木。

 八木が動いた。その動きは二人に見えなかった。太刀筋が見えたかと思うと蹴りとパンチを受け壁にたたきつけられた。

 八木の片腕が砲身に変えるとリング状の光線でなぎ払った。

 壁を蹴り天井を蹴りかわす二人。

 瓦礫を蹴る八木。

 それを受け払う柳楽。

 柴田は八木の背中を片腕の剣で袈裟懸けに斬った。

 のけぞる八木。

 柳楽は胸を突き刺した。

 八木は柳楽の腕をつかみ、片腕の金属ドリルで胸を突き刺す。

 柴田は八木の腕を斬りおとし鋭い蹴りを入れた。

 「ぐふっ!!」

 柳楽は胸を押さえて片膝をついた。胸の穴から心臓が見え、とめどなく青い潤滑油が機械油と一緒に流れ落ちる。

 柴田は振り向きざまに八木の剣を片腕の剣で受け払った。

 八木と柴田の剣が交差する。

 「あんたを消してやる」

 柴田は剣を弾くともう片方の腕のバルカン砲を連射。

 八木はテレポートすると彼女の背後に現われ、剣を突き出す。

 柴田はとっさに上体をそらしてかわして膝蹴り。

 八木は壁にたたきつけられた。

 「・・・くっ」

 柴田はわき腹を押さえた。傷口が開き青い潤滑油が噴き出す。

 ドクドクッ!!

 心臓音が早鐘を打ち六角形の金属板が輝き始める。増幅装置のせいだろう。肩にショルダーパットが形成され、背中には背甲、胸から金属のウロコが生えて鎖帷子に変わる。耳は鉄の耳宛に変わる。

 柳楽の胸の穴もふさがり、金属鎧に全身を覆われ、腕が紫色に輝き、両目も青く光る。

 八木は両腕からリング状の光線を発射。

 柳楽は掌底を突き出した。

 光線は弾かれ捻じ曲がり赤い球体に命中。球体から飛び出した火トカゲの群れが吹き飛んだ。

 柴田の六角形の金属板が輝き、水色の淡い光を体全体から放つ。そして体全体が透けるように向こう側の壁が見えた。柴田の髪が逆立ち両目が青色に光を放つ。

 「あの姿は・・・」

 貝原が絶句した。

 「確か合同調査であの姿になったな。三神保安官も似たような姿になった」

 高浜は目を丸くした。

 五十里達も振り向いた。

 「あの状態は三次元に身を置きながら五次元にも存在できる。肉体を持ったままだから消耗も激しいから元に戻ったら死ぬ寸前になるかもしれない」

 オルビスがわりこむ。

 「あれが?」

 高浜は柳楽と柴田の方を見る。

 八木も赤色の光に包まれパンチを突き出した。リング状の光線も一緒に発射された。

 柳楽は掌底を突き出したままである。光線は赤い球体に捻じ曲がって命中。柳楽のパンチ。八木は天井に激突。そして奥深くの土の中にめりこんだ。

 柳楽と柴田が胸につけていた増幅装置にヒビが入り、地面に落ちた。

 柴田は両方の掌底を向けた。水がどこからともなく湧き出し時空の亀裂を包んだ。

 柳楽も掌底を時空の亀裂に向けた。たくさんの黒色の球体が出現して囲んだ。そしてガラスが割れるような音が聞こえて時空の亀裂が小さくなっていく。

 天井から降りてくる八木。

 オルビスと芥川は片腕の砲身から光線を発射。ドーム状の機械に命中。火柱が上がり爆発した。

 高浜達は身構えた。

 八木は舌打ちするとどこかへ消えていく。

 衝撃波とともに時空の亀裂が消えた。せつな元の姿に戻って崩れ落ちるように倒れる柳楽と柴田。

 「出入口の時空の亀裂は消した」

 駆けつける時雨とリンガム。

 「時雨。オルビス、芥川。あの二人にエネルギーを分けろ。心臓マッサージもだ」

 高浜は指示を出す。

 貝原は柳楽の胸に手を当てる。押すと深くへこみシワシワになる。金属の骨格は胸甲とサイバネティックスーツの下にある。心臓に刺激を与えるなら音波で振動を与えるしかない。自分は音を自在に操れる。

 「心臓が止まりそうだ」

 貝原は芥川を呼んだ。

 芥川とリンガムは背中から二対の金属の触手を出して柳楽の背中やわき腹に接続した。

 貝原はカウントしながら心臓を圧迫して人工呼吸をする。音波で振動を与え続ければ心臓は復活する。


 「心臓が動いてない」

 オルビスと時雨は二対の触手を出して柴田のわき腹や背中に差し込む。

 「彼女のバックアップ機能、補助心肺装置、予備電源装置破損。エネルギータンク、補助タンクは空です。体内機器全損」

 オルビスは報告する。

 高浜はカウントしながら胸を圧迫する。しかし驚くほど金属鎧は深くへこみ、手跡がついたまま戻らずシワシワになる。金属鎧から金属のウロコが落ちて皮鎧になる。十センチ位の厚みがあり押すと手跡がついたまま深いシワになる。

 「予備電源と補助心肺は使えないので僕とオルビスが迂回経路を造りエネルギー補給完了です」

 時雨は目を半眼にすると柴田の電子脳にアクセスして迂回経路を設定して作動させる。

 「代わる」

 五十里は人工呼吸をしてから胸を圧迫する。

 「金属骨格まで効果的に刺激が与えられない。人間の力だと無理だ」

 五十里は汗を拭いた。

 柴田の肩や胸を覆っていた鎖帷子が金属のウロコとなって地面に落ちた。

 「代わる」

 時雨が五十里と代わると両手が青く輝き、その手で衝撃波を送りながら押した。

 皮鎧が深くへこみ、金属骨格が軋んだ。

 時雨は精神を両手に集中する。青く輝く両手で連続で押した。衝撃波が内部に浸透していく。すると皮鎧が何かが這い回るかのように盛り上がるが軋み音はすぐに消える。彼はカウントしながら圧迫して人工呼吸をする。かすかに六角形の金属板が輝いたがすぐに光が消えた。

 「五十里。電気ショック」

 高浜が指示を出す。

 「サンダー」

 五十里は彼女の胸とわき腹に押さえながら呪文を唱える。稲妻による電気ショックに身をそらす柴田。

 「心拍がふれません」

 五十里が報告する。

 「もう一度」

 「サンダー」

 五十里は呪文を唱えた。黄金色の稲妻による電気ショックに柴田の皮鎧は激しく軋み、波打ち歪むが彼女は動かない。

 時雨はカウントしながら胸を圧迫する。金属骨格の不気味な軋み音が響き、何かが体内で這い回るからのように皮鎧や腕、足は激しく盛り上がる。

 「なんとしてでも助けるんだ!この二人が状況を打開する鍵になる」

 高浜は柳楽と柴田を見ながら指示を出した。



 ここはどこだろう?

 柴田はヨーロッパ風の町並みを歩いていた。

 自分はヨーロッパは行った事がなくハワイやグアムなら任務以外でもある。でもなんだか楽しい。

 でもなんで誰もいないのだろう?

 柴田はしばらく進むと草原に出た。

 「お姉ちゃん」

 柴田は聞いた事のある声ひ振り向く。

 そこに弟の祐樹がいた。

 「どっか遊びに行く?」

 柴田は声を弾ませる。

 「行かないよ。お姉ちゃんは地上へ行って。あいつらを追い出して」

 真剣な顔をになる祐樹。

 「やだ」

 きっぱり言う柴田。

 「だってせっかくここに来たし、楽しまないと損よ。それに滅亡してもいいんじゃない」

 柴田は他人事のように言う。

 「邪神クトゥルーが復活してしまう。復活すれば宇宙は滅びる。復活がなくても時空侵略者により滅亡する」

 声を低める祐樹。

 「ぐっ!!」

 焼きゴテで押し付けられるような痛みに身をよじる柴田。そして違和感。胸を引っかくと六角形の金属板があり、サイバネティックスーツに覆われ、コルセット型の皮鎧が軋みながら盛り上がる。

 「いやあぁぁ!!」

 柴田はのけぞり引っかきながら叫んだ。



 誰かが呼ぶ声がする・・・

 胸を圧迫し続けている。蘇生させようとしている。心臓は止まったままでいい。

 ・・・護れ・・・戦え・・・

 聞き覚えのある声が聞こえた。

 嫌・・・あの体。あの心臓・・・

 脳裏に機械と金属でできた心臓と地面に血がしたたり広がる映像が入ってくる。

 このままにして・・・嫌!!

 「生きろ!!」

 誰かの声が強く響いた。

 「お姉ちゃんには仲間がいるし・・居場所もあるよ。幻の僕達と一緒にいなくていい」

 どこかで祐樹の声がした。

 「祐樹・・・」

 柴田は目を開けた。

 しかし視界に入ってきたのは三神や高浜、翔太達だ。

 「よかったぁ」

 ホッとした顔の朝倉と三島と大浦。

 「ここは?」

 柴田は身を起こして胸を触る。皮鎧は元の厚さに戻っていた。

 「時空監視所の医務室だよ」

 高浜は答えた。

 「日本坂トンネルに現われた敵は制圧して追い出した」

 芥川が答えた。

 「八木は逃亡したけど二つの亀裂は閉じた。君のおかげだ」

 五十里は彼女の肩をたたく。

 「柳楽も起きているし、君も柳楽も十日間寝ていた。時々、心臓が止まりそうになるから目が離せなかった」

 アーランが口をはさむ。

 うつむく柴田。

 どうやら死にかけた自分や柳楽の命をみんなが繫いでくれたのだ。

 三神はTVをつけた。ニュースには片付け作業をする自衛隊と消防士や警官の姿が見えた。道路工事の車両が多数止まっている。

 翔太と椎野は柴田に飛びつく。

 「みんな・・・」

 涙をふく柴田。

 それに暖かい。心音を感じる。人間だった頃の懐かしい物がそこにある。スーツのセンサーを通して心音や体温を感じる。

 身近にそこにあったのだ。探さなくていい。

 「君の力は我々には必要だ。柳楽よりも少し君の方が強い。これからも頼む」

 高浜は手を差しのべた。

 「了解・・・隊長」

 柴田はうなづき握手した。

 

 

 

 

 

 

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