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 西谷君とは入学からずっと同じクラスだった。なんとなく距離が近くて、引っ込み思案の私によく声をかけてくれた。代筆屋さんと周囲の子は言うけれど、西谷君は変わらず『大原』と呼んでくれるのが、妙に嬉しい。


 彼は文芸部の私を引っ張りだして、自分が所属するバスケ部のマネージャーになるよう依頼してきた。私は運動音痴でバスケットボールのルールもよく知らなかったのに。


 ただ彼のシュートはまるで魔法のようで、ゴールのリングに通った瞬間は何故か、柄にもなく全身全霊で拍手と「おっし!」とガッツポーズをするものだから、自分って人間って分からない。

 

 ──大原がマネージャーになってくれたから、俺も大原のマネージャーになる。


 西谷君がそんな事を言い出したのは、一年の夏だったと思う。文芸部でもそろそろ学園祭に向けて部誌の発行を考える、という時期だった。私は目を丸くした。私、文芸部よ?


 ──文芸部のマネージャー、俺するよ。


 な、何をするの?


 ──変なやつがいたら、ぶん殴ってやるけど?


 いや、いいから。私、喧嘩とかしないし、したくないし。西谷君にさせたくないし。


 ──なんか手伝う。


 それなら、部誌の製本とか手伝ってもらえる? そう言ったら西谷君は嬉しそうに笑って、任せてくれと言ってくれたのが、妙に焼き付いて。変なの、と自分で思う。そんな西谷君の顔を見る。


 私の小学校からの悪友の(親友と言うと照れくさい)佳奈に代筆を頼まれたのが昨日。バスケをしている彼がカッコイイとか、さり気ない優しさが素敵とか、やる時はやるしイヤな顔しないし、というエピソードを聞かされて、うんうんと私は頷く。頷くのだが、言葉が通りすぎて、何故かペンを握る手に力が入らない。


 なんでだろう、と思う。佳奈の為にもしっかり気持ちを伝えないと、そう西谷君を見ながら私は決意で拳を固めた。


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