第13話 鬼4 佐藤

俺たち妖怪には進化ってえシステムがある。


俺は今でこそ「鬼」として生きてはいるが、ほんの数年前は「小鬼」だった。

ゲームとかでよくいるだろ?

ゴブリンって醜くて弱っちいあの小鬼だよ。


普通の小鬼ってのは臆病なんだ。

そう、群れなきゃ獲物も狩れない位に弱いからな。

でも窮鼠猫を噛むってことわざがあるように、時として追い詰められた小鬼がジャイアントキリングに成功する事があるんだわ。


俺の場合は少し違うんだがな…。



あの時は確か、食い物を求めて山に入って空腹に耐えかねてる時だったな。

何せ数日は満足に食ってなかったしな。

俺ら鬼は完全な実力社会だ。

食い物も女も強い奴から持っていって小鬼みたいなザコには何も残りゃしない。


だからそこらで自分のエサも探さないといけない。

強い連中は手伝ってはくれないし。

自分たちの食い物を手に入れてくる俺らの扱いってのは奴隷と変わらないんだよな。


それで、なんだっけ?

あぁ、山に入ってからの事だったな。


見つけちまったんだよ、死にかけてる高位妖怪を。

一体何と戦ったのかは知らないが、もうロクに動けないような体たらくだったよ。

中国あたりの妖怪で、確か名前は窮…なんとかだったか?忘れちまったよ。


あ?もう聞けねえよ。

分かるだろ?…あぁ、そうだった。小鬼じゃ頭も弱いんだったな…。

俺もこんなに頭悪かったのか…ショックだぜ。


…食ったんだよ。今でも骨くらいは残ってるかもな?

マズイ肉だったが内包する霊力は桁違いだったよ。

一口喰らっただけで、自分の力が変質していくのが分かるくらいにな。


アレの全てを喰らい尽くした俺は3日3晩その場でのたうち回ってたらしい。

まぁ仕方ない事だよ。なんせ存在が作り変えられるんだ。

ただの小鬼に過ぎない当時の俺はその場でアレの霊力に負けて死んでいてもおかしくはなかった。

運も良かったんだろうな。


目が覚めた時には世界が違って見えたぜぇ…。

今までは思考にモヤがかかってて、それを不自然にも思わなかったって気分だった。

俺はやったね、里に戻って力を試したんだ。

以前は途方もない化物としか思えなかった族長や幹部連中すら今の俺にとっては塵芥と変わらねえ。



控えめに言って最高の気分だったな。

旨い食い物を奪って、いい女も奪って、そして誰もそれに異を唱えられない。

最高だった。俺が鬼族の法律だ…まあ何事もやりすぎってのはあるんだ。


好き勝手出来て、自分が最強の存在になったつもりだったのさ。

俺が喰らったアレすらも本来なら、今の俺を苦もなく殺せるような化物なのにな。

弱ってたからこそ小鬼風情でも進化の糧に出来ただけだってのを忘れてたんだな。


驕り高ぶってた俺の前にその女は現れた。

この国でも最高位に近い妖怪だ。


そいつは金色の尻尾を9尾持ち、青白い面差しは怜悧にして無表情。

溢れ出る霊力だけでも俺を威圧するのに十分だった。


格が、存在の次元が違いすぎる。

思い知らされた…そのままボッコボコにされたよ。

あれは勝てない。

それこそ酒呑童子やら茨木童子でも喰らわなきゃ手も足も出ねえよあんなの。


まあそれで、ある契約を結ばされたんだが…。


その話はまた後でだな…お前らはこれから進化するんだが。

しばらくは苦しいぞ?

面倒は見てやるよ…その代わり、分かってるな?

あぁそうさ。俺の舎弟として従ってもらうぜ。



なあに、心配すんな。

相手はただの人間だし、せいぜいが力の薄まった雪女だけだ。

でも雪女は俺の女にするんだから、手を出すなよ?


人間の方は好きにしな。

お前らに勝てないようならそんなヤツは興味も持てんからな。




待っていろよ守…もうすぐだ。

もうすぐお前から何もかもを奪ってやるぜ…。

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