第2話

皆は「アルビノ」と言うに言葉を知っているだろうか?


先天性色素欠乏症というのが一般に知られている呼称かと思う。



動物界でも稀に現れるんだけど・・・ホワイトタイガーとかホワイトライオンとか白蛇とか、ああいうのが所謂アルビノだ。


人間だと肌はうっすらと赤みを帯びた白い肌に瞳は・・・あれ、赤く見えるな。


光をキラキラと輝く銀髪(白髪なのかな?)は肩くらいでバッサリと切り揃えてある。



僕が何を言っているかと言えば、教壇の隣に佇む彼女の外見の事を言っている。


白磁のような肌とダークブラウンのブレザーで構成されるコントラストが見るもの全てを、スカートとニーソックスで構成される絶対領域が一部の男子(ごく一部の女子も)色んなフェチ共の視線を魅了するかのような。


そんな彼女。


自己紹介はたった一言だけ



笠置 律かさぎ りつ・・・よろしく」


とだけ言った。


大抵のことは自分に無関係と割り切っている僕すら思わず見惚れてしまった。



そして彼女は静ちゃんに促されて、僕の隣の空席に座り。


ポツリと呟いた。





「少しは期待できそうね・・・」



                ∽




さて、転校生が来たとなれば行われるのは質問攻めと古今東西の相場は決まっている。


もちろん彼女もその洗礼を受けるのは自然の摂理。


最初はその珍しい外見からあまり近寄って来なかった連中も、勇者達の捨て身な質問攻勢に押されてワラワラと集まってくるようになった。


殊にここは田舎である。

元来田舎者とは排他的であるのが一般のイメージなんだろうが、この真室川は違う。



一度懐に入ってしまえば集落一つ皆家族!みたいな土地柄なのだ。

むしろ要らないお節介ですら喜々として焼こうとする事もしばしば。


笠置さんも次々に懐いてくるクラスメイトに辟易し始めているようだ。



そんな顔も可愛らしいな・・・等と思ってしまう辺り、僕も末期なのかも知れない。

会って1時間程度で我ながらチョロイなとは思うからツッコまないで欲しい。


思春期の男子なんてこんなモンでしょ?



そんなこんなでつまらない授業も終わり、各々が部活なり帰宅なりに取り掛かり、僕も帰ろうとしていると笠置さんが僕を凝視しているのが視界の端に映った。


自然と僕も彼女を見ることになり、僕らは暫し視線を交わす。



体感では1分、実際には数秒であろう見つめ合いの後、唐突に彼女はこう宣った。


「ちょっとアナタの家にお邪魔していいかしら?」


「ふぇ?」



みなまで言うな、分かってる。


でも誰だってこんな事を突然言われたらマヌケな声が出ようというもの。


今日、初めて会って、ほんの一言二言の会話しかしていない美少女にアナタの家に行きたいの!(意訳)と言われたら仕方ないでしょ!?


と、とにかく返事を・・・。


「早く行きましょう?」


笠置さんってば強引なんだよ!返事も待ってくれず、既に教室の入り口に移動している。


「笠置さん?ちょっと待ってよ。何で僕の家に来たいとか・・・」


「女の私にそれを、ここで言わせるつもりなの?」


一体どんな理由なんですか笠置さん・・・。



幸いというか何と言うか、クラスメイト達は既に全員が教室を出ており、このやりとりを目撃している人は居なかった。


もし居たとしたら僕は、明日の放課後を待たずして男子連中に吊るし上げられる事は確定的だっただろう。


美少女との下校。

しかも行き先は僕の家。


僕でも嫉妬しちゃうね。間違いなく。


仕方がないので僕は笠置さんの隣にまで小走りで行き、並んで歩きだす。



何か話そうとは思うのだが、共通の話題はほとんどないし彼女のプライベートな事も全く知らない。


かと言って自分語りなんてしてウザイとは思われたくない。


結果、何も話せない。

・・・年齢=彼女居ない歴の童貞のコミュレベルの低さを舐めるなと言いたい。


そう心のなかで自虐していると、ありがたい事に笠置さんから話題を振ってきてくれた。


「私みたいな変わった外見の女と下校するのはイヤ?」

「そんなことはないし、メチャクチャ可愛いと思う」


若干食い気味に彼女のセリフに返答してしまったが、可愛いとか面と向かって言っちゃったよ・・・。


「そ、そう。なら良いわ、うん」


白い肌を少し紅潮させながら小さく、彼女はそう言った。

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