彼女と二人の妖怪暮らし
水無月
第1話
山形県
ここは何もない没個性な町である。
けなしているのではなく、本当に何もないのだ。
374.22平方キロメートルという、割りと大きな面積に人口は9000人に満たない。
まさに田舎と言うに相応しい土地。
観光名所のようなものは特に見当たらず、交通の便も悪い。
ちなみに筆者はこの土地の産であり、結構気に入っている。
故に、けなしてはいない。
事実を述べている。
とまあ、こんなメタな話はどうでもよろしいのだ。
何が言いたいのかというと、このお話はこの田舎町で起こる不思議な事がもうすぐそこまで来ているという事なのである。
∽
真室川町立 真室川中学校。
全校生徒を合計しても大体の人数は350人程度だろうか?
一学年でおよそ120人前後だからそう大きくは外していないだろう。
特徴のない町で生まれ育った僕は、やはり特徴のない制服に身を包んで学校へ向かっている。
真室川駅の通りを背中に徒歩で向かえば、結構な坂道があり左手にラーメン屋の「大吉」が見えてくる。
当然こんな時間にお店が開店している訳もなく、素通りしかできない。
・・・お腹すいたな。
育ち盛りの僕にはラーメン屋の雰囲気だけでも毒だ。
もう少し早く起きれていれば朝食にありつけていたのに!
全てテストが悪い。
その対策で勉強を頑張った挙句のこの状態なのだから少しは文句を言っても構うまい。
そう、今日はテストである。
これが好きな生徒は一人として存在しないと断言できる忌まわしいイベントだ。
正直言って自信が無い。
とは言え出来る対策は全て行ったし、もう今からでは復習も出来ない。
時間は・・・ってもう8時になる!?
僕は必死になって走り、教室に着いたのは予鈴ギリギリだった。
既に殆どのクラスメイト達は着席して思い思いに動いている。
あれ、全員いるように見える。
・・・じゃあこの空席は何だ?
そんな今考えなくても誰も困らない事を考えていると、教室に担任が入ってきた。
数学担当の早川 静(29)愛称「静ちゃん」 独身である。
濡羽色のロングヘアを腰の辺りでリボンで止めており、出る所は出てくびれるべき所はくびれている見事な体型に小さくて整った顔立ちの美人さんだ。
口調はおっとりのんびりした癒やしボイスを備えており、当然ながら男子生徒からの人気は高い。
恐るべきことに告白したヤツもいるとか居ないとか・・・。
神の眼(笑)を持つ、同級生がとある3種類の数字を呟いてたがその数字の信頼性を知りたいものだ。
童顔なのがコンプレックスとは本人の談だが、そこが良いのではないかと数人の男子は言っていた。
最も、所詮は担任教師なので僕には全くと言っても過言ではない程に関係がない。
冷たいように聞こえるかも知れない。
実際のところ他人であるし、平々凡々とした年下男子(文字通り子供だし)が相手にされる可能性は限りなく0であろう。
綺麗なバラには棘がある、との格言もある事だし君子は危ういことはしないのである。
臆病なだけとも言えるけど。
僕がこんな事を考えているとも知らずに
「今日から、このクラスに転校生さんが来ます~。月並だけど仲良くしなさいね~」
ざわめく教室、そうなると分かっていたような静ちゃん、そしてやはり冷静な僕。
普通なら皆のように盛り上がれるのだろうが、あいにくと僕は現実を多少は知っているのだ。
転校生は男のパターン。
言うまでもなくどうでもよろしい。
仲良くなれるならそれに越したことはないが、別に無理してまで仲良くなる必要は無い。
次に転校生が女の子なパターン。
どうでも良くはないが、恐らく僕には特に関係のない話になるだろうと予測。
この傾向は彼女が可愛ければ可愛いほど顕著に顕れると思う。
だって僕だし。
静ちゃんがあののんびりした声色で静まるように注意すると、教室内は潮が引くように静まっていく。
やはりあの癒やしボイスは強力な力を持っているらしい。
「それじゃあ~、入ってきてください~」
その言葉を待っていたようで、転校生は扉を開け、ゆっくりと教壇の横まで移動してきた。
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