第116話女警官


「だから、助手には出来ないよ。」



警察署内の相談窓口で木村太郎は水上叶に言った。



「じゃあ、結婚してください。」


「僕ね、これでも既婚者だから…。」


太郎はオナラをしながら答えた。



「君、女子高生だよね。将来試験を受けて警察官になりな。」



「だから、わたしには持病があって時間がないんです。」



「うーん、じゃあ、行方不明の犬を探してよ。」



「わたしは、殺人事件を解決したいんです。」



叶の意志は硬い…。





自宅に戻った叶は自室に入って制服を脱いで全裸になった。



叶は、パソコンの前で指名手配犯の顔を見つめ爪を噛んだ。



わたしには時間がない。



叶は、胸の傷痕を触った。



木村太郎は叶にとってヒーローだった。



シャワーを浴びてステーキを食べた。



血は肉になる。



服を着て木刀を持ち夜の街に消えた。




「今日も来たの?叶さん。」



梓は夕食時に太郎に聞いてきた。



「うん…。正義感の塊だね。」



「でも、あなた嬉しそうね。」



「昔の自分を見てるようでね。」



梓と太郎は叶は娘のようなものだ。



「だからこそ、危険な目に合わせたくない?」



「あぁ…。」



「無理よ。女はこうと決めたら動かないわよ。」



「昔の俺なら捜査協力を頼んでたけどね。」



「木村太郎も、保守的になった?」



「うん…。」







「マジでバカな女だよな。一回やったら彼女気取りでやんの。」



繁華街で若者達が話している。



「それが人間らしさってものじゃない?」



「ああ?お、なかなかの美少女。お前も俺様に抱いて欲しいのか?」



「うん。」



と叶は言うと木刀で男のアソコを砕いた。



男は、声を上げて倒れた。



「てめー!」



他の男が叶を捕まえようとするが二人の男のアソコを砕いた。



男達は、地面を舐める事になった。


木村宅に夜中電話がかかってきた。



叶が補導されたのだ。



太郎は暗闇の中、車を走らせた。



交番には背筋をピンとした叶が待っていた。


「あぁ、木村さん…。」


叶は、夢から覚めたような顔になった。


帰りの車の中で叶は泣いていた。



二ヶ月前…。



「よう。春男ちゃん!」


「おう、太郎!現場復帰したのか?」



「まぁ、ずっと相談窓口にいるわけにもいかないからね。税金ドロボーって言われちゃうしね。」



事件現場は、閑静な住宅街だった。



春男に、聞いたところ一家が一晩で惨殺されたらしい。



長女は、胸を切りつけられて集中治療室にいるらしい。



父親、母親、息子は死んでいた。




「ひどい事件だよな。」



署に戻った仮眠室で春男は呟いた。



「あぁ…。」



「上の空だな。」


「生き残った少女には酷だよな。」



「確かに…。」



春男は、深いため息をついた。



病院から少女が助かったという報告を聞いていた。



「犯人…。たぶん、太郎、お前も分からないかもしれない。初犯で通り魔的殺人としてかたずけられるだろうな。指紋も一致する犯罪者もいない。」



「まずは…。意識を取り戻した少女に聞くしかないだろうな…犯人像は。」



今度は、太郎がため息をついた。


二ヶ月後。



「叶ちゃん。うちで預かったら?」



梓が朝食を取っている太郎に言った。



「そうだね。梓が良いならね。」



太郎は、車で水上家に向かった。



インターホンを押すと制服姿の叶がきょとんとした顔で出て来た。



「しばらくうちに泊まらないか?」



「良いんですか?」



「ああ。学校も近いしね。」



太郎は少し小さな声で答えた。


「もう二ヶ月か…。」



春男が仮眠室でオセロを太郎としている時に呟いた。



「何が?」 



「叶ちゃんの事件の事だよ。」



「ああ…。」 



そんなに経過したかと太郎は思っていた。



「相変わらずだな。木村太郎は。」



「春男ちゃんもね。」



「事件について何か分かったのかよ?」



「全然。」


「珍しいな…。お前にしては。」


「天才も衰えるさ。」


「自分で言うなよ!」



オセロは、真っ黒にした太郎の勝ちだった。



「叶ちゃん、預かってるんだろ?」



「ああ…。そうだよ。」



「あずあずも懐が深いな。」


「それはどうだろ?」


「何だよ意味深な、発言じゃないか。」



梅雨のジメジメした空気が仮眠室に風となって吹いてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る