第107話初恋

あれは可笑しい出会いだった。



木村太郎は合コンで漫画を読んでいた。



すごい集中力で。



二次会、三次会とカラオケに行っても歌も歌わなかった。



そこで北村香織が木村太郎に話しかけた。



「何の本読んでるの?」


太郎は、シカトした。



しかし、香織は続けて自分のプロフを話し始めた。



バツイチでOL、子供好き。



これだけだった。



自己アピールでもない太郎を気に入った様子でもない。



太郎の脳内で漫画から北村香織に書き替えられた。






「変な女。」



と太郎が呟くと



「あなたは超普通に見える。」



と香織は言った。



普通?初めて言われた言葉だった。



まぁ、どうでも良いや女なんて



「バカ」って言いたいんでしょう?



「ああ。良く気付いたね。」



「だってわたしもあなたの態度バカみたいだけど可愛いって思うもん。」









それから



何となく約束して



映画を一緒に観に行った。



実話で普通のカップルが出て来て女が癌になって死ぬ話だった。



太郎は、バカバカしいと思った。



香織もバカバカしいと思ったようだ。



「死ぬ恐怖はあんなもんじゃない。」


と少し得意気な顔をして言った。



「癌なの?」


「小児癌だった。」



「生きてて良かったね。」



それから悲劇の話が聞けたら少し同情してセックスぐらいしたかもしれない。




しかし、香織は仕事の話や実はニコチン中毒で



タバコがやめられないとかけ離れた事を話しては



自分自身の話をして爆笑するような女だった。



変?じゃない?バカじゃない?アホじゃない。



単純に天然なのだ。



しかも超超ミラクル天然なのだ。



良くOLが勤まるもんだと感じた。



そうこの女は思わせない【感じる】



がピッタリな女だった。



いちいち感じさせられる。



太郎は、香織の部屋に居候する事にした。



感じるを感じたいために。



香織は、あっそうと言った感じで承諾した。



タバコ臭いアパートだった。



香織は太郎が住み始めてから換気扇の下でタバコを吸うようになった。





香織は姉妹や親を大切にしていた。



太郎には一切家族とは連絡をとらないと決めていた。



警察官になった以上、昔の自分は捨てた。



そんな事を聞いてて香織は姉の結婚式に呼ばれていた。


ちなみに太郎も一緒に…。



母親は、俺に会って涙した。



父親は、フランクに「よ!」とあいさつしてくれた。


帰りはビールの飲みすぎで香織の運転する車で寝てしまった。



不思議なものである。



香織が現れて不思議と人が集まって来るようになった。



不器用な太郎には何も出来なかった。







そんな彼女が失踪した。



そして遺体となって発見された。



香織は眠るように死んでいた。



太郎は、気が狂ったように捜査をした。



上司とぶつかり部下ともぶつかり単独で捜査を始めたが後頭部を叩かれ病院に運ばれた。



かおちゃん…。




太郎は、香織を失ってから



仮眠室にいる事が多くなった。



春男が持ってくる事件を解決するだけの人間になった。



それから、梓と出会って結婚して香織のお墓参りに初めて行った。



香織は、笑顔で向かえてくれるだろう。

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