第102話木村太郎の過去


春男は、待ち合わせの時間より早く来た。



秘書に奥のお部屋でお待ちくださいと言われてちょこんと座っている。



「久しぶり!喜多島!」



応接室に昔の同期矢島練が現れた。



「久しぶりです。」



「何で敬語なんだよ、昔は木村と俺達でバカやった仲間じゃんかよ。」



「そうだね。」


「可愛い嫁さんもらったんだよな。羨ましいぜ。」


「矢島、結婚は?」


「別れたよ。」


「今は、キャバ嬢と付き合ってる。」



「ヤクザかホストみたいだな。で今回はどんな用件だ?」



「ズバリ、木村太郎の空白の時間が少しずつ分かってきてな。当時の聞き込みでかなり危ない橋渡ったな。あいつは…。」



「あの時はツンツン尖ってたからな。」



今さら何で公安が動くのか春男には分からなかった。




「あの時の木村は、暴力団三件、ヤクザ三件を荒れ回したらしい。」



「はぁ…。」



あいつはそういう事が可能だったなと春男は思った。



「暴力団の中では半殺しにされた人数が四十人だった。ヤクザは、五十人だった。」



矢島は、誇らしく思っているようだ。



「俺の先輩も木村を尾行して半殺しにされてる。」



容赦ないな…。









「公安は、これからも調査する。木村太郎は諸刃の剣だ。」



「おとがめなしか?」

  


「そうだが…。」



「それは、木村のためになるんだな?」



「分からない。アイツには辛い仕事だろ?」  



喜多島は、腕組みをして

  

「意外とタフなんで大丈夫だ。」


と言った。














太郎は、信頼していた人間を


久しぶりに訪ねていた。



インターホンを鳴らすと



「ぎゃあ!」 


と思わず男は叫んだ。



「そんなびっくりですか?」


顎が外れてしまったようだ。



オートロックをしばらくして



開けてくれた。


 




「平沢課長お久しぶりです。」

 

「もう課長じゃない。隠居の身だ。」



定年退職してから平沢は、そば、ろくろ、農業、全てやった。



妻にはあきれられている。



結果、東京を離れて神奈川県に来た。



今は、庭いじりに凝っている。



   

「課長、思ったより元気でなによりです。」

  


「心にもない事を…。」



熱いお茶を出してもらった。



「お前は、記憶は消えたままか?」



「ちょっと、ぼんやり夢で見るくらいですね。」



「お前が再婚するとはな。」



太郎は苦笑いを顔に浮かべた。  




「過去は過去だ。黒幕は俺だ…。」

  


「そうですか…。でも、課長は嘘をついてますね?」

  


「バレたか…。ちょっと悪ぶってみたかったんだ。」



太郎は笑い声を上げた。



「課長もジョークを覚えましたか…。」

 


病院の室内で…。



平沢は、あれから病気になり今は、精神を病んでいる。








  






課長という立場で部下の妻を死なせてしまった事。



なんだかんだで太郎に事件を丸投げしてしまった事。



俺が悪い俺が悪いと自分を追いつめて自殺を図ったが骨折しただけで忌々しい気持ちは消えなかった。



そうすると妻に殺してくれと懇願した。



重度のうつ病になって幻覚、幻聴が



が瞳を閉じると見えたり聞こえたりした。



妻に休んでと言われて処置入院した。



それから丸五年間入院している。

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