第78話悪鬼


「19歳で逃亡犯か…。」


春男は、ストーブの前を占領してこたつでみかんを食べながらアクビをしている太郎に言った。


「まぁ、すごいよね。」


太郎は気のない返事をした。


「別にお前が悪いわけじゃないだろ。」


「うーん、人間って分からないよね。あの子が考えてる事分からなかった。」


「そりゃあ、誰でもそうだろ。

「何となくオーラ的なものが見えるんだよね。あの子…は見えなかった。」


「お前、霊感とかあるんじゃね?大丈夫かよ?」


「春男ちゃん、緑ちゃんとケンカしたよね?」


「何で分かるんだよ?」


太郎は、オナラをしながら鼻をほじった。


「何でケンカしたの?」


「別に良いだろ!」


「どうせ、子供ばっかりで春男ちゃん放置されてるんだよね。」


「…。」




「うちは子供いないから分からないけどね。」


「お前、精子ないじゃないのか?」


「かもね。」


太郎は、鼻をかみながら言った。


「あずあずも、仕事してるし、犬もいるからね。春男ちゃん、犬でも飼ったら?」


「嫌だね、犬に癒しを求めるなんて。」





「犬はスゴいんだよ。いるだけで癒しが半端ないからね。綺麗な滝に打たれて血流が良くなる感じなんだ。」


「マジか?」


「マジだよ、ルナかレナどっちか貸そうか?」


「ちょっと考えてみる…。」


そこに野部が部屋に入って来た。


「木村さん、上がカンカンですよ!」


「上?」


「上層部ですよ。」


太郎は、何も気にとめないでこたつに隠れた。


「そんなん言われてもわしにはわからんわ。あの小娘がどこ行ったなんて。」


「何弁だよ!」


春男の頭の中では犬が遠吠えしていた。


「困ったな、困ったな、困ったな。」


「大丈夫だよ、たぶん、俺を殺しに来るから。」


太郎は、嘆いている野部に言った。


「上にはそう伝えて良いんですか?」


野部が真顔で聞いている。


「そんなん、ないわ。」


「だから下手な関西弁使うなよ。」


春男は、太郎に言った。


「流行なんだよ。可愛い女の子があかんがな、何て言ったら春男ちゃん失神するよ。」


「上に言っといてよ、バーカって。」


鼻をほじって太郎は言った。


「いやー、何とかすると伝えて来ます。」


野部が冷や汗をかいて言った。


「じゃあ、野部ちゃんが犯人捕まえて来てよ。寒いからさ。」


太郎はこたつの中に潜った。



「そんなぁ…。」


野部は真っ青な顔をしている。


「大丈夫だ。野部、太郎はやるときはやる男だ。」


と春男は、野部の肩を叩きながら言った。

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