第76話渇いた自白


死体を見続けている太郎に春男が報告した。


「今、お坊ちゃんがゲロッたってよ。」


「自白?早くない?」


春男も難しい顔をしている。


「物的証拠と自白がマッチしてれば正解だね。指紋も調べてくれる?」


「了解。」




春男のおかげで指紋はお坊ちゃんの指紋と一致した。


「これで解決だな。」


春男は、どや顔をしながら言った。


「そうかな?」


「ですよね?」


野部と太郎が疑問を持った。



「ちょっとさ本人と話せない?」


「何か分かったのか?」


「なんとなくぼんやりとね。」


春男に頼んでお坊ちゃんに会える事になった。


お坊ちゃんは、終始落ち着かないらしく貧乏揺すりをしている。


「ずばりさぁ、今回の事件に関わってるけど殺したのは君じゃあないよね?」


太郎は、お坊ちゃんに聞いた。


わずかな表情の変化を野部は、見逃さなかった。



「ここにハムがあるから切ってみて。」


と太郎はお坊ちゃんにナイフとハムを渡した。


お坊ちゃんは、試行錯誤のうえに切った。


「うーん、やっぱり君じゃあないよね?こんな不器用じゃあ、死体をあんなに切れないもんね。」


「誰を庇っているんだ?」


野部は追い打ちをかけるように言った。



「誰も庇ってません。全部自分がやりました。」


野部がため息をついて言った。


「弟さんでしょう?」


頬がまたひきつった。


「弟さんも医学部だよね?」


今度は太郎が聞いた。


「はい…。」


「主犯は君じゃあないね。」


「はい…。弟です。」


「主犯は弟さんそして手伝ったのが君だよね?」


「はい。」








仮眠室に太郎と野部は帰って来てこたつに入った。


「決まりですね?」


「うーん、何か違和感があるんだよね。野部ちゃん、お坊ちゃんの家系図とか戸籍取って来てくれないかな?」


「分かりました。市役所行って来ます。」


太郎は、みかんを食べながらオナラをした。


「え?女の子もいるの?」


「はい、書いてあります。」


「彼女も…。」


「彼女も…何ですか?」


野部は、太郎の頭脳に付いていけない。


「彼女も医学部に入りたくて浪人中かな?」


「それが何か問題ですか?」


「しかも、警察官僚の娘。」




戸籍を見ながら太郎は、ため息を付いた。


「もしかすると俺は、勘違いしてたかもしれないね。」


「何がですか?」


野部には、さっぱり分からない。

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