第64話相談窓口


「あ、はい…良かったですね。」


木村太郎は、勝手に相談窓口なるものを作って老婆を相手に話を聞いていた。


「木村さん…。いくら暇だからって勝手に窓口はまずくないですか?」


木村梓は、アクビをしている太郎に言った。


「あれ?あずあず、何でここにいるの?」


「事件だからですよ。」


「殺人?」


「はい。」


木村太郎と結婚した梓は、何故か昇進して捜査一係に引き抜かれた。



「頑張ってね。」


太郎は、梓にそう言うと行列が出来ている窓口に戻った。


梓は、妻としても刑事としても太郎を尊敬しているが最近は凶悪事件に関わらなくなった。


結婚したから?それもあるだろう。


最近の事件は複雑怪奇で太郎の力を借りたいと上層部から梓に打診があるが太郎は、窓口で満足らしい。



捜査会議-


「片桐彰25歳。町外れの倉庫にて殺害。拷問を受けた後に絞殺されたとみられます。」


遺体の写真に梓は、目を反らした。


「事件が発覚したのは、木村太郎氏からの相談窓口からなるものです。」


「え…。」


「被害者片桐彰の母親からの相談です。片桐彰は定職につかず昼間はふらふらとしているが必ず夕食の時間には帰って来たようです。


そこに電話がかかってきて、内容は

俺だよ俺と言っていたのでオレオレ詐欺だと思い母親は無言で電話を切りました。


しかし、夕食になっても帰って来ない片桐彰を心配して母親が相談窓口に来たようです。」




捜査会議が終わり梓は、太郎の元に行った。


しかし、行列に並ぶ羽目になった。


「どんなご相談ですか?」


太郎は、スマホでゲームをしながら梓に問いかけた。


「最近、夫がスマホのゲームばっかりして仕事をしないんです。」


「うーん、そうですか、スマホに僕もハマってるからな…。」


「じゃあ、今から主人に電話してみます。説教してください。」


太郎は、目を細めてゲームに夢中である。


「良いですよ。」


梓は、太郎のスマホに電話をした。


「あ、あずあずだ。今晩のご飯はの相談かな。ちょっとすいませんね。」





「あずあずどうしたの?」


「緑の紙。市役所から取ってこようかな?」


「またー、最近二言目には離婚なんて冗談言うんだから。」


「目の前を見て。」


「あ…。あずあず。」


太郎は目が丸くなった。


「事件の話し聞いてないんだけど。」


「あーそれね。」


「離婚されたくなかったら捜査協力してね。」





俺、片桐彰…。


このまま死ぬのかな?


爪も剥がされて体中バラバラにされた感じだ。


母さん…心配してるかな?


目の前で笑っている奴等に罪悪なんてない。


ずっとそうだった。


人形の手足を折るのと変わらない気分で、俺を壊していく。


未来へと続く夢だけが心残りだ…。


「やっぱり…。死んじゃったのか。」


夕食を食べている時に不意に太郎が呟いた。


「犯人像って分かる?」


梓が箸を止めて聞いた。


「うーん、顔見知りかな。」


「何でそう思うの?」


「勘かな。」


箸を止めないで太郎は言った。



「最近さ、自分の警察官としての無力を感じるよ。」


「どうしたの?」


今度は、太郎が箸を止めて深い溜め息をついた。


「ストーカー、育児放棄、借金、いじめ。これにたいして警察官は入り込めないんだな。」


「まぁ、基本的に被害者になったら警察官だもんね。」


「ずっと、凶悪犯ばかり追いかけてきたけど、これからは、起きる前の事件を救い上げたい。」


太郎は、珍しく真剣に話している。



「被害者ってさ、本当は必要なのかもしれない…。事件があって法律が出来る。でも、俺は、憎しみや苦悩をこの世からなくしたいと思う。」


「珍しいね、太郎ちゃんが正論言うの。」


「歳を感じるよ。ルナとレナも高齢犬だからね。」


「でも、太郎ちゃんは相談窓口にいるのわたしは五分五分だな。そんなおセンチな事言ってたら刑事やってられないでしょう?」


「確かに、春男ちゃんに笑われるね。」

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