第30話 民間クラブチーム設立準備

 私たち3人はお店に戻ると、マスターに事情を問いただした。するとマスターは、


「あれ? 知らなかったのか? まあ俺も詳しいことはよくわかんねーんだが」


 だってさ。そりゃそうだよね。私も法律とかよくわかんないもの。


「じゃあ、マスターが社長ってことで、会社にしますか?」

「誰がそんなめんどくせーことするか! お前らが勝手にやれ! で俺を雇え!」


 と言われてしまいました。なんだよそれ……。


 私たちは再び計画を練り直し、会社組織としての事業計画書を作ることにしたの。めんどくさいことはめんどくさいけれど、見えるところから手を付けていかなきゃ、ってことで、とりあえずマスターからこれまでの補助金の用途について教えてもらったんだけど、これがまためちゃくちゃだった。やっぱり補助金の大半がこの店を作ることに使われてた。マスターあんた、本気で酒場のおやじをやりたかったんだね……


 まあでも今となってはお店も黒字化してるし、使途不明金もなかったし、選手たちの給与も試合の遠征費も無理なく支払われているから、このままでも今年一年は何とかやっていけそう。私が来るまでは大赤字だったけどな(笑)。


 とりあえず私たち3人娘で話し合い、新しい民間クラブチームの組織を作るための運営案を作る。社長はマオ。副社長にナオ。私は常務取締役。マスターはそんな肩書きいらないって言ってたから雇われマネージャーのまま。というかマスターのまま。まあ役員になったところで、当面は役員報酬なんか出そうにないんだけどね。


 で、今年の計画としては、我々3人は自分たちで今のお店の仕事やチームのサポートをしながら組織の売り上げとチームの順位を上げていくことを目標に頑張ることになりました。え? 業務が具体的じゃないって? やれることは全部やるのよ! 全部!


 本当はティモニーズの活動費も予算に組み入れないといけないんだけど、そうすると年間で赤字が出そうなの。だからこれについてはもう一度国に補助金の追加申請をすることにした。でもそう考えると、チームの人数が増えれば遠征費用もかさむし、計算しないといけないこともたくさんあるわね。


 で、待望の傭兵の採用についてですが、人件費を今後の営業努力でなんとかする、ということで、コロシアムのお店のテナント料と、スポンサーの広告費用、それとサポーターからの寄付金をあてることにして、控えめに3人程度の増員を予定したの。


 そういえば、来年の選手の査定のためにうちの選手のスタッツをまとめておかないとな。あー、そういった選手との交渉も私がやるのか……。かなり気が重いな。


 そんな内容を事業計画書(案)にまとめ、マスターに見せると、彼は表紙だけ見て


「ん、いいんじゃねーか?」


 の一言で終わらせてしまった。少しは見てよ……。


 そのまま役所に持ち込んで申請したところ、国の承認まで約1週間かかるらしい。補助金で酒場作ったって書いちゃったら絶対承認されないと思ったから、お店のことは「選手用食堂件事務所」って書いてごまかしたんだけどね。


 ただ、このホークルの担当者さんの口ぶりでは、ティモニーズに関わる追加支援は難しそうだった。それも含めて当初の予算だったって話なんだけど、どうせ国だってチアリーダーのことは想定してなかっただろうし、何とかしてくれないかなぁ? ちなみにこの担当者さん、既婚の方でした(笑)。



 めんどくさい話はこれくらいにしてチーム情報と次戦の展望について言っておかないとね。現在我々BBは5勝1敗で依然1位ですが、4勝2敗で3チームが追いかけてきています。シックスティナイナーズが2敗目を喫したけど、相手は私たちが敗れたクラウゼヴィッツだった。やはりあのマネージャー、只者じゃなかったみたい。


 我々の次の対戦相手は、ティキタカ連邦のキャッツ&ドッグス(C&D)で、今のところ3勝3敗の5位につけているの。攻撃も守備もラインが固くて堅実な攻めを狙ってくるのが特徴。


 元々ティキタカ連邦が軍国主義国家なだけあって、軍人で構成された選手には、ドワーフとリザードマンとトロールを中心とした質実剛健なタイプが多い。というか人数自体が多い。試合当日にベンチ入りできる人数は50人までなんだけど、チーム所属の選手が100人を超えてて、当日まで誰がベンチ入りしてくるかわからないのよ。スカウティング的には非常にやっかいというか……。


 ただ実際はこれまでの試合ではベンチ入りメンバーはほぼ固定されているようで、その50人を試合中にローテーションさせてくるみたい。それでもうちに比べれば十分多いけどさ。戦術的には攻撃はドワーフのラン一辺倒でとにかくパワーで押してくる感じ。これまでの戦績で上位チームには負けていて下位チームには勝っているところを分析してみると、番狂わせが少ない理由というか、選手の能力だけがそのまま成績に反映されている気がする。あまり組織的なチームには思えないのよね……。


 マネージャーもいかにも脳筋タイプの軍人あがりの人で、フィジカルで押す作戦が好きな人みたい。というかここのマネージャー、トロールなんだね……。


 本音を言うと、私はトロールに苦手意識がある。生理的に受け付けないというか。言っちゃいけないとは思うけど、彼らでかくて横暴で怖いの。じゃあリザードマンや巨人たちはどうなの? って言われると自分でもどう違うのかよくわかんないんだけど。あくまで私のイメージなだけで……。


 それはさておき、相手の過去の試合をチェックしてみると、パスの指示が出たときは決まって俊足のWRが交代で入っていた。なんだそれ? バレバレじゃないのよ。もちろん私たちの時も同じ作戦を取ってくるかどうかはわからないけどさ。


 いずれにせよ、トミーは攻撃だけの起用で良さそうね。あいつのタックルなんて、体の強い相手選手たちには全く歯が立たなさそうだし。問題はこっちの攻撃が通用するかどうか。相手守備の隙をいかに突くかだけど、相手は毎回ディフェンシブラインを4人並べて来るし、そこを体格の良いトロール8人が交互に起用されるようだから、中央突破は難しそう。ならば側面から、ってことになるけど、そこは守備範囲の広いリザードマンのCコーナーBバックが固めている。


 とにかくこちらのラインメンバーをできるだけ消耗させないように戦う必要があるわね。だけどこういった相手の場合、私がチームに帯同する必要ってあるのかしら? 作戦とかサインの読みあいとかあんまり関係なさそうな気がするんですが……。


 マスターに確認にいくと、私も連れて行くと言われた。「なんでも経験」だって。というかマスター私に将来何をやらせようとしているのかしら?


 少なくとも現時点の私のキャリアは「ウェイトレス⇒料理長⇒店長代理⇒スポーツチームディレクター⇒スポーツクラブ取締役(予定)」というかその多くを今も兼任しているのだけど、短期間にこれだけ担当業務が変わってしまうと今後履歴書とか書けなくなっちゃう。すでに私は他に行けない体にされてしまったみたい。マスター責任とってよねっ!(言ってみただけ)

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