第23話 チームの進化の過程

 翌日、私が調べた相手チームの情報をみんなに渡すと、なぜか反応が薄い。気になってトミーに理由を聞いてびっくりした。


「だってみんな、昨日のうちに一通り見終わってるからな。もちろん俺もだけど」


 なんだよそれー!! 私の仕事がなくなるじゃんかー!! って一瞬思ったけど、これって実は凄いことで、モヒカン集団たちがみんな率先して相手の情報を調査してるってことなの。なんかジーンときた。みんな脳筋じゃなかったのね……。


 というか、それだけあの敗戦が悔しかったってことなんだろうけど、みんな勝つために一丸になってる。そして、チームとして進化し続けている。私も頑張ってみんなに追いつかなければ!


 あ、そういえば厨房の増築は完成したみたいで、マオもナオも喜んでた。テーブルも予定通りの数できていたし、忙しい中手伝ってくれたセンターくんとベンちゃんに感謝だわ。実はベンちゃん、あの試合でのファンブルがめちゃくちゃ悔しかったらしくて、あれから一人、黙々とテーブルを作り続けていたらしい。なんかかわいい。



 おっと相手チームの情報だったわね。次回の相手、グラッチェ・ダークダックスは現在のところ2勝3敗で、ここも監督が変わったばかりなの。新しい監督はこれまたマスターの世界から来たキーンさんって方で、マスターもよく知っている人らしい。っていうか、最近よく来るわよね。みなさん、あちらの世界によっぽど不満があるのかしら? それともこっちのほうが待遇がいいの?


「ねえマスター、思ったんですけど、マスターの世界から選手を連れてくることってできないんですか?」

「俺ができるわけねえだろ! できてたらとっくにやっとるわ!」


「それもそうですね」

「で、レポートはどうした? 俺には見せちゃくれんのか?」


 ああ、そうでした。選手は自分で見てるけどマスターには私が渡さなくっちゃね。


 ダークダックスは守備陣にリザードマンが多いチームで、序盤から相手のオフェンシブラインの体力を削ってくる、フィジカル重視のチームね。攻撃ではWRの俊足ドワーフ、ロナルドが脅威。QBの技量は大したことがないみたいだけど、プレッシャーをかけつつタイミングを見計らって勝負に出てくる攻撃がいやらしいです。


「なるほどな。で、対策は?」

「これは私の推測ですが、相手QBも態度がわかりやすい気がします」


「じゃあ、ランかパスか、事前にわかるか?」

「確証はありませんが、なんとなく」


「よし、やってみよう。カルナックとサインを打ち合わせておけ。相手のロナルドのくせは?」

「それなりにありますが、すでにティポーがチェックして把握しているみたいです」


 マスターの質問に自分が思ったままの答えを返す。これで役に立てているのかどうかはわからないけれど、チームの責任の一端を担うと考えると、ちょっと怖いわね。私なんかがこんな仕事やっていて大丈夫なのかしら?


 でもね、マスターって本当にチームのことをよく見てて、先の事も考えているの。選手たちのくせについても、実は前から気になっていたらしいのね。だから、


「なんで気がついたときにすぐに言ってあげなかったんですか?」


 って聞いたら、


「勝っているときに言ってもほとんどの奴は聞きゃしねーからな。伝えるには負けた今のタイミングが一番なんだよ」


 だってさ。確かにそうだわ~。



 翌日、私とマオとナオは午後に久しぶりの休暇をもらい、街に繰り出した。ショッピングを済ませ、前回入ったお店に来てみると、なんと店内にノーブラのステッカーや選手たちのサインが置いてある。ウェイトレスさんも私たちのことを覚えてくれてたらしくて、


「先日はどうもありがとうございました」


 って挨拶されちゃった。


 あれからうちの選手たちもこのお店にたまに来ているみたいで、誤解の解けた今はお店のスタッフも、ここの常連さんもノーブラのファンになってくれてるそうなの。私たちもエールを一杯ずつ、サービスしてもらっちゃった!


「あ、そうだ! うちのチームのレプリカユニフォームとか、ここに置かせてもらえませんか?」


 マオが突然切り出した。ウェイトレスさんが店長さんを呼び、マオとミオが事情を説明すると、彼は大いに乗り気で、あっという間に商談がまとまった。


「やっぱりジョンモンタナ選手が一番人気ですね。ババンガバンバンギダ選手にも期待していますよ」


 店長にそう言ってもらえたのがとても嬉しかった。


 で、そのまま料理をおいしくいただいていると


「ところでミオ、トミーくんのこと、どうするのよ?」


 ナオに聞かれた。


「どうするも何も、私の対象外だってば。本人にも伝えたし」

「だけど、全然あきらめてないみたいよ?」


 うーん……。


「マオとナオでなぐさめてあげてよ」

「むりむり。あんたじゃなきゃダメみたいよ、あの子」


 マオにダメだしされた。やはり勇者は勇者なのか……。


「あの子、私のどこがいいんだろうね?」


「そりゃー全部じゃなーい?」

「ぞっこんよ。完全に。あれは病気ね」

 

 マオとナオに冷やかされる。というかこの二人はなんであいつの事をそんなに理解してるんだ?


「だって、どれだけアプローチしても、あの子、あんたの事しか見てないんだもん」

「本当に失礼よねー? マオなんて私がびっくりするくらいモーションかけてたのに」


 な、なんか申し訳ないです……。


「だからミオもさ、早いとこ腹くくったほうがいいよー」

「いやいや、無責任なこと言わないでよ。私は仕事に生きてますから!」

「あら? 無責任なのはどっちかしら? あの子、本気で10万ヤード走る気よ」

「ぐっ……」


 その後はあいつがいかにバカでアホで勇者で情熱的で視野が狭くてかわいくて悪い女にもてあそばれているのか、ということを延々と二人に説教されました。はい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る