第19話 反省会

 翌日は練習がオフだったから、私はマオとナオと三人で昨日の反省会をしたのね。


「厨房がせまくて一度に料理の数をこなせないのがボトルネックだと思いまーす」

「人手が圧倒的に足りてません。テーブルも。トイレの待ち時間も相当長いです」


 確かにそうね。そこを解決しないとこれ以上のお客さんはさばけないわね。

 三人で厨房に入り、どうすればいいか思案する。


「センターくんたちに言って、ここを拡張してもらおうか?」


 私が言ったその時


「すみませ~ん、どなたかいらっしゃいますか~?」


 入口から声がして私たちがフロアに出ると、そこには人間ヒューマンの女性が二人いたの。


 お二人ともお揃いの清楚な白いワンピースにベルトを巻いた格好で、短髪黒髪のかわいらしい女の子なんだけど、どこかで見たことがあるような気がする……。


「フロアスタッフって、まだ募集されてますか~?」

「ええっと、はい、そうなんですが、ひょっとしてあなたたち――」


「「はい、ティモニーズでお世話になっています」」


 あー! 思い出した。ティモニーさんの両脇を固める女の子たちじゃない! 私服だと印象がぜんぜん違うから思い出すのに時間がかかっちゃったよ〜。


「私たち双子で、姉のマリアといいます」

「妹のリリアです」


「私たち、ホークル三人娘のマオ、ナオ、ミオ、のマナミーズよ!」


 これまで一度も聞いたことのないグループ名をマオが口に出した。

 私たち、マナミーズだったのか(笑)。


 お二人に店内に入ってもらい、ナオにお水をついできてもらう。


「昨日はお疲れ様でした!」

「「こちらこそ、いつもお世話になってます!」」


 清楚で可憐に見えるお二人から威勢のいい挨拶が飛び出し、びっくりした。


「ご覧のとおり、人手不足でして、お二人のような若くてかわいい方にお手伝いいただけるのはとても助かるのですが、ダンスの練習、おいそがしくないですか?」


「大丈夫です。実は私たち、ミオさんのお仕事ぶりを拝見していて、憧れていたんです」

「え?」


 マリアさんの言葉に私は目を丸くした。リリアさんが続ける。


「だってこれだけのお店、これまでお一人で回されていたんですよね? すごいじゃないですか!」


 なんということだろう! 私の働きぶりを見て、認めてくれていた人がいたなんて! しかも、人間ヒューマンが私のことをほめてくれるなんて! 信じられないっ!


「で、昨日もマオさんとナオさんと三人でフル回転されていて、素晴らしいな、と。これはできることなら是非、私たちもお手伝いせねば! と思いまして」


 マリアさんの声が救いの言葉のように思える。というか、世の中こんなにうまくいくことがあるなんて! 神様、本当にありがとう!


 試合の日も、ホーム戦ならば毎回ここに戻ってくるから、ティモニーさんを除いた9人でできるだけ手伝いますって、本当にうれしいことを言ってもらえた。


 私とマオとナオはお二人と固い握手を交わし、仲良くさせてもらうことをお願いした。もちろん選手との間ならいくらでも取り持ちますぜ! まあ、私が言わなくてもこの二人を嫌だという男はいないだろうけどね!



 この話を報告すると、マスターも大喜び。なぜって私をチームのために使える時間が増えるから。ええ、とことん使っていただいていいんですよ~。労働こそ我が喜びですからね~。


「ところでマスターにお願いがあります、三つほど」

「なんだ?」


「今の調理場を拡張したいのですが、センターくんにお願いしてもいいですか?」

「ああ、俺の方から言っておくよ」


「二つ目は、今後、昨日のようなことが続くのであれば、トイレをなんとかしないといけないな、と」

「じゃあ仮設トイレ増やすわ」


「ありがとうございます。それと収納が便利なテーブルがあるとうれしいのですが、なんとかならないかな? と思いまして。マスターの世界にありませんでしたか?」

「ん? なんだそりゃ?」


 私が今後、練習用グランドを使って試合後の打ち上げを行うプランを伝えたところ、マスターはおもむろに紙とペンを取り出し、図面を書き始めた。


「お前の言っているのは、こんなやつの事か?」

「これって……自作できるんですか?」


「そりゃできるだろ。ベンに頼んでおいてやるよ。何個ぐらい必要だ?」


 なんと、あっという間に全ての課題解決。これで1000人来たって怖くないぞ! 次節はアウェー戦だからその次のホーム戦までに万全の態勢を整えるわよ!


「あ、ミオ、言い忘れてたが、うちのチームの商品も売るからな」

「え? なんですの? それ」


「選手が着ているユニフォームとか、ジャージとか、オリジナルタオルマフラーとか、コロシアムに応援に来る人に買ってもらうんだよ」

「あー! なるほどね! マスター商売うまいね~」


「在庫を置く場所ないから、お前の家で頼むな」

「ちょ! なんでよ!」


「儲けはお前らのものになるんだから、悪くはないだろ?」


 いまいち良くわからなかったけど、マスターの話によれば、チーム関連グッズっていうのは、お客さんにコロシアムに足を運んでもらうためだったり、新しいファンを開拓するためだったりのもので、それで儲けようとは思っていないらしいのね。できるだけ多くの人に広く行き渡らせてチームの事を知ってもらうことが大事だと考えてるんだって。だから値決めは任せるし、仕入れで赤字が出なければいいから、お前らで全部やれ、だってさ。


 昔の私だったらこういったよくわからない仕事は即座に断っていたかもしれない。だけどチームのことを考えると、なんとかしてあげたいと思った。幸い今の私には共通の目的を持った仲間がいる。私が思うに、こういったことに長けているのはマオだし、まずは彼女に相談してみることにした。すると彼女はめちゃくちゃ乗り気で、ナオに商品のレパートリーについて考えさせようって話になった。そこでナオに聞いてみたところ、ティモニーズの衣装やアクセサリーもラインナップに入れよう、だって。


 こうして、ブラウザーバックス販売促進部が立ち上がったのでした。

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